大図書館のカルト
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──大図書館のカルト
アレックスたちは早速ジョシュアの通う大図書館の調査を開始。
「ジョシュア先生を視認した。大図書館に入っていくぞ」
「ええ。予定通りだね」
学園の講義が一通り終わると、ジョシュアがいそいそと大図書館に向かって行くのがアレックスたちによって目撃された。
「アリス! 使い魔出撃だ! ゴーゴー!」
「うるさいです。今やりますから黙っててください」
アレックスが急かす中でアリスが下級悪魔を宿した人形を地面に置く。
「さあ、調べてきてください」
人形はアリスにそういわれるとさささと大図書館に向けて駆けていく。
下級悪魔からの映像と音声情報がアレックスたちに伝えられる中で、ジョシュアは大図書館の中に入っていった。
ジョシュアはまだアリスの人形に気づいた様子はなく、アリスの人形はとことことジョシュアを尾行していく。
「彼は何をしているのだね?」
「本を借りているみたいですね」
ジョシュアはエレオノーラたちも会った老齢の司書と話し、本を借りていた。それから大図書館の中をさらに移動する。
「むむむ。本を読んでいるぞ」
「読んでるね」
「黒魔術っぽいことはしていないな……」
今のところ、魔導書もなければ黒魔術もない。ジョシュアはただ噂通り研究熱心にしているというだけであった。
「おや? 誰か近づいてきたぞ」
「ギザイア博士だね。ジョシュア先生の研究仲間だよ」
「ふむふむ」
ここでジョシュアがギザイアと接触。何やら話し込んでいる。
話は持ち上がっているのかいつまで続く。
30分……1時間……2時間……3時間……。
「……そろそろ何か動きはないのかね?」
「私が聞きたいですよ……」
流石によく分からない言語学の話を何時間も盗み聞きしてアレックスたちはすっかり退屈してしまっていた。
「ん? アレックス、アリスさん。ジョシュア先生たちが移動し始めたよ」
「おっと! ついに何かしらの行動に出たのかい?」
「分からない。見てみて」
アレックスたちはエレオノーラに言われて下級悪魔が送ってくる映像を見る。それによればジョシュアとギザイアは大図書館の中を出口ではない方向に向けて進んでいた。
人形に宿った下級悪魔がこそこそと後を追い、ジョシュアたちがどこに向かっているかを突き止めようとする。
「おや? 本棚が……動いたぞ!」
「おおー。隠し通路みたいだよ」
「何かありそうだね」
ジョシュアたちは何と大図書館の1階にある本棚をずずずと動かし、その先にある隠し通路の扉を開いた。その扉の先は真っ暗で何も見えない。
「あ! ジョシュア先生が気づいた!」
そこで下級悪魔の映像を見ているエレオノーラたちとジョシュアの目が合い、ジョシュアがぎょっとした表情を浮かべる。
「消せ! 消すんだ、アリス!」
「了解です!」
すぐさまアリスは下級悪魔との使い魔の契約を破棄し、下級悪魔とともに人形が黒い灰になって消えた。
「ふう。しかし、大きな収穫があったね。大図書館には隠し部屋がある!」
「ですね。ちょっとわくわくしますよ」
大図書館には隠し部屋が存在するということが明らかになった。
どういう目的で、どういう人種が使用しているかは謎だが、隠された怪しげな空間が存在するという事実にアレックスたちが盛り上がる。
「けど、どうやって調べる? 勝手に入るわけにはいかないし……」
「アリスの人形も気づかれてしまっている。もう人形は使えない。我々が乗り込むしかなさそうだ。しかし、十分に準備しなければ既に警戒されているだろうからね」
「うーん。困ったね」
秘密の入り口は見つけたが、そこに勝手に近づくことはできない。
アレックスたちの目的はジョシュアを調べることであり、別に大図書館を調べることではないのだ。隠し部屋を無理やり調査した結果、ジョシュアに警戒され、近づけなくなっては本末転倒。
「大図書館のスタッフを味方にできればだいぶ楽に調べられるのだが」
「それならカミラ殿下に頼んでみたらどうです? 王族の権力で何とか、と」
「頼んでみよう。早速カミラ殿下に会いに行く!」
「はいはい」
そして、アレックスたちは権力担当のカミラに会いに向かう。
「カミラ殿下はどこだ?」
「この時間帯なら友達と一緒に過ごしてるかな?」
カミラを探すと彼女は級友たちと食堂でお茶をしながら談笑していた。
「やあやあ、カミラ殿下、カミラ殿下! 今いいかね?」
「ああ。何だ、アレックス?」
カミラは友人たちを帰らせるとアレックスの方を向く。
「少し手伝ってもらいたいことがある。というか、オーウェル機関の仕事だと言っていたのに友人と遊んでいるだけではないか!」
「これが仕事だ。相手はどれも大きな貴族の家の娘ばかり。私が魅了を使って連中とのコネを作っているということも理解できないのか?」
「それはそれは。だが、この仕事は手伝ってもらうよ」
「まず先に何かを言え」
アレックスの言葉にカミラがうんざりしたように促す。
「大図書館に何と隠し部屋がある!」
「で?」
「それを調査するに決まっているだろう? ジョシュア先生とも関係があるようだしね。王族の権力をぶいぶい言わせてくれたまえ!」
「はあ。分かった。手伝ってやる」
カミラが渋々というように頷いた。
「すぐに向かうぞ。私も暇ではないのでな」
「おお。前向きで助かるよ、カミラ殿下!」
こうしてカミラが加わり再びアレックスたちは大図書館に戻る。
「カミラ殿下だけで調べるの?」
「いいや。エレオノーラ、君はカミラ殿下と一緒に行って調べてきてくれ。アリスは私と万が一の際のバックアップだ」
「分かった」
エレオノーラはカミラとともに大図書館に入る。
「大図書館のスタッフを味方に付ければ隠し部屋について何か聞き出せるかも。そうでないにしても情報は手に入ると思う」
「分かった。司書を当たって見るか」
エレオノーラはカミラにそういい、カミラはカウンターに向かう。
「お前、少しいいか?」
「何か?」
今日カウンターにいるのは以前の老齢の司書ではなく、中年の女性司書だった。彼女は怪訝そうにカミラの方を見る。
「尋ねたいことがある。よく聞け」
そこでカミラの瞳が赤く光り、魅了が発動。
「……はい、何でしょうか……?」
「この大図書館に隠し部屋があるな? それについて知っていることを教えろ」
「隠し部屋……?」
司書はぼんやりとした表情で首を傾げた。
「精神学と物質学の辺りにある本棚の後ろに通路がありますよね? あれについて教えてください。何があるんですか?」
「あそこには大図書館の特別蔵書室があります……」
「特別蔵書室?」
「『神の叡智』のメンバーでなければ入れないし、蔵書を見ることもできません……」
「ふむふむ」
エレオノーラは司書が言ったことをメモしていく。
「おい。いいから私たちも入らせろ。何があるのか見たい」
「駄目です。応じられません。はっ……!」
「ちっ。抵抗されたか」
そこで司書が目を覚ましたように目を見開き、カミラがそう悪態をつく。
「行くぞ、エレオノーラ。これ以上は無理だ」
「分かった」
そして、カミラとエレオノーラは退散したのだった。
「『神の叡智』って一体何なんだろう?」
「さあな。しかし、私も少し興味が湧いた。手伝ってやる」
エレオノーラが首を傾げるのにカミラはそういった。
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