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──現在、貸し出し中
アレックスたちは無事に帝国議会衛兵隊の警備を撃破。
「さあ、これでようやく自由行動だ。第66分館に押し入ろう!」
「わー!」
アレックスが宣言し、エレオノーラが歓声を上げる。
「後は退屈な話だけだな。俺は付き合わんぞ」
「ああ。君は好きにしているといい、サタナエル」
サタナエルはそう言って姿を消し、アレックスたちはいよいよ第66分館に。
夜の帝国議会図書館は警察軍の警備しかおらず、図書館の司書などのスタッフは不在だ。アレックスたちは無人の図書館を歩き、第66分館へと侵入した。
「こっちに地下室がある。『禁書死霊秘法』はそこで間違いない」
「了解。行こう」
アレックスとエレオノーラは第66分館を事前に偵察した際に把握した地下室へと降りる。地下室には鉄格子の扉があり、しっかりと施錠されていた。
「カギがかけられているね」
「こうすればいいよ」
エレオノーラはダインスレイフであっさりと扉を引き裂き、ガンッと蹴り破った。
「豪快だね。だが、助かったよ。『禁書死霊秘法』を探そう!」
エレオノーラが開いた扉を潜ってアレックスは第66分館地下に入ると『禁書死霊秘法』の捜索を開始した。
「どんな本なのかは分かっているの?」
「ジョシュア先生が求めるほどだから禍々しい雰囲気を放っているものだね。そうなればすぐに分かるさ!」
「そうかな……?」
地下室には地上ほどではないが、かなりの数の本が収められていた。一部の本棚にはカギがかけられており、アレックスたちはそれらの中から未だに見たこともない魔導書『禁書死霊秘法』を探してうろうろする。
「んん。あったかね、エレオノーラ?」
「それらしきものはないよ。間違ったのかな?」
「いや。ここで間違いないはずだ」
第66分館で怪しいのはここだけで魔導書ならばこの地下に収められているとの司書からの情報も入手している。その点は間違いない。
「あ! アレックス、見て、見て!」
そこでエレオノーラが声を上げてアレックスを呼ぶ。
「これは……隠し扉か! よくやったぞ、エレオノーラ!」
エレオノーラは本棚の後ろに魔法陣で封鎖された隠し扉を発見。
「封印されているみたいだけど開けられそう?」
「こういうのは得意だ。任せてくれたまえ」
魔術による封印というのは物理的な影響を排除するものが多い。流石のエレオノーラでもダインスレイフで破壊して侵入というわけにはいかない。
魔術師が強引に物理によって破壊されることがないようにと望めば、欲望の力が及ぶ限り極力その願いが因果を超えて叶えられるのが魔術だ。
「ほいほいほいっと。こんなものだろう」
アレックスは魔法陣に魔術を解析し、それを打ち消す魔術を上書きしていった。それによって封印されていた扉が解放される。
「さあ、押し入れー!」
「行けー!」
アレックスとエレオノーラは隠し扉の向こう側に侵入。
「おお! あれは!」
「あれだよ! きっとそうだね!」
隠し扉の向こうにはガラスのケースに収められた古い本があった。1冊だけ特別に蔵書されてるそれこそがまさに魔導書『禁書死霊秘法』だ。
その『禁書死霊秘法』は何かの革で装丁されており、十字に交差した銀の鎖と南京錠によって封じられていた。
「とは言えど、簡単に持って行かせてはくれないようだ」
アレックスたちが隠し部屋に入ったのを確認したように、壁の方に立っていた無人の鎧4体が動き出した。アビゲイルやアリスと同じように下級悪魔、中級悪魔を使い魔として使用している人型だ。
「さて、こいつを蹴散らして『禁書死霊秘法』をいただこう!」
「ええ!」
アレックスとエレオノーラが再び戦闘態勢に。
「バビロンよ、来たれ!」
地下室のサイズに合わせたバビロンが召喚され、ドラゴンたるバビロンが悪魔を宿した鎧を相手に戦闘を開始した。
バビロンは火炎放射はやはり封印されており、その巨大な爪の並ぶ手で鎧を引き裂き、壁や地面に叩きつけ、強引に破壊していく。鎧は多少破壊されても動くが、バビロンはネコがネズミをいたぶるよりも残忍に鎧を破壊していった。
「その本はいただくよ!」
エレオノーラは呪いで生成した槍を鎧に突き立て、壁にピン止めして拘束。そのまま壁ごとダインスレイフで叩き切っていった。
「大した相手ではないのだが……」
「増えちゃったね」
動く鎧はさらに地下の方から現れ、隊列を組んで進んで来る。その数は50体以上はくだらないだろう。
「いつまでも相手していたら帝国議会衛兵隊の本隊や帝国鷲獅子衛兵隊がやってきてしまうよ。『禁書死霊秘法』をさっさといただいてとんずらだ!」
「りょーかい!」
エレオノーラが動く鎧を防ぎ、アレックスはガラスのケースを慎重に開ける。
「『禁書死霊秘法』。すぐに効果を及ぼす呪いの類はなさそうだが、ここまで慎重に保存されていたのだ。用心はすべきだろうね」
魔導書の中には盗難防止のために不正に接触した人間に呪いをかけるものもある。アレックスはその点に用心して『禁書死霊秘法』をガラスケースから出すと、背負っていたリュックサックに放り込んだ。
「エレオノーラ! 目標はゲットした! 逃げるぞ!」
「うん!」
アレックスが呼びかけるとエレオノーラは最後に無数の槍を形成して動く鎧に叩き込み、彼らが動けない隙に地下室から脱出した。
「無事に『禁書死霊秘法』をゲットだ。これでジョシュア先生も我々の味方になることだろう! 万事順調だ!」
「だね。では、とりあえず今日は帰ろう。あと合流地点でアリスさんたちと合流するのも忘れずに」
「ああ。アリスたちも無事に役割を果たしたようだからね」
今は帝国議会議事堂周辺にも静けさが戻ってきていた。どうやらアリスたちは一足早く撤退したようだ。
アレックスとエレオノーラはそのアリスたちに合流するために、事前に決めておいた合流地点に向けて進んだ。合流地点は帝国議会議事堂から離れたレストランとなっており、そこで落ち合う手はずだった。
「帝都は多少の騒動には動じないようだ」
アレックスは帝国議会議事堂方面で大騒ぎが起きたのに平常運転のままの帝都の繁華街を見てそう感想を呟いた。
「みんな自分の生活が一番なんだよ」
「そのようだね。我々も自分が一番だ」
帝都の繁華街にあふれる人の中をアレックスたちは目的のレストランを目指した。
「アレックス。その、手を繋いでいていい?」
「もちろんだとも、エレオノーラ。さあ、手を」
「ありがとう。人がいっぱいで迷いそうだから、ね?」
エレオノーラはアレックスの手を握り、ふたりは通りを並んで歩く。
「とても賑やかな場所だ」
「そうだね。今度はテロや泥棒じゃなくて遊びで来よう?」
「ああ。是非ともそうしよう」
アレックスたちは喧騒が賑やかな通りを目的に向けて進む。
「おっとと。ここだ、ここだ。アリスたちももう来ているだろう。さあ、入ろう!」
アレックスとエレオノーラは帝都の繁華街にある大衆向けのレストランに入店。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「待ち合わせをしているのだが。アリス・ハントという女性の名前で予約を取っている客は来ているだろう?」
「ええ。こちらです」
給仕はアレックスにそう言われて彼をテーブルに案内する。
「ああ。やっと来ましたね。死んでなかったようで何よりです」
テーブルではアリス、カミラ、トランシルヴァニア候、そしてメフィストフェレスの4名が待っていた。既にいろいろと注文したらしく、料理や飲み物が並んでいる。
シーザードレッシングのサラダであったり、フライドポテトやフライドチキンといった揚げ物の盛り合わせであったり、あるいはパンケーキであったりと実に庶民的な料理ばかりだ。
「みたまえ、諸君。私とエレオノーラは無事に魔導書『禁書死霊秘法』を強奪してきたぞ!」
「ほう。それが問題の魔導書か。どういうものなのか読んでみたか?」
「まだだよ。下手に開いてうっかり呪いが発動しても困るからね」
カミラが尋ね、アレックスがそう返す。
「さて。では、少し駄弁ったら帰るとしよう」
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