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14-銀猫旅行社の誕生と会社の秘密

 次のお客さんが来る前、敬祐(ぼく)とミケは昼から、ぎゃあぎゃあと騒いでいた。


「どうしたんだい?二人とも……」

社長が起き抜けに、コーヒーを片手に声をかける。


僕はミケに、ぽこぽこ殴られながら社長に返事をした。

「いたいいたい!社長との出会いを映像で見せてくれって、頼んでるんです」


「へぇ、面白そうだね。第三者視点で見られるなら、見てみたいな」


「!? シャチョーまで酷いにゃん!!もういいにゃん!見ればいいにゃん!」


ミケは、くるっと回ると、いつもの黒装束の女性になった。


「あれっ?黒猫姿じゃないの?」

僕が思わず、そう口に出すと、ミケは静かに声を出した。

「ツアー最中は、元の姿でしか行動できないのじゃ。闇を出せるのはこの格好かツアー中のみじゃ」

「そうなんだ……、黒猫姿は元の姿なんだね」


「ミケ、ナレーション付きでお願いするよ」

社長はくすくす笑っている。


「ええい、もう!さぁ!闇を見るのじゃ……」


ミケは大きな闇を浮かべて、僕らに見えるよう映像を映し出した。


――――――


霧が降りていた。

白く、冷たく、夜のすべてを飲み込むような霧だった。


ここはもう、誰も訪れない町。

廃墟となった教会の前に、ひとりの男が立っていた。

白いコートを風になびかせ、纏うは3ピースの白いスーツ。

金色のロングヘアに、眉毛やまつげは白かった。


もはや天にも地にも属さない存在。

神に反抗し、堕とされた堕天使のなれの果て。


「……こんな場所に教会があるのか」


彼は独り言のように呟くと、静かに教会の扉を押した。


扉は、錆びた悲鳴をあげる。


中は荒れ果て、椅子もステンドグラスも崩れ落ちていた。

ただ、一番奥の聖壇だけは、不自然なほど綺麗で、静かに佇んでいる。


その聖壇の上に、ひとつの黒い影があった。

黒装束をまとい、顔をベールで隠した、細身の人影。


その者は、静かにこちらを向いた。

ベールの奥からの瞳が、じっと見据え、一言呟く。


「……汝、堕ちたる者か」


低く、澄んだ女の声が教会に響く。


白いコートの男が、微かに笑った。


「汝、仕えし者か」


「仕えし者だった者じゃ

 悪魔が裏切り、神に助けられ、こうして人間界に来た」


互いに名を問わず、ただ存在だけで理解し合った。

黒装束の女は、一歩、歩み寄った。


「名を持たぬものよ。

 何故、まだこの世界にいるのじゃ?」


「赦されないからだ。

 それでも、人の夢に縋りたいと思った。

 醜くても、愚かでも、誰かの願いに触れて叶えたい」


黒装束の女は、長い沈黙の後、

その場に膝をつき、問いかけた。


「ならば、我を使うがよい。

 我は“観る者”――霊も悪魔も観える聞こえる

 汝が見落とす罪と願いを、記録し続けよう」


白いコートの男はその申し出に、すぐには頷かなかった。


「神に許しを請うとき、

 汝が、私の贖罪を証明してくれるのか?

 それならば、私にも霊や悪魔が観える目をくれ」


「それが、汝の望みとあらば、受け取った

 わしにも希望がある。其方(そなた)の白さを分けてくれ……」


「神の元に還るとき、返してくれるか?」


「もちろんじゃ……、人間界で使いたいだけじゃ」


白いコートの男は、微笑んだ。


「では、契約だ

 私が堕ちるとき、お前が止めろ

 お前が闇に呑まれるとき、私が引き戻す」


黒装束の女は、ゆっくりと立ち上がった。


その瞬間――――――、神の声が聞こえる。


「これより、契約によって其方らが紡ぐは、時の旅路

 名もなき旅人に、願いと赦しを与える場所を創らん

 旅路を集めて記録せよ

 時の懐中時計に幸あらんことを――――――」


二人の間に、銀色の懐中時計が現れる。


白いコートの男は、その懐中時計を受け取ると、

教会の天井に向かって、静かに言葉を紡いだ。


「神よ

 時を越えて、彷徨う者に道を示せ」


その瞬間、白いコートの男の髪は銀色になり、

着ている服全てが漆黒になった。


逆に、黒き者の髪は金髪になり、黒髪と金髪を

使い分けできるようになった。


暫くすると、教会の瓦礫の中から、ガラガラと音を立て

銀のプレートが姿を現した。


「銀猫旅行社」と書かれており、

そのプレートの裏には二人の名前が彫ってあった。


白き者:黒川終一 Shuuichi Kurokawa

黒き者:ミケ Mike


――かつて名を持たなかった二人は、

その名を受け入れるように、そっと目を閉じた。



――――――



「さぁ、これで気が済んだじゃろう?」


「すごい!映画みたい!ミケありがとう!!」

僕は思わず拍手してしまった。


「ありがとう、ミケ。懐かしいね」

社長はそう言うと、ミケの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「ふふふ、よいぞもっと撫でるがいいのじゃ」

ミケは満更でもなさそうで、口がムニュッと猫の口みたいになっている。

黒装束はちょっと怖いけど、これはこれで可愛い。


暫くすると、小さな幽霊が一匹、僕のところにやって来て呟く。

「らんち……つくった……」


「わぁ、ありがとう!!」


それを聞くとミケは、金髪ロリータ姿に変身し、走って行った。

お腹がすいていたのだろう、悪いことをしてしまったかもしれない。


社長はシュンとしている僕の肩をぽんぽんと叩くと、僕と一緒に

テーブルに着き、神様に祈りを捧げた。


「天におられる我らの神よ

 美味(うま)(かて)をありがとうございます

 私達の罪をお許し下さい私達も人を許します

 私達を誘惑に陥らせず悪からお救い下さい

 ――――――アーメン」


「美味し糧!アーメン!」

ミケが大きな声で言い、すぐさまハムに齧り付いた。


「アーメン……」

僕はここに来たときから、これを唱えていたけど、僕自身は無宗教だったからなんとなく不思議な感じでいた。でも、二人の出会いと契約を見ると神様が大きく関わっていたんだとハッキリ分かった。


前は、神様も仏様もいないって思ってた。親戚が笑いながらお金を取っていったとき、僕は信じてもいなかった神様を恨んでいた。勝手な話だったなと今更ながら思う。


でもまだ、”罪を憎んで人を憎まず”は僕には出来なかった。

正月にはお参りに行き、クリスマスはツリーを飾ってケーキを食べる。

僕は、本当に日本人そのもので、楽しいことが好きだ。


「明日、お客さんが来るよ」

ミケがハムを囓ったまま、キャッキャと喜ぶ。


「何時ですか?」

「午後2時15分」

社長はもうサラダを食べ終わってしまったようで、明日の予定を話し出した。


「そういえば、明日の出社、ここじゃないからね」

「どこか別に出張するんですか?」

「違うよ。会社自体が移動するんだ」

「えっ?」


僕は混乱した。

(会社が移動?どういうことだろう……)


ミケが答える。

「建物ごと移動するんだにゃん♪」


社長が訪ねる。

「明日は南青山なんだけど、遠い?」

「たぶん20~30分で着けると思います」


「それは歩いて?それとも電車?」

「さすがにこの距離は歩けないですよ」


「できれば電車に乗せたくないんだよねぇ」

「なんでですか?」


「だって電車には悪霊がたくさんいるからさ~」

「ええぇぇえええ!?」


「敬祐は元から幽霊が見える霊媒体質だったみたいだけど、この間悪魔と直接関わって、今はもっと見えるようになってると思うんだ。今は徒歩通勤で気付かなかったと思うんだけど」


「あ、そうだ!」

社長は何かを思いついたようだが、次の言葉が怖い。


「ここ、部屋がひとつ余ってるから、越してきちゃいなよ」

「えっ、いいんですか!?」


「もちろん」


「わぁ~、なんだか楽しみです!」


僕はここに住んだ時のことを想像しながら、ランチのバジルパスタを頬張った。

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