どうするスパイ作戦?
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──どうするスパイ作戦?
新たに学園に現れた聖騎士である聖ゲオルギウス騎士団のアウグストとエミリー。そのことはアリスからアレックスたちに報告された。
「ふむふむ。聖騎士か。面倒なのが来たね」
アレックスたちはアリスの報告を受け、『アカデミー』の本部であるミネルヴァ魔術学園地下迷宮にて話し合いを行っている。
「どうするんです? 聖騎士の目的は間違いなく黒魔術について探ることですよ。つまり私たちを探してるんです。み、見つかったら火あぶりですよ!」
「けど、どうして急に学園を? これまで学園で黒魔術がどうこうって噂になったこともないし……。アリスさんのときも、私のときも、騒ぎにならずの終わったよね?」
アリスが焦り、エレオノーラはそう疑問を呈する。
「その通りだ、エレオノーラ。君たちのことは全く騒ぎになっていない。アリスの事件もただの事故として処理されたし、君の件は私が黙っていれば誰にも発覚しない」
アリスが起こしたいじめっ子への呪いの件は事故となっており、エレオノーラが暴れた件はアレックスが隠蔽した。
他に学園において黒魔術絡みの騒ぎが起きたことはなく、聖騎士が調査に来る理由があるとは思えなかった。
それが問題だ。
「カミラ殿下と彼女のパーティーの件、ぐらいですよね、やっぱり。ほら、ホテルでサタナエルさんが警察軍の兵士を虐殺した事件ですよ。あれで黒魔術の痕跡が残って、カミラ殿下がいる学園の調査を、と」
「その可能性は否定できないが、それにしては随分と正確すぎる気がすよ。あのパーティー会場にいた学園関係者はカミラ殿下とエレオノーラぐらいだ。だが、黒魔術師の容疑のかけられるアルカード吸血鬼君主国の人間は他にたくさんいた」
「ううむ。そうですよね。別に学園だけ調べているわけではない、とか?」
アレックスが指摘するのにアリスがそう発言。
「その聖騎士はこんな徽章を軍服につけていなかったかね?」
アレックスがそうアリスに尋ねる。
彼が紙に描いて示したのはドラゴンを貫く槍のエンブレムだ。
「ああ! これですよ! どうして分かったんです?」
「なんとなくさ。これは聖ゲオルギウス騎士団の所属であることを示す徽章だ。第九使徒教会の最大戦力と言える騎士団で、ガブリエル君が所属している騎士団でもある」
このドラゴンと槍のエンブレムは聖ゲオルギウス騎士団の紋章である。
「彼らは正直なところ黒魔術師や魔族と殴り合うための聖騎士団であって、捜査云々が得意な連中じゃあない。そんな彼らが捜査に出て来たということは交戦の可能性を考えたうえでのことだろう」
「そういう確信があったか、あるいはそうなってほしいという願望。捜査自体は警察軍の管轄だと思う。内務省──帝国中央が帝都で第九使徒教会による警察行動を自分たちの要請なしで許可するわけがないし」
「そう、恐らくはそうなってほしいという願望だね。平和で喉かなこの学園に狂犬じみた聖騎士を放り込んで騒ぎを起こしたい。そして、それによってカミラ殿下がぼろを出すのを狙っている。そんな所じゃないかい?」
「それなら聖騎士が現れた理由も分かるね。警察軍はやはりカミラ殿下を強く疑っている」
アレックスが推測するのいエレオノーラが納得した。
「問題は警察軍は間違いなく、そうやって暴れてほしい聖騎士たちに理由や事情を説明していないということ。そもそもがスパイに関する機密性の高い話だから、部外者に事情を説明するはずがないしね」
「え? ……ってことは聖騎士は別にカミラ殿下だけを狙うのではなく、私たちにも襲い掛かってくる可能性があるってことです……?」
「そういうことだ、アリス! よく分かったね!」
「うへえ」
アウグストとエミリーのふたりの聖騎士は把握していないかもしれないが、この学園にはカミラだけでなく、他にも黒魔術を使うアレックスたちがいるのだ。そして聖騎士にとってはどちらも敵である。
「ともあれ、本当に学園で暴れられたら困る。我々はカミラ殿下を『アカデミー』に加えたいのだ。聖騎士にカミラ殿下が殺されても、聖騎士に『アカデミー』を知られても達成できなくなる」
「カミラ殿下を守らないといけないね。いっそ聖騎士を殺す?」
「それも選択肢のひとつだが、黒魔術師を探しに来た聖騎士が黒魔術で殺されればいよいよもって学園が戦場になる」
「そうだね。あまりよくないかも」
エレオノーラはそう言って困った表情を浮かべた。
「聖騎士についてはこれから情報収集を続けるが、私が思うに彼らはそう長居はしないだろう。警察軍も、国家保衛局も、場をかき乱すためだけに投入した聖騎士がいつまでも残るのは気に入らないはずだ」
「騒ぎを上手く起こしてくれれば役に立つけれど、いつ騒ぎを起こすか分からないままの不発弾では困るわけだね」
「まさに。警察軍は聖騎士が目的を果たさないとすれば、すぐに捜査協力要請を取り下げて聖騎士たちを下げるだろう。だから、永続的な脅威にはならない」
アレックスがエレオノーラの言葉に我が意を得たりと頷く。
「我々には選択肢がふたつある。ひとつは騒ぎを起こさずに過ごし、聖騎士が何もしないことで警察軍の目的を達さず撤退するのを待つ」
「無難そうですけどいつまで時間がかかるか分からないですね」
「そこでもうひとつ。派手に騒ぎを起こしてしまう。警察軍をこれによって動揺させ、聖騎士をい撤退させるというもの」
「それはそれで危険そうですけど」
「このふたつしか選択肢はない!」
アレックスが示したふたつの選択肢の両方に不信感を抱くアリスにアレックスはそう言い放ったのだった。
「派手な騒ぎというとどういうのを想定しているの? 私たちが直接動けばこれからずっと聖騎士に着け狙われることになるよ」
「正体を隠して行動できる存在が必要だね。あるいは事故に見せかけて相手を狙える存在が必要だ。そこで私は我が親愛なる友人サタナエルの力を借りようと思うのだ」
「サタナエルさんの力を……? 彼女に暴れてもらおうということかな?」
「まさに。彼女のあの姿は暫定的なものだ。彼女自身は怒りに燃えるドラゴンのそれが本性であり、正体である。どのような姿にだろうと彼女は変身できるのだよ」
「ふむふむ。後はそれで正体を隠して聖騎士を襲撃したら、誰が襲撃の疑いをかけられるか、だね。警察軍が動揺するにはカミラ殿下やアルカード吸血鬼君主国に関係ない存在に容疑がかかった方がいい」
「君は素晴らしいね、エレオノーラ。その通りだ。アルカード吸血鬼君主国に容疑がかかってしまい、聖騎士たちがそちらを追及すると慌てるのは警察軍ではなく、カミラ殿下たちになってしまう」
聖騎士たちがアルカード吸血鬼君主国に疑いを持ち、そちらを突きまわすのは警察軍と国家保衛局の狙い通りの展開だ。
「何というか、面倒くさいですね……。もうカミラ殿下は諦めません?」
「ダメ! 諦めない!」
「はああああ……」
アリスがもうカミラはどうでもよさそうだったがアレックスがそうは問屋を下ろさない。アレックスはどうあってもカミラを手に入れるつもりだ。
「君にもやるべきことはあるのだよ、アリス。君だって足のつかない悪魔を使役する方法をあれこれと知っているのだからね?」
「マジですかー。私はお尋ね者にはなりたくないんですけど」
「なら、正体がばれないように頑張ることだ!」
「うへええ」
アレックスの言葉にアリスはうんざりしたような表情を浮かべたのだった。
「さて、ところでサタナエルはどこにいったんだろうか……?」
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