スパイの活動
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──スパイの活動
「はあああ。分かりましたよ。簡単に説明します」
アレックスたちに求められてアリスがそう言う。
「まずスパイというのは何でもひとりでやるワンマンアーミーではないです。そういうスパイももしかしたらいるかもしれないですけど主流ではないですね」
エンターテイメントの世界で活躍する変装や潜入テクニックで、相手の重要施設に忍び込んで情報を盗み出すヒーローのようなスパイ。アリスが言うにはそれは主流ではないそうだ。
「まずスパイには大きく分けてふたつの種類があります。機関員と資産。このふたつです」
「それはどのようなものなの?」
「まず機関員はいわゆる情報機関の正規の職員です。ちゃんとした情報機関の職員としての身分があり、諜報対象国に向かうに当たっても大使館員などの身分で訪れることが多いです」
エレオノーラが尋ねるのにアリスがそう説明する。
「逆に資産は正規の職員ではなく、身分はそれぞれです。こちらが情報を潜入して集め、機関員がそれら資産を管理して情報の報告を受けるというのが多くの場合ですね」
「資産というのは金で寝返ったり、女性関係で脅迫された人間で、元々諜報対象の組織に所属している人間だと認識しているが」
「そんなところです。他にも思想などを通じて忠誠心のある人間を長い時間をかけて一から潜入させる場合もあります。ですが、適当な人間を転ばせた方が早いのは言うまでもありません」
「ふむふむ。続けてくれ」
アリスの説明にアレックスたちが頷く。
「機関員は公的な身分を持っており、大使館職員ならばある程度の外交特権で逮捕を免れます。ですが、その分警戒はされやすく、派手に動けばすぐに発覚して外交関係の悪化を招きます」
「そしてペルソナ・ノン・グラータに指定され、追い出されるわけだ」
「その通りです。なので、実際に現場で情報を集めるというスパイらしい行動をするのは、どちらかと言えば資産の方です」
「カミラ殿下の場合は彼女は機関員かな?」
「でしょうね。留学生の身分で政府機関などに潜入はできませんし……」
「しかし、彼女は大使館員ではない」
「帝国が仮にも友好国の王女をスパイとして逮捕するかどうかは知りませんが、逮捕される可能性はありますね」
カミラはあくまで留学生であり、外交特権が認められた大使館員などではない。
「では、カミラ殿下の尻尾を掴むには我々はどうしたらいいのか教えてくれたまえ、アリス!」
「難しいですよ。当然帝国はカミラ殿下たちを警戒しているはずです。今でこそ友好条約が締結されたものの、ちょっと前まではアルカード吸血鬼君主国と帝国はバチバチに敵対していましたから」
「帝国の秘密警察なんかが調査をしているということかい?」
「内務省にはそういう組織があると聞きます。そこの人たちは私たちのようなズブの素人ではなく、海千山千のプロです。それを出し抜いて私たちがカミラ殿下がスパイ行為を行っているという証拠と掴めるとはとても、とても」
「やる前から諦めるのは君の悪い癖だぞ!」
「うるさいですね!」
アレックスが指摘するのにアリスが叫び返す。
「ねえ。とりあえず話してみたらどうかな? カミラ殿下とは数回話したことがあるけど悪い人じゃないよ。証拠を掴むとかそういうことを考えずに、ただ『アカデミー』の誘ってみるのは駄目?」
そこでエレオノーラがそう提案した。
「ふむ。まあ、それもいいかもしれないな。だが、『アカデミー』には軽率に誘えないよ、エレオノーラ。我々『アカデミー』は黒魔術師の集まりだ。それを逆にカミラ殿下に知られると我々が困った立場になる」
「そうだったね。なんか悪いことをしている感じではないから忘れてた」
「今のところ我々のやったことと言えばお茶とお菓子を楽しんだことぐらいだからね。仕方がないだろう」
エレオノーラは忘れていたが、『アカデミー』は法と教会に許されない黒魔術師たちの集まりであり、犯罪結社だ。そのことを無関係のカミラに知られると逆に脅迫される可能性があった。
「私はカミラ殿下と話したことはあるが、どうにも嫌われてしまったように思える」
「それはあんな馬鹿なをことを言えばそうなるだろう」
アレックスはそう言い、サタナエルが呆れたようにそう言った。
「なら、私が話しかけてみて、それからアレックスたちのことを紹介しようか?」
「そうしてもらえるとありがたいね。まずはエレオノーラ、君がカミラ殿下との間にコネクションを作ってもらいたい」
「分かった。任せて!」
エレオノーラがアレックスにそう請け負う。
「あのー……。私は何もしなくていいですか?」
「そんなわけないだろう。君は引き続きスパイについて学びたまえ! 勉強あるのみだぞ、アリス!」
「はあああ……。面倒くさい……」
「とか言っているが、実際にはワクワクしているのだろう?」
「そんなわけないでしょう……」
アリスはアレックスの言葉に大きくため息。
「では、行動を開始しよう。君たちが行動している間、私は作戦を練ると同時に使えそうなものがないか、この地下迷宮を探索しておくよ」
「ええ。カミラ殿下攻略作戦、始めよう!」
「おお!」
エレオノーラが言い、アレックスが同意の声を上げる。
「私は早速カミラ殿下と話してみるよ。後で結果を知らせるね」
「じゃあ、私は図書館に行ってきます」
エレオノーラとアリスが『アカデミー』の拠点となっている地下迷宮からポータルで学生寮へと去る。
「我々は引き続き地下迷宮の攻略だ、サタナエル」
「つまらん話だ。あの血吸いコウモリを従わせたいならばもっとやりようはあるだろう。俺が捻ってやってもいいのだぞ?」
「我々は同志がほしいのだ。奴隷がほしいのではないよ。それにあれこれと手を尽くした方が楽しいだろう?」
「そういうものか?」
「ああ。そうだよ。少なくとも私にとってはね。それにこの地下迷宮は宝の山がある。いくつかの品は君を喜ばせることだろう!」
「期待せずに待っておくとしてやる」
アレックスの言葉にサタナエルが肩をすくめた。
「我々はこの広大な地下迷宮を探索し、宝を得る。そして次に権力ある仲間を得て、活動を広域化させるのである。それが今やるべきことだ。何事も着実に一歩ずつ進めていかなくてはね」
そう言いながらアレックスは『アカデミー』本部となっている部屋を出て、ミネルヴァ魔術学園地下迷宮へと足を進める。
「貴様はどうにもあの金髪の小娘に甘いような気がするな」
「そうかね?」
「扱いが根暗とは違う」
「それはそうだろう。アリスは多少雑に扱っても問題ないが、エレオノーラはそうはいかないからね」
「それが甘いのではないか?」
サタナエルがそうアレックスに疑問を呈する。
「……まあ、多少は思い入れがあるだろう。そのことは否定しないよ。彼女は私に最期まで付き添ってくれたのだから、当然じゃないか。彼女ほど尽くしてくれた人を私は未だに知らない」
「ふむ」
そして、アレックスとサタナエルはお宝を求めて地下迷宮を下っていく。
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