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スパイマスターになろう

……………………


 ──スパイマスターになろう



 エレオノーラがカミラへの接触を目指しているときアリスはメフィストフェレスと一緒に図書館でスパイについて調べていた。


「しかし、どうしてこういうことが起きる前からスパイについて調べていたのだい、愛する人よ?」


「え、えっと……。少し興味があってえ……」


「ふむ? 何かしらの作品を理解するため、ではないのか?」


「実はそうなんですよ! 『皇帝陛下のスパイマスター』って本があって、それが凄く面白んですけどスパイについての知識がいろいろ出てきて……」


「ほう」


「あ。い、いや、忘れてください」


「この本かね?」


「ああーっ!?」


 するといつのまにかメフィストフェレスの手に問題の『皇帝陛下のスパイマスター』という本が握られていた。


「面白い本なのだろう? どのようなところが気に入ったんだい、ハニー?」


「うぐぐ。実を言うと本当に、本当に不本意なのですが、その小説に影響されて私も小説を書き始めたので……」


「おお! それは素晴らしいことじゃないか。何故恥ずかしがるのだ?」


 アリスが顔を真っ赤にして言うのにメフィストフェレスがそう尋ねる。


「そ、その、小説の主人公のモデルというのが……その……私で……」


「自分を小説の主人公に?」


「そ、そうです! いわゆる夢小説ってもので、理想の私が理想の物語の中で活躍するという……感じで……。……うう、わー! 忘れてくださいっ!」


 アリスは本当に顔に火が付きそうなほどに顔を赤くしており、そしてばたばたと手を振っていた。


「私は一流の創作者ではないが、創作活動に無知なわけではない。創作活動で自分をモチーフにするということはよくあることだと思うのだが。自分ほど忠実に描けるモデルは存在しない。だろう?」


「そ、そういうことではないのです。私がモデルなんですけど……美化されて過ぎていたり、登場人物全てに、その、愛されていたりと……」


「私は気にしない。私もあらゆるものに愛されたいと思う。それはほとんどの人間にとってそうだろう。むろん、私は他の誰よりも君に一番愛してもらいたいがね」


「ああ。メフィスト先生、あなたは本当に素敵です!」


 メフィストフェレスが言うのにアリスがきゃーきゃーと黄色い声を上げる。


「しかし、それでスパイについて調べたということはハニーの書いた小説にはスパイが登場してくるのか? スパイに関する小説を?」


「え、ええ。主人公はスパイを指揮する人で、現場のスパイから絶大な信頼を得ていて、仕えている君主からも信頼されていて……」


「ほう。それは面白そうだ」


「全然つまらないですよ。自己満足の塊で恥ずかしい……」


 アリス、何度目か分からない赤面。


「無理には読ませてくれとは言わないよ。しかし、その執筆の経験はぜひ生かしてほしい。スパイについてどう調べればいいだろうか?」


「そうですね。カミラ殿下が機関員(オフィサー)なら派手な行動はしない。というよりできないです。ならばどこを狙うべきかという話ですが、彼女が資産(アセット)と接触するタイミングですね」


「スパイが情報を報告するときか」


「ええ。スパイは様々な方法で密かに情報をやり取りします。いくつかの方法は私も知っていますが、より正確に、かついろいろな種類を調べておきましょう」


「協力するよ。どの本から始める?」


「この本からやりましょう」


 そしてアリスたちはスパイに関するノンフィクションの解説本からフィクションの小説まで様々な本を読み漁り始めた。


「あ。この本、面白い……」


 アリスはついつい小説に没頭したりしながらスパイについて調べる。


「我々が行うのは防諜作戦というものでいいのだろうか?」


「ええ。スパイを逮捕したり、捕まえたりするのは秘密警察などが行う防諜作戦になります。帝国では内務省がそのような任務をやっていたはずです」


「彼らはどのようにしてスパイを捕まえるのだ?」


「方法はいろいろありますね。偽の情報を流して誰が裏切っているかを突き止めたり、関係者を尾行したり盗聴したりして監視したり、相手の組織からスパイのリストを盗み出してそれで明らかにしたり」


「なるほど。この場合、我々は偽情報は流せないし、アルカード吸血鬼君主国の諜報機関に忍び込むこともできない。つまり、相手を尾行したり、盗聴したりで監視する方法をとるしかないな」


「そうですね。それぐらいしかなさそうです」


「では、監視すべきタイミングなどを記してある本を探そう」


 監視すると決めれば監視のために必要な知識を集める。


「ふむふむ。情報の受け渡しにはそのための人間が雇われることもある、か。受け渡しの方法はまさにスパイみたいですねえ」


「まさにな。スパイというものに人々がちょっとしたロマンを抱くのも分かる。こういう隠された技術というものにはそれ特有の魅力がある」


 郵便物を密かに利用したやり取りや暗号を使った取引など様々なスパイ技術が記された本を見てアリスとメフィストフェレスがそう言葉を交わす。


「しかし、ここまで秘匿されると少し監視したぐらいでは掴めそうにないな」


「ですね。これは難しそうです。それに問題もいくつかあります」


 メフィストフェレスが言い、アリスがそう語りだす。


「まず、この手の情報の受け渡しに本当にカミラ殿下がかかわるか分からないということです。カミラ殿下は公的な身分で帝国にいます。その彼女が現場で直に資産(アセット)と接触するかというと」


「仮にも第二王女であるあの娘にスパイ容疑などがかかれば外交関係も悪化する。そういう意味でもカミラが直接動くとは考えにくいな」


「ええ。そういうことです。なので、監視するのは彼女自身ではないのかも……」


 カミラは第二王女かつ留学生というアルカード吸血鬼君主国の公的な身分で入国している。彼女が問題を起こせば身分を保証したアルカード吸血鬼君主国の責任が問われる。それは帝国との外交関係悪化にも繋がるだろう。


「これまでスパイに関する本を読んで思ったのだが、機関員(オフィサー)を追いかけるより資産(アセット)を追った方がいいのではないだろうか?」


資産(アセット)をですか? けど、私たちはカミラ殿下がスパイかもしれないということしか分かってないですから無理ですよ」


「いや。そうでもない。カミラ自身がぼろを出さなくとも、あの女の付近に妙に近づく帝国の人間がいれば分かるだろう」


「帝国の人間……。学園の生徒ではなく、政府機関などの人間ですか?」


「そう。その通りだ。そして、その資産(アセット)の方を監視し、スパイであることを暴くことでカミラについての情報が聞き出せるかもしれない」


「なるほどですね……。それは一理あります!」


 目標はカミラを直接狙うのではなく、カミラたちが狙っている帝国政府内の資産(アセット)とする。そのことでカミラがスパイである証拠を間接的に手にれるのである。


「監視する方法については……問題ありませんね。あの子たちを使いましょう」


「ああ。それならば問題はないだろう」


 そして、アリスとメフィストフェレスは早速カミラの近辺を探るために動き始めた。


 目標は目指せスパイマスターである。


……………………

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