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作戦会議の時間だ

……………………


 ──作戦会議の時間だ



 カミラにスパイかと問われたエレオノーラ。


「……? いえ、そういう知り合いはいませんが……」


「そうか。ならいい」


 カミラは次の瞬間には元の瞳に戻っていた。


 赤く、血のようだが、美しい瞳だ。


「それでは殿下。私はそろそろ失礼を。これを後でお読みください」


「ああ。ご苦労だった、トランシルヴァニア候。それなりに楽しかったぞ」


 トランシルヴァニア候はテーブルに紙の便箋を残すと席を立って去った。


「エレオノーラ。今度、もう一度お前の友人であるアレックスに会わせてくれないか。さっきお前が言ったことが引っかかっている」


「ええ。構いませんよ。いつにします?」


「日程は後で伝える。私もエドワード兄上とは不仲でな。まあ、仲のいい王族たちなどいうのがこの世に存在するはずもないのだが」


 カミラはエレオノーラにそう言い、皿を片付けるように給仕に合図した。


「王族は確かに仲がいいというのは少ないね。相続するものの大きさを考えたら当然なのかもしれないけれど」


「ああ。かつて王族は子孫に等しく財産を分割した。その結果、偉大なる王や皇帝の下で大帝国が生まれては次の代でバラバラに分裂するという時代が続いた。そして帝国の分裂は得てして戦争を招く」


「時代が進むと子孫のうち長子だけが相続することになる」


「そして、その不平等な分配は王族同士の陰謀合戦を招いた。自らが全てを統べる王となるための骨肉の争いだ。この世に存在する王族の歴史というのは浅ましく、愚かで、血なまぐさい」


 自らも王族であるにかかわらず、カミラはそうエレオノーラに告げた。


 王族の歴史は奪い合いの歴史だ。それは外国と争って奪われるよりも、身内との王冠や領土の奪い合いの方が大きく、醜い争いの歴史である。


「故に、だ。確かに鉄血旅団というものは私にとっての脅威となりえるのだ。エドワード兄上は必要があれば平気で兄弟姉妹を手にかけるだろう。独りよがりな愛国心を理由にしながらな」


「殿下。私でよければ力になるよ」


「ああ。お前は信頼できそうだ。頼らせてもらうとしよう」


 そして昼食会は終わり、エレオノーラは校舎に戻った。


「エレオノーラ! 今日は食堂にいなかったね? お昼はちゃんと食べたかい?」


 そこで次の講義を一緒に受けるアレックスと合流。早速、その彼がエレオノーラに声をかけてきた。


「食べたよ。カミラ殿下に誘われて、そこで。で、トランシルヴァニア候がいたんだ」


「ほう。学園にまで現れるとは神出鬼没な御仁だ。何か掴めたかね?」


 エレオノーラがワクワクした様子で話すのにアレックスがひそひそと尋ねる。


「まず、アレックスが言っていたウィリアム・ブランドレスって人をカミラ殿下が調べている。けど、トランシルヴァニア候は何も把握していなかったみたい」


「ん? どうやってそれを知ったのだい?」


「聞いたの。カミラ殿下にウィリアム・ブランドレスって人物の話を出して」


「ほうほう。君は大胆だな。トランシルヴァニア候の反応は?」


「困惑している様子だったけど、そのウィリアムって人は知らないって」


 そう言われてアレックスが考え込む。


「……どうも妙だな。トランシルヴァニア候が鉄血旅団についてちゃんと調査していれば分かりそうなものだが……」


「あえて知らないふりをした、とか?」


「考えられる。トランシルヴァニア候はさほど王室に忠誠心はないはずだからね」


「ええ。今日の態度を見る限りでは。王族と雑草を比べてみたりとかしてたから」


「興味深い話だが、計画を急がなければならないな。一日も早く『フィッシャーマン』についての情報を入手し、カミラ殿下に私のいうことを信じさせなければ」


「それなんだけどカミラ殿下の方からアレックスに会いたいって」


「彼女が?」


 エレオノーラが言うのにアレックスは怪訝そうな顔をした。


「もしかしたら信頼を得られていたのかも。それなら『フィッシャーマン』を捕まえてカミラ殿下を脅す必要はなくなるよ!」


「ううむ。いささか楽観的すぎる気もするが……」


 エレオノーラはこれで万事解決という様子だったが、アレックスはそれに同意できないようだった。


「しかし、複合的に進めるべきだね。カミラ殿下には会うとしよう。その上で『フィッシャーマン』を探すことも継続する。2本道を作ればどちらかが崩れても安心だ」


「そうね。そうしよう。いつ会うかは後で連絡が来るから知らせるよ」


「了解した。他に何かなかったかい? トランシルヴァニア候からカミラ殿下にメッセージなどは?」


「えっと。ああ! 何か便箋を渡していたよ。後で読んでって」


「おお! それは機密情報に違いない! アリスに調査させよう!」


 エレオノーラの報告にアレックスは大喜びでアリスをこき使うことを考える。


「あ。そろそろ講義が始まるよ。急がないと!」


「おっとっと! まだまだ学生としての本分を果たさなければね」


 そしてアレックスたちは講義室へと急いだ。


 講義が終わってからはアリスと合流し、『アカデミー』の本部で話し合いである。


「というわけで、エレオノーラがカミラ殿下に再接触した結果、カミラ殿下の興味が引けたこととトランシルヴァニア候がカミラ殿下に機密情報を渡したことが分かった」


「へえ。それはよかったじゃないですか。もう監視はしなくていいです?」


「何を言っているんだね、アリス? 機密情報を盗み見てくるという大事な仕事が君にはあるだろう?」


「うへえ」


 アリスはアレックスの言葉にげっそり。


「ねえ、アレックス。例の魔導書は見つかったの?」


「まだだが、次の会合までには見つけておく。というよりも、カミラ殿下に会える機会があるうちに手に入れなければ流石に不味い。できればカミラ殿下を辿ってトランシルヴァニア候に使いたい魔導書なのだ」


「トランシルヴァニア候に使う魔導書……?」


 ここまでの情報ではアレックスが求めている『虚偽の理論』なる魔導書の効果は未だにさっぱりであった。


「私は地下迷宮の捜索を急ごう。暫くは徹夜だ」


「よければ私も手伝うよ」


「いいや。君はカミラ殿下からの連絡を待つ身だ、エレオノーラ。君が疑われると作戦は失敗になってしまう。可能限りいつも通りに振る舞ってくれ」


「うん。でも、無理はしないでね、アレックス」


「もちろんだとも!」


 エレオノーラが心配するのにアレックスがそう請け負った。


「アリスは機密情報の入手で、エレオノーラはカミラ殿下との接触の維持で、私は魔導書の捜索及びカミラ殿下の信頼獲得だ」


「俺は?」


 そこでサタナエルがそう質問してくる。


「サタナエルは暫くエレオノーラと行動してもらえるかい? カミラ殿下とその周囲がどう行動するか分からない。迷宮探索は私だけでも十分だ」


「いいだろう。面倒を見ておいてやる。ありがたく思え」


「君にはいつだって感謝しているよ」


 サタナエルは鼻を鳴らしてそう言い、アレックスはにやりと笑った。


「さあ、行動開始だ、諸君! スパイ作戦もいよいよ大詰めだぞ!」


「おー!」


 そして、アレックスたちが行動を開始。


「本当に仲間になってくれるんですかね、カミラ殿下? というか、カミラ殿下を仲間にしたら私たちもスパイってことになるんじゃ……」


「それが発覚したときは仲良く斬首刑だよ、アリス!」


「勘弁してください」


 アレックスがけらけらと笑って言うのにアリスはげっそり。


「冗談は置いておいて、だ。実際、カミラ殿下を引き入れるということにはリスクもある。我々は黒魔術師であり、それもリスクなのだが、カミラ殿下の件は既に帝国が調査を進めているリスクだということ」


 そう、アレックスたちはこれまで黒魔術師だと疑われて調査されるようなことはなかったが、カミラは帝国内務省国家保衛局によって調査対象になっている。


「下手をするとアリスが懸念したように我々もスパイの仲間として摘発されるか、あるいは黒魔術師だと発覚して逮捕されてしまうだろう。だが、正直、私はそこまで心配はしていない。カミラ殿下がへまをしなければいいのだから」


「カミラ殿下は上手くやるってこと?」


「そう、カミラ殿下は本職のスパイだよ。その上に王族であるからこそ、この『アカデミー』に引き入れたいのだがね」


 エレオノーラが疑問を呈するのにアレックスがそう答えた。


「さて、捕らぬ狸の皮算用で心配する前にカミラ殿下を引き入れることに注力だ!」


……………………

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