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黒猫虎 コレって純文学?

百パーセント幸福DE幸運な国

作者: 黒猫虎

 

 昔、昔。

 この大陸の東に「幸運の国」と名付けられた国があったんじゃ。

 元々は他の国と変わらない普通の国だったんじゃが、新しい王が打ち出した政策が「運に見放された者、災難続きの者を国から全員排除する」というものでな。

 王が言うには「不遇な者が国から消えれば必然的にその国は幸福で満たされるはず」というのじゃ。


 それを聞かされた時の宰相は反対したんじゃよ。


「その者たちは罪を犯したわけではないので、追放する法の根拠がありませんが……」


 じゃが、王は聞かんのじゃ。


「『不幸罪・不運罪取締法』をお前が作ればいいのだ」


 宰相は聞いたことのない罪名に戸惑ってな。


「不敬罪なら聞いたことがありますが、不幸罪と不運罪は初耳です」


 初耳なのは当然じゃ。

 なぜなら新王の思いつきなのじゃからな。


「我の国では、不幸も不運も罪よ。奴らが消えれば残るのは、つまり……?」


 ニヤリとしながら「分かるよな?」と同意を求めてくる王に「もちろんです」と頷いてみせる宰相。


 内心は、


(この男、またとんでもない事を言い出したな……)


 と呆れておったが、逆らって首が飛んではたまらんから、すぐに「不幸罪・不運罪取締法」を制定し施行するんじゃよ。


 そしてとうとう、国中から事業に失敗した者や、ギャンブルで破産した者、果てにはその個人に過失はない「ただ運が悪かった」者たちまでが集められて国から追放されてしまったんじゃ。


 すると暫くして王は「幸運の国」と国名変更し、国民の百パーセントがツイている者だけという、理論上はスーパーハッピーな国が大陸に爆誕したんじゃ。




 ん……?

「その国はそれからどうなったのか」って?



 まず、宰相がこう言って国を出たんじゃ。


「実は最近個人的に、かなり散々な出来事がありまして……」


 王様はツイていない者は自分の国から追い出したいからの。

 すぐに宰相が国を出ることを認めた。




 もちろん「散々な出来事」というのは、超ヤバい人物が上司になってしまったことを指しているのはわかるよの。



 そして、理論上は国中が百パーセントスーパーハッピーのはずの『幸運の国』じゃったが、すぐに滅亡したんじゃ。




 滅亡の理由……?


 それは伝わっていないが、大体の理由は推測できる。


 聞きたいか?

 そうじゃのう。



「国から【厄を引き受けてくれる者】【他人の不運を背負う者】それらの存在がまとめて居なくなったから」


 これじゃなかろうか?


 他人より運が悪い者というのは、もしかしたら、面倒ごとや重要な仕事を引き受けてくれる存在だった可能性がある。


 そもそもな話、幸福かどうか、ツイているかどうか、というものは、複数人いればどうしても発生するものであるしな。



 さて、我が孫たちよ。

 この話を聞いた後でも、幸運にありついている他人を素直に祝ってやれないかな。

 まだ自分に無いものを呪い続けるんじゃろうか。


 因みに、その元宰相がワシ達の先祖だったりするんじゃけどな。


 君たちは国の宰相にもなれ、愚王の元を去ることができる賢く立派な先祖がいたんじゃよ。

 その優秀な血を引いていることを覚えておいてほしい。

 そして、この宰相以外の先祖もきっとそれぞれが知恵に富んでいたに違いないんじゃ。

 そうでなければ、我らはこの世に存在していないに違いない。

 ワシはそう思うんじゃ。



 先祖が優秀だったからこそ、ワシ達は今この世に存在している。

 そのことにいつもワシは感謝している。

 もちろんワシ達も優秀でなくては、子孫を残せないかもしれない。

 いつもそのことを考えている。

 お前たちはどうじゃ?


 ん、知ってるって?

 まあ、この話何回も聞かされて耳タコじゃって?

 何度でも話して聞かせようぞ。



 運も不運も一時的なものじゃ。

 大事なのは、浮かれすぎず、悲観しすぎず、備える心構えを持つこと。

 王を反面教師として、幸福を求めるのも程々にすること。


 お前たちも、自分に子や孫が出来たら話してあげるんじゃよ。




 おしまい、じゃ。






最後までお読みくださりありがとうございますにゃ。

もしよければご指摘、ご感想など頂けますと成長に繋がりますにゃー。


・表紙絵

挿絵(By みてみん)

イラストはAI(Adobe Firefly)さん作。

題字は私作。






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― 新着の感想 ―
おおう、含蓄がありますね。
古人曰く、「禍福は糾える縄の如し」。 自他を比較すれば幸福や不幸は必ず生じてきますからね。 それで不幸な人を排斥したとしても、残った人達からまた不幸な人が出てきますし、それを繰り返していったらいずれは…
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