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臨時の会合

……………………


 ──臨時の会合



 アレックスはいつものように学生寮の部屋からポータルで地下に向かおうとした。


 が、ポータルが機能していない。


「おや? どういうことだろうか?」


 アレックスは首を傾げる。


 仕方がないので一度アドルフ3世記念講堂の方に向かい、そこから地下迷宮を目指した。いつものようにアドルフ3世記念講堂には人が少ない。


「トランシルヴァニア候閣下! そこで何を?」


 そして、地下迷宮の入り口に向かうとトランシルヴァニア候の姿があった。それに迷宮の主であるアビゲイルの姿も。


「やあ、アレックス君。アビゲイル女史と少し話をしていてね」


「技術的な話し合いだ」


 トランシルヴァニア候は苦笑を浮かべてそういい、アビゲイルは少しばかり憤っている様子だった。


「おやおや。トランシルヴァニア候閣下が喧嘩でも売りましたかね?」


「技術的な話し合いだといっている。この吸血鬼には腹が立つものの、その魔術師としての知識には感服するものがある。腹は立つが」


「ふむ? と言いますと?」


「魔術は個人の才能によるもの。それは変わらないが、才能の磨き方は進歩したということだ。私の管理する地下迷宮もその機能が向上させられるかもしれない」


「なるほど。しかし、ポータルは機能させていただけないだろうか?」


「まだ無理だ。今は地下迷宮の機能を更新している」


「そうですか」


 こうなると『アカデミー』の会合を地下迷宮で開くことはできない。


「仕方がない。エレオノーラたちには寮の部屋で会おう」


 ここら辺で一度エレオノーラたちと調査した情報を照合しておきたかった。


 そういうことでアレックスは寮の部屋でエレオノーラたちを待った。


「アレックス? 今日は地下迷宮に行かないの?」


「アビゲイル女史がご機嫌斜めで新装リニューアル中なのだよ。というわけで、今日の『アカデミー』の会合はここで開こう」


 エレオノーラたちがやってきて同じように首を傾げるのにアレックスがそう返す。


「それぞれ分かったことを報告しよう。まずジョシュア先生について調べた私から」


 アレックスはそういって語りだす。


「ジョシュア先生は教えることにはとことん興味がないらしい。他の教師陣からは不満の嵐だったよ。教員たちの開く会議にも出席しないし、催し物の手伝いもしないと。ただ研究分野で秀でているから首にはなっていないようだ」


「あの人、そんなにやる気がないんです? そんなやる気のない人が私たちみたいなお遊び集団に付き合ってくれますかね?」


「お遊び集団ではない、アリス! 我々は『アカデミー』だ!」


「はいはい」


 アリスはどうでもよさそうに返した。


「しかし、アリスの懸念も全く的外れというものでもない。ここまで怠惰な人間だとは私も想像していなかった。かなりのメリットを示さないと彼はこちらに靡こうとはしないだろう。それが問題だ」


「そうだね。本業である教師としての仕事すらまともにせずに研究ばっかりしている人をどうやって引き入れるべきか……」


「研究以外に価値を見出してくれるといいのだが。そうでなければ困る」


 ジョシュアの関心は今のところ、自身の研究に関するもののみだ。


「大図書館ではどうだった?」


「まだよく情報が集まったわけじゃないけど、ジョシュア先生は研究仲間とは仲良くしているみたいだよ。今日、ひとりジョシュア先生の研究仲間に会ってきた。ただ、調べるべきは大図書館そのものかも」


「ふむ? というと?」


「何かが隠されている感じがするんだ。アリスさんと調べてみるつもり」


「よければ私も手伝おう。ジョシュア先生は周りはこれ以上調べても彼が社交的でないことがはっきりするだけだろうしね」


「本当? ありがとう、アレックス」


 アレックスもエレオノーラたちの調査に加わることに。


「しかし、調査の方法はどうやって?」


「私の使い魔(ファミリア)を使ってジョシュア先生や彼の研究仲間などを追跡してみようかと思っています。大図書館に本当に何か隠してあれば、それで分かる……かもしれないです」


「なるほど! 素晴らしいぞ!」


「それは結構で」


 方法はアリスの使い魔(ファミリア)による追跡だ。


使い魔(ファミリア)に気づけるならばそれだけで黒魔術に何らかの知識がある証明になる。というわけで、アリスさんに頼って見て、何か掴めたら大図書館に飛び込んで調べよう」


「オーケーだ。そうしよう」


 エレオノーラが言うように黒魔術に気づけるならば、黒魔術に無知ではないということだ。レーダーの仕組みを知らなければレーダーを探知することはできないというのと同じようなことである。


「いつから始める?」


「なるべく急ぎたいね。もう既にギザイア博士には接触しているから、あまり時間を置くと私たちがジョシュア先生を調べていることに気づかれてしまいそう」


「確かに。私も聞き込みをしてジョシュア先生について調べる許可をもらったが、急がないと許可は取り消されてしまうだろう」


「じゃあ、急がないとね」


 アレックスも既にジョシュアを調べていることを他人に伝えてしまっている。


「はあ。急ぐって言っても私が頑張るんですよ、おふたりさん?」


「そうだぞ。急げ、アリス!」


「むがーっ!」


 当の調査担当を放置して話を進めるアレックスたちにアリスが憤慨。


「アリスさん。いつものようにあなたが頼りだよ。お願いします」


「ええ、ええ。やりましょう。吸血鬼がパーティー中のパレス・オブ・カイゼルブルクに忍び込ませるよりマシですし」


 エレオノーラは丁重にアリスに頼み、アリスは承諾した。


 いつものようにアリスが調査担当である。いつものことながらアリスのその能力は極めて有用だった。


「アリスの魔術はまさにドローンのようだからね」


「ドローン……?」


 戦闘にしか使えないアレックスのバビロンやエレオノーラの魔剣ダインスレイフではこの手の目的には役に立たない。


 そして、アレックスたちがジョシュアについての調査を決めていたとき、トランシルヴァニア候とアビゲイルの話は続いていた。


「つまりは黒魔術も進化したということですよ。一見してこの分野は進歩のないものだと思われていたようですがね」


「黒魔術は結局のところは悪魔の力を人間が借りて行使するもの。黒魔術の進歩というのは悪魔の進化を意味する。それがなされたと?」


 トランシルヴァニア候がどこからか持ち出した椅子に座って語るのにアビゲイルがそう尋ね返した。


「悪魔の力がどのように構成されていったかをご存じでしょうか?」


「彼らは古の時代より神への反逆によって力を得てきた。元を正せば彼らは異教の神格であり、それらが見捨てられたことで悪魔へと変わった。彼らの力は異教の神格の力である。違うのか?」


「彼らは異教の神格であったことはその通り。ですが、もうそのような時代は遥か昔であり、今は悪魔に完全に染まっている。そして、悪魔とは地上の浅ましきものたちの、その愚かな欲望に応じて力を得てきた」


「なるほど。欲望が多彩化し、それによって悪魔の力も分化したと」


「まさに。その通りです。良くも悪くも欲望は物事を突き動かす原動力となりえます。悪魔も欲望のエネルギーによって力を付けてきたのです」


 欲望。何かを欲するということ。それはそれだけで力になる。少なくともこの意志の力が、そのまま物理的な力となる魔術が存在するこの世界においては。


「それで、吸血鬼の侯爵よ。私の地下迷宮の何がその進化した悪魔の力で帰られるというのだろうか? その進んだ知識を聞かせてはもらえないか?」


「もちろんだ。まず地下迷宮のポータルだが、あれは現在固定された出入り口に限定されている。それをいくつかの場所に分散させること。それから好きな場所にいつでも展開させることができるようになる」


「ほうほう。それは興味深い。取り入れられるのであれば取り入れたい」


「では、どのような方法でそれを達成できるか概要を教えよう。全ては結局は意志の問題であり、黒魔術であろうと全ての人間が同じやり方で同じ結果がだせるわけではないのだから、その点は諦めてくれ」


 黒魔術の再現性は全くないか、ひどく低い。


「いいだろう。他に使えそうなものは? 私も初心に帰っていろいろと学ぶことにしよう。ぜひ教えを乞いたい」


「喜んで。次に改良できるのは守護者(ガーディアン)だ。今の守護者(ガーディアン)はいささか時代遅れとみている」


「どのような改良が可能なのだろうか?」


守護者(ガーディアン)には下級か中級悪魔を使っていたようだが、今ではあなたの指揮下から外れている。それはあなたの願望が、欲望が不足していたからだ」


 アビゲイルが尋ねるのにトランシルヴァニア候がそう説明。


「永遠を望みたまえ。永久にこの迷宮を守るように、と。昔と違って悪魔たちはその求めに応じるようになっている。永遠に忠誠を誓い、外敵を絶対に排除する。そのような望みは今では過ぎた望みではないのだよ」


「欲望の進化、か。これから人間はさらに多くのことを望むのだろう」


 アビゲイルがトランシルヴァニア候の言葉にそう呟く。


「そして、悪魔たちは欲望が増せば増すほど恐ろしくなっていくのだ」


……………………

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