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年末のスノーホワイト

作者: 園方 南月

雪降る12月23日。東京都内は珍しくちょっとした豪雪となっていて、地面が、空が、真っ白に染まっていた。


(これは明日、新鮮なホワイトクリスマスになりそうだ。)


俺は今、スクランブル交差点の真ん前にあるカフェで交際3ヶ月になる愛しの彼女を待っている。


丁度、頼んでいたコーヒーを店員が運んできた。一見何もなさそうな若い男性店員だが、クリスマスで街中が色とりどりのオーナメントに飾られているのとは裏腹に、瞳の奥は真っ黒な影で染まっている。要するに死んだ魚の様な目と言う事だ。


恐らく明日もシフトが入っているんだろうなと思いながら、お疲れ様です。と心の中で労いながらブラックコーヒーを一口入れる。

ほろ苦い珈琲の旨味が口に染み渡る。



ふと、まだ彼女はまだ来ていないかと下を覗き込む。

クリスマス、年末の頃。様々な人で溢れかえる都内。


目にした所にギャル3人がキャッキャッと高そうなブランドの袋を大量に持ちながらルンルンと歩いている。

また別の場所に目をやると、平日と変わらない装い、いつも通りといった感じの会社員がスタスタと歩いていたりする。





そして駅前に目をやると⋯中年の酔っぱらったオッサンが警察に取り押さえられながら暴れている様子も目に見える。都内には様々な人種がいる場所だが、交差点の駅前は本当にそれが特に顕著だ。


そんな事を思っているとトントンと肩を叩かれる。笑顔で微笑む彼女、(まち)がそこに居たのだ。

よっと手を挙げてお互いに挨拶をした後に彼女は隣の椅子に座り、その後は何でもない雑談を繰り広げる。

妹がテストで良い点数を取っただとか、母親の冷え性が酷いだとか、そんな話だ。


さっきの男性店員が沫に注文を取りにくる。


「えっと⋯じゃあこの人と同じブラックコーヒーでお願いします。」


男性店員は気づかれるか気づかれないか、そんな感じの少し恨めしそうな目で自分達を見ながら「ご注文、承りました」と言い、立ち去る。


(雰囲気悪いなぁ、あの男性店員。)


そんな事を思っていると、沫が同時にこんな事を呟く。


「何だかここに来る時、暗い雰囲気の人が明らかに多かった気がするの⋯」

「クリスマス⋯だからじゃないかな?」

「そうよね⋯。」


少しここも空気が重くなると俺はそれを無性に払拭したくなった。


「⋯沫、話したいことがある。」

「なぁに?そんな改まって⋯。」


不安そうな瞳で見つめる沫。

そんな思い、俺が吹き飛ばしてあげるから───


「⋯俺と結婚してください。」


カフェの店内で指輪の箱を開いてプロポーズをする。


「⋯!」


「その、突然かも知れないけれど⋯考え抜いた末にこの選択をしたかったんだ。こんなありふれた場所でになってしまったけれど、どうか⋯俺の想いを受け取ってくれ⋯。」


交際3ヶ月でこんな選択。

まだ相手をそんなに知ってから時間が経っていないけれど、馬鹿のやる事かも知れないけれど。


ずっと一緒に居たい。そんな風に思ってしまったんだ。



「⋯喜んで!」


だが、そんな選択を沫は快く、とびっきりの笑顔で迎えてくれたのだ。


「⋯沫!」


その瞬間に愛おしい思いが募りに募り、思わず店内なのに人目を気にせず、思いっきりハグをしてしまった。


「もう⋯秀ったら。」

「悪い⋯クリスマスで浮かれているのかな、俺。」


そんな事を話し、温もりを味わいながら外の斜め横に設置されているスクリーンを見る。




アナウンサーが巨大隕石の衝突予報を冷静な赴きで知らせていた。





あと一週間後、地球は灼熱の海で染まる事になるのだろう。

こんな今は真っ白なのに、そう思うと不思議な気分だ。


ベタ中のベタだけど、沫とこうやって抱き合っていると俯瞰して物事を見れるんだ。

これが付き合いたてのカップルの力と言う物だろうか?

我ながらに少し、フっと鼻で笑いたくなるが、これもきっと一興だ。



「秀⋯皆が仰々しく見ているよ。」

「良いじゃないか、こう言う時くらい。」


「⋯それもそうね。」




ここまでお読み頂きありがとうございました。

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