秘密結社ごっこ
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──秘密結社ごっこ
アレックスはミネルヴァ魔術学園地下迷宮にて秘密結社『アカデミー』の本部設立を宣言した。
「ええっと。よかったね!」
「はあああ……」
それに対してエレオノーラはよく分からないままにとりあえずアレックスに拍手し、アリスはただただげっそりしている。
「今日からここが我々『アカデミー』の本部だ。これからの方針はここで話し合われる。記念すべき第一回の会議を早速開こうじゃないか」
「議題は何を?」
「うむ。まず話し合うべきことはさほど珍しいことでもない。組織の在り方についてだ。誰を指導者として、どのようなものを目指し、どうやってその目的を達成するか。組織の形を決めようというわけだ」
「ああ。そうだね。まずはそれを話し合わないと」
アレックスの説明にエレオノーラが納得。
「え。私が加入した時にそういうのはなかった気がするんですけど……?」
「アリス。私と君しかいない組織の方針を決めたってしょうがないだろう」
「まあ、それもそうですけど」
アリスは渋々と言うようにうなずいた。
「それでは席につきたまえ。サタナエルとメフィストフェレスもね」
「ああ」
サタナエルたちもアレックスたちと揃って円卓に向かって座る。
「まず『アカデミー』の指導者を決めよう。役職をある程度決めてからではなければ会議の進行も覚束ない」
「最低限、議長と書記は決めておかないといけないですね」
「そうだ。というわけでまずは指導者に立候補しい人は挙手!」
その言葉と同時にアレックスが挙手。
他はエレオノーラも、アリスも、サタナエルも、メフィストフェレスも全員が手を上げていない。
「貴様が始めたことなのだから、立候補もクソも貴様がやるのが当然だろうが」
「確かにそれもそうだが一応みんなの意見で決定したというアリバイがほしいんだよ、サタナエル」
「くだらん」
サタナエルは今にも椅子を蹴って出ていってしまいそうだ。
「さて、指導者は私でいいのだね。ならば、私が『アカデミー』という組織の学院長となろうではないか!」
「学院長なの?」
「『アカデミー』はあくまで学問のための機関だ、エレオノーラ。我々は騎士団でもなければ、政党でもないし、まして国でもない。団長や党首、皇帝などは名乗れない」
「ふむ。分かったよ」
アレックスが学院長を自称するのにエレオノーラが首を傾げながらも納得。
「では、他の役職を私が指名しよう。まずは副学院長だ。これはエレオノーラに任せようではないか!」
アレックスは副学院長という自分の代理となる人間にエレオノーラを指名した。
「だと思いましたよ。よかったですね、エレオノーラさん」
「ええ。ちゃんとやれるかは分からないけど……」
「きっとできますって。エレオノーラさんは私か見ても才女ですから。で、私は何をすればいいんです、アレックス?」
アリスがエレオノーラに笑いかけたのちにアレックスを見る。
「君は書記だ。キャラがそれっぽいから」
「もっと真面目にやってください!」
「はははっ!」
アリスが叫ぶのにアレックスが笑って流した。
「ともあれ、今日から君が書記だから会議は記録するように!」
「面倒くさい……」
「早速今から記録だよ。さあ、ノートはあげるからペンを出したまえ」
「はいはい」
そして、アリスが書記として記録を開始する。
「おい。俺はどうなる?」
「サタナエル。君とメフィストフェレスはオブザーバーだ。何も君は人間の作った秘密結社のメンバーになりたいわけじゃないだろう?」
「面白いことなら手伝ってやる。最近は退屈だ」
「それなりに面白いことは起きるさ。期待しておくといい」
「そうしよう」
サタナエルは退屈そうに肩をすくめた。
「何というか……。実質3名しかいなくてその全員で議長、副議長、書記となると秘密結社ごっこが否めませんね……」
「けど、楽しそう。お菓子を焼いてきたのだけど食べる?」
「あ。私、お茶入れてきますね」
エレオノーラが紙袋を取り出し、アリスが席を立ちお茶を入れに向かった。
「ちょっと待ちたまえよ。今から組織の方針を決定するのだが……」
「食べながらやりましょう。カップケーキも美味しいし、アレックスが好きな木の実の入ったクッキーもあるよ。ね?」
「う、うーむ」
エレオノーラには何故か強く出れないアレックスである。
「お茶が入りましたよ。いい感じの茶葉もありますので」
「わあ。いい香り!」
アリスがカップを持って来てテーブルの上に置き、エレオノーラたちがそれぞれカップを手に取った。
「こういうのいいよね。秘密基地でこっそりおやつを食べて……」
「悪くはないね。我々の出だしとしてはこれぐらい気軽なのがいいのかもしれない」
エレオノーラがわくわくした様子なのにアレックスも思わず笑っていた。
「おお。このクッキー本当に美味しいですね。今度レシピを教えてもらえませんか? 私もお菓子を作ってみたいのですが、なかなか苦手でして……」
「ええ。今度一緒に作りましょう」
「はいです!」
この前は殺し合った関係だが、今ではすっかり女友達として仲が良くなったエレオノーラとアリスだ。
「さてさて。諸君、そろそろ脱線はおしまいだ。話を戻すよ」
パンパンと手を叩き、アレックスが咳ばらいする。
「『アカデミー』の方針だが、これは3本の柱を建てたいと思う」
「3本の柱、ですか?」
「ああ。方針は大きく3つだ」
アレックスが3本指を立てて語る。
「1本目! 黒魔術の探求だ。いかなることよりこれは優先されなければならない。我々は秘密ベールに隠されている事実を暴き、知らしめ、会得するのだ。秘密の暴露こそ我らが使命である」
まず挙げられたのは知識の探求。
「2本目! 黒魔術師とその知識の保護だ。我々はこれから様々な弾圧に晒されることだろう。我々は我々を弾圧しようとするものたちに勝利し、全ての黒魔術師とその知識を守り抜くのだ」
次に黒魔術の使用者と知識の保護。
「3本目! 黒魔術を扱う人間の育成だ。我々が研究した知識を教育し、次世代に黒魔術を引き継いでいくと同時に新しい研究者を生み出す。それによって先述したふたつの事柄がより意味を持つようになる」
最後は黒魔術の教育。
「これが我々の目指すべき『アカデミー』の在り方だと私は考える。どうだろうか?」
そしてアレックスがエレオノーラたちに意見を求めた。
「アレックス。私は好きで黒魔術を学んできたわけではないから、特に黒魔術に思い入れはない。けど、黒魔術を通じてあなたやアリスさんと親しくなれるのならば、あなたのやりたいことを私は手伝うよ」
「ありがとう、エレオノーラ」
まずエレオノーラが賛成する。
「私も黒魔術が特に好きというわけではないのですが、手伝わないとメフィスト先生と一緒にいられなくなるとか言うんですよ?」
「もちろんだ。仕事をしなければご褒美はない」
「はー。分かりましたよ。なら、手伝います」
アリスは渋々と言うように受け入れた。
「これで目的は定まった。後はどのようにしてこの目的を達成するかだ」
目標を決めたら、次はそれを達成する手段だ。
「まずは何より人員の増員だ。これがなければ私たちはいつまで経っても秘密結社ごっことなってしまうだろう。本当に秘密結社ごっこは速やかに卒業したいものである!」
「私は元々黒魔術を知っていたし、アリスさんもそうだったみたいだけど、他に黒魔術に関係していると分かっている人はいるの?」
「2名いる。彼らを仲間に引き入れて力を付ける。それからもう1名確保すべき要人がいるのでその人物も仲間に。有象無象を増やすのは我々が確かな力を得てからにしようではないか」
「その人たちの名前を教えてくれるかな?」
「少しずつ明かしていきたい。段取りというものがあるからね。アリス、エレオノーラの次に手に入れるのは──」
アレックスが次に狙う人材の名を口にする。
「カミラ殿下だ」
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