聖騎士の戦い
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──聖騎士の戦い
聖ゲオルギウス騎士団の聖騎士であるアウグストとエミリーを襲撃した竜骨の襲撃者。その巨大な2本の刃が振るわれ、アウグストたちに襲い掛かる。
「応戦だ、イーストン副団長!」
「了解!」
戦況は2対1なれど相手は明らかに手練れであり、かつ上級悪魔の漂わせる濃く、淀んだ魔力を発している。その正体は分からないが、ただものではないことだけは確かだ。
「ふん!」
竜骨の襲撃者によって振り回すようにして叩きつけられた刃がアウグストの握る剣によって迎え撃たれた。激しい金属音こそ鳴り響けど、アウグストはびくともせず、逆に竜骨の襲撃者の刃が弾かれる。
「ほう? 面白いな。古代神術、か」
「すぐに見破るとはただものではないな!」
神術はその力の源を神や天使に由来する魔術のことであり、古代神術は太古の時代に原始的な人類が神から与えられたとされるもの。
「俺は神術で人の傷や病を癒したり、召喚武器を使ったりという細かなことはできない。シンプルに強力な力で切るのみだ。それにはこの古代神術は向いている!」
古代神術は非常に強力でシンプルな効果を発するが、その代償としてかなりの体力を消耗する。そんな大威力であるが高コストな魔術だ。
そして、同時にこれこそアウグストが得意とする魔術であった。
「いくぞ!」
彼は古代の英雄たちも使ったとされる原始的な魔術で自らの肉体を強化し、それによって竜骨の襲撃者と戦う。
魔術には再現性がないが、それは神術においてもほぼ同様。
ただ、呪いにおける選択する意志の幅の狭さと意志の表明の規定が、呪いと同様に神術にある程度の繰り返しの有効性を与えていた。
神術においてその意志は神への信仰に限定される。神から力を与えられるものとして、その意志は純粋な信仰心に限定されるのだ。
そして意志の表明もまた信仰心に由来するもので行われる。十字架や天使の白い翼、あるいは純白などの記号がその意志の表明方法においてある程度決まった道筋を作っており、術者はそれを繰り返す。
これからのことによって大昔から人々は出力量こそ再現性がなく、異なれど、同様の魔術を英雄たちから引き継いできたのである。
「面白い。面白いが、それだけで俺の相手は務まらんぞ、聖騎士?」
古代神術で己を強化しているアウグストに2本の刃で竜骨の襲撃者が連撃を放ち、攻勢に転じようとした彼を防戦一方に追い込んでいく。
「不味いな……。思った以上に強い……!」
竜骨の襲撃者の猛攻を前にアウグストが唸る。
「団長。支援します!」
ここでエミリーが乱入。
「エクスカリバー・イミテーション!」
エミリーの腰に下げた鞘から抜かれたその剣は光り輝き、竜骨の襲撃者を横合いから殴りつけた。刃がその皮膚を裂き、鮮血が舞い上がる。
「ははっ! 実に楽しいぞ。古代神術の次は魔剣か。たまには聖騎士を相手にするのも楽しいものだ」
「魔剣ではなく聖剣ですよ!」
魔剣にはいくつかの種類が存在する。その細かな分類を大きく分けると精神魔剣と物質魔剣という分類になる。
純粋な魔術と呪術による産物としての魔剣である精神魔剣。エレオノーラの魔剣ダインスレイフやサタンの『七つの王冠』などが該当する。
ダインスレイフなどはさらにカテゴリーを分けることによって特殊精神魔剣、あるいは神話兵装と分類される。
他にも伝説的なものではないものの、近接戦闘や遠距離火力として使用可能な無名の精神魔剣は一般精神魔剣として多数存在し、魔術師にとってはポピュラーな攻撃手段として使用されている。
それらの多くは魔術によって呼び出されるものであり、召喚武器としても分類される。その威力は通常の武器よりも遥かに高く、魔術による斬撃以外の効果も付与されていることが多い。
そして、もうひとつはかつて存在した偉大な魔術師が生み出した特異な原材料を利用して鍛えられた魔剣である物質魔剣だ。
魔術によって生み出されるのは炎や水などの自然現象ばかりではない。科学では説明がつかない未知の物質も時として生み出され、ひとりの魔術師によって生み出された物質としてのその産物は後世にまで引き継がれる。
ファンタジーでは定番のオリハルコンと言った魔法の鉱物とでもいうべきものだ。あるものは非常に強固であり、あるものは魔力を含むなど様々な特異性を有する。
それがエミリーが振るうエクスカリバー・イミテーションであった。
「聖剣も魔剣も大して変わるまい。人を殺すために悪意が込められた刃だ。さあ、せいぜいそのちゃちな魔剣を振るって俺を楽しませろ」
竜骨の襲撃者はそう言い放つとアウグストと同時にエミリーの相手を始めた。アウグストとエミリーが次々に斬撃を放つのを迎え撃ち、その上で攻撃に出る。
「クソ。まるで巨人を相手にしているかのようだ。この力はどこから……!」
「今は考えずに攻撃を続けてください、アウグスト! 死にますよ!」
「分かっている!」
竜骨の襲撃者の猛攻は反撃をすることをやめれば一瞬でミンチにされそうなほどに激しいものであった。2本の刃がしなる枝のように素早く、そして力強く、斬撃に繰り出されている。油断すれば真っ二つだ。
「さあ、もっと俺を楽しませろ、聖騎士ども。殺すぞ」
「何としても退けるぞ!」
アウグストは竜骨の襲撃者に応戦し、その戦況は何とか膠着を維持していた。だが、一瞬でも油断すれば死ぬのはアウグストたちだ。
「このままでは……」
アウグストがそのような戦況を悟ったときだ。
突然、轟音が響いた。それに続いて甲高い獣の雄たけびが聞こえる。
「何だ?」
竜骨の襲撃者が一旦アウグストたちから距離を取って周囲を見渡すのに、寮の中庭の方から巨大な人型が現れて、竜骨の襲撃者とアウグストたちが戦闘を繰り広げている地点に向かってきた。
ゆっくりと巨大な人型が近づく。
「くだらんことをしやがって。興覚めだ」
竜骨の襲撃者はそう吐き捨てると2本の剣をどこかに消し、同時に寮の屋上に飛び上がってそのまま姿を消したのだった。
「クソ。助かった。九死に一生だな。あとは雑魚だ」
「ええ。あれはただの下級悪魔ですね。動物霊が変化したものでしょう」
「叩きのめすぞ、イーストン副団長!」
人型の方の正体は動物霊が変化した下級悪魔だとすぐに見破られた。図体こそ大きいが、頭は鈍く、力もさほどない。
それにアウグストたちが一斉に襲い掛かる。
アウグストが古代神術の力で振るうただの鋼鉄の剣も、エミリーが振るう聖剣エクスカリバー・イミテーションも下級悪魔を宿した人型を八つ裂きにし、一瞬でそれを撃破してしまった。
「楽勝だな。だが、さっきの奴は……」
「爵位持ちの上級悪魔、なんてものではありませんでしたね。下手をするぞ王族級です。その手の大悪魔が確認された場合、法王庁に報告しなければなりません」
「お偉いさんに報告するのは苦手だし、俺たちが法王庁に向かったら、誰があの化け物について調べるというんだ?」
「法王庁はしかるべき準備ができ次第調査を開始するというでしょう」
「うんざりだな」
エミリーの言葉にアウグストが吐き捨てる。
「元々我々がここにいるのは帝国内務省から捜査協力の依頼を受けてのことです。彼らにも報告する必要があります。あの化け物だけでなく、その後で乱入してきた下級悪魔についても」
「今回の件に連中が関係あると思うか?」
「分かりません。ですが、我々は我々の敵と戦うのみです」
「そうだな」
こうして2名の聖騎士は学園から撤退した。彼らは彼らの信仰の総本山である法王庁に上級悪魔の出現について報告に向かったのだった。
第九使徒教会に捜査協力を依頼していた帝国内務省にも捜査中に悪魔が出現したということは報告されたが、彼らはあまり関心を示すことはなかった。
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