図書館襲撃作戦
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──図書館襲撃作戦
アレックスたちは帝国議会図書館で得た情報を分析するために、一度『アカデミー』の本部である地下迷宮に集合した。
「まず私から。魔導書『禁書死霊秘法』は間違いなく帝国議会図書館第66分館に存在する! 我々が襲撃するべきは第66分館だ!」
アレックスがまず帝国議会図書館第66分館に問題の『禁書死霊秘法』があるだろうことを報告。彼とアリス、カミラは偵察結果を報告した。
「というわけで、そこになければないですって感じですね」
「スーパーの品ぞろえのように語るが、まあ本当にここになければどこにあるのか見当が付かないという感じだ」
まだ第66分館で『禁書死霊秘法』を発見したわけではない。しかし、司書の言葉とジョシュアの言葉を信じるならばそこにあるはずだ。
「じゃあ、やっぱり第66分館に盗みに入るの?」
「それは警備がどうにかなりそうだったらだね。警備の方はどうだい、エレオノーラ、トランシルヴァニア候閣下?」
エレオノーラが尋ねるのにアレックスがそう言って尋ね返した。
「帝国議会衛兵隊は確かに精鋭だよ。破邪の効果があるバルムンクという量産魔剣を装備している。恐らくこれを扱う人間は対魔術師・悪魔戦闘に一定の練度があると思う」
「ふむ。破邪の魔剣か。それはまた厄介な」
「どうする?」
「計画をしっかりと立てないといけないね」
アレックスはそう言って考え込む。
「高度な破邪の魔剣持ちに確実に勝てるのは私、サタナエル、そしてエレオノーラだ。彼らを正面から相手にするのは我々が担当しなければならない」
「お任せしますよ」
アレックスがそう言い、アリスが手を振った。
「アリス! 君には仕事はあるのだよ! 感謝したまえ!」
「うへえ」
そんなアリスにアレックスが言い、アリスが嫌そうな表情を浮かべる。
「作戦を念入りに立てなければ。まともに正面から破邪魔剣持ちの警察軍の精鋭部隊の相手などしたくないよ」
破邪は魔術師にとって最悪の相手だと言える。特にアレックスのような本人が非力であり、魔術に依存しているような人間にとっては本当に最悪だ。
破邪の別名は魔術師殺しであるのが、その本質を示しているだろう。
「陽動を実行するべきだろう。この手のテロにおいて敵警備戦力の分散は基本だ、敵を目標とする警備施設から釣りだし、目標を脆弱にするのは当たり前のような戦術だろう」
「そう、だが当たり前であるがゆえにそう簡単に敵も引っかかってくれないというのが面倒なのだよ。それに敵にとっても第66分館は無視していい目標ではないと思われる。そうでなければ最初から警察軍の精鋭など」
「では、敵のもっと重要な施設を狙うことだな。相手は帝国議会衛兵隊であり、連中の受け持ちは図書館だけではない」
「ふむ。敵のもっと重要な場所、か」
カミラの言葉にアレックスが考え込む。
「議会を狙っては?」
そこでそういうのはトランシルヴァニア候だった。
「帝国議会を? ほうほう! それは面白そうだ!」
「マジですか……」
アレックスがその言葉ににやりと笑い、アリスが顔を青ざめさせる。
「なるほど。それは図書館より議会の方が大事だよね。間違いなく議会の方の事件に帝国議会衛兵隊は向かうと思う。けど、議会にどんな攻撃を仕掛けるの? 今は帝国議会は閉会中だから議員は狙えないよ」
「一応議会で重要なのは外側より中身だが、その点は問題ない。議会議事堂にも価値はある。帝国議会議事堂は帝国の皇帝に次ぐ象徴のようなものだ。火が付けば全権委任法だって成立するだろう!」
1933年にドイツで起きた国会議事堂放火事件はナチスの支配の始まりとなった。
「帝国議会議事堂を攻撃し、それを陽動とする。陽動担当はアリスとメフィスト先生、カミラ殿下、トランシルヴァニア候閣下で行こう」
「ちょっと待ってくださいよ。私は議事堂なんかを襲って斬首刑になんてなりたくないですよ!」
「もう既にカミラ殿下とトランシルヴァニア候閣下いうスパイの手助けをしているのだから手遅れだよ、アリス!」
「うわーん!」
確かに閉会中と言えど帝国の象徴である議事堂を襲えば、最悪斬首刑だ。
「アレックス。強制はすべきでないと思う。確かにこれはジョシュア先生を引き入れるためと言っても立派な犯罪だし……」
「ううむ。しかし、アリスの豊富な手ごまが物量として作戦に加わってくれないとなかなか厳しいものがあるのだが。私やエレオノーラは単独戦力としては大きいが、受けて持てる物理的な範囲が狭い」
エレオノーラが忠言するのにアレックスがそう言ってアリスの方を見る。
アリスの優位な点は悪魔を次々に使い魔にして物量戦を仕掛けられるという点だ。その物量は広範囲の戦線を担当でき、今回の陽動作戦においても、多くの敵戦力を拘置できるだろう。
これが欠けると作戦成功は難しい。
「いいですよ。参加しますよ。そりゃあ、いろいろと言いたいことはありますが、私も一応エレオノーラさんたちの仲間ですからね」
「ありがとう、アリスさん!」
そこでアリスが折れ、エレオノーラが満面の笑みを浮かべる。
「問題は警備の規模だが」
「それについては調べておきましたよ。ご説明しましょう」
トランシルヴァニア候がそう言って帝国議会衛兵隊の戦力について説明。
「まず帝国議会衛兵隊の規模は連隊規模です。歩兵、騎兵、魔術師で構成される混成部隊であり、即応力も悪くはありません。指揮官は現在アルトゥール・ヴォルフ中佐なる人物が執っています」
「どこかで聞いたような名前だな」
カミラたちは既にヴォルフ中佐の名を忘れつつあった。
「帝国議会衛兵隊の詳細な編成ですが、これを見てください」
トランシルヴァニア候はそう言って紙を広げる。そこには帝国議会衛兵隊の詳細な編成が記されていた。
「第1機動衛兵大隊、第2機動衛兵大隊、第1騎馬衛兵大隊、第1魔術衛兵大隊が根幹となる部隊だね。それから儀仗隊などが付随すると」
「ええ。そして帝国議会図書館の警備は第1機動衛兵大隊から抽出された部隊が行っているようですな。通常時は1個小隊規模だということですが」
「陽動に失敗すれば1個連隊の警察軍部隊が敵に回ると。いやはや!」
「その場合は陽動どころか作戦そのものが失敗でしょう。そして、我々には恐らくセカンドチャンスはない」
「そう、一発勝負だ、トランシルヴァニア候閣下。予行練習も何もなし。一発で我々は決めなければならない」
トランシルヴァニア候が言い、アレックスが頷く。
予行練習を行うこともできなければ、後になってやり直すこともできない。まさに一発勝負の大博打である。
「というわけで念入りに作戦を立て、十二分に準備しよう。そこで作戦会議!」
アレックスはそう言って帝国議会図書館周辺の地図を広げる。
「帝国議会図書館はここで議事堂はここだ。帝国議会衛兵隊の駐屯地はここ」
「ふむふむ。それは分かったけどどう動けばいいんだろう?」
「私にもさっぱり分からない」
素人ではその土地にあるものが分かっても、どうこうすればいいかは謎だ。
「陽動では我々の狙いを偽りつつも、それこそが目的と相手に信じ込ませなければなりません。あるいはこれを阻止しなければ相手が大変な不都合を被るという状況を作り上げるか、です」
「不都合な状況。なるほど。では、議事堂への攻撃は堂々と行おう。大戦力を以てして表から堂々とだ。これを阻止できなければ警察軍は大恥をかく!」
そのような話し合いをしながらアレックスたちが作戦を決定していった。
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