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『アカデミー』本部設立

……………………


 ──『アカデミー』本部設立



「学園の地下にこんな空間があったなんて……」


「ようこそ、エレオノーラ。ミネルヴァ魔術学園地下迷宮へ!」


 エレオノーラが『アカデミー』に加わったことでアレックスが彼女をミネルヴァ魔術学園地下迷宮に案内したのだ。


 既に地下迷宮はアレックスとアリスによってある程度捜索されており、かなり深層まで確保されていた。それでも地下迷宮は地獄にまで通じているのではないかというぐらい深いものだった。


「ここをアリスさんと探索していたから彼女と一緒だったの?」


「そういうことだ。誓っていいが彼女との間にロマンチックなものはないよ」


「そっか」


 エレオノーラはうっすらと明かりに照らされる地下迷宮をアレックスと歩きながら、彼の言葉に頷く。


「ところで、あれはアリスさんの人形?」


 エレオノーラがそう言って指さすのは迷宮内を歩き回る人形やぬいぐるみだ。それらは掃除をしたり、本や家具を運んだりと忙しそうにしている。


「そうだよ。アリスの人形だ。この地下迷宮には無数の下級悪魔がいて、彼女がそれを使い魔(ファミリア)にして雑用をやらせているのだ」


「なるほど。なんだか秘密基地みたいでわくわくするね!」


「分かってくれるか! アリスにはちっとも理解してもらえなかったが、この地下迷宮を『アカデミー』の拠点とするのには実に興奮するものがある!」


 エレオノーラが微笑むのにアレックスもにやりと笑った。


「さて、実を言うと探索はまだ続いているのだが、とりあえず確保した拠点があるんだ。案内しよう。一緒に来てくれ」


 アレックスはそう言ってエレオノーラを地下迷宮で案内する。


「ここだ! ここが我らが『アカデミー』の本部である!」


「わあ……」


 そこは地下迷宮内にある大きな部屋であった。


 本来はアビゲイルたちが目指した本来の目的──弾圧される魔術師たちをここに匿うというもののために作られた部屋だ。今ではそこはアリスの使い魔(ファミリア)たちによって机や椅子が運び込まれていた。


 円卓の巨大なテーブルが中央に佇み、魔術の歴史を描いた絵画が飾られ、銀の燭台や鎧や剣などの様々な調度品が並んでいる。


 その様子を見たエレオノーラが思わず感嘆の息を吐く。


「ここで我々『アカデミー』は意思決定を行い、組織の方針を定める。他にも様々な今後の策略を練っていくのである。楽しみになってきただろう?」


「とても楽しそう! 気に入ったよ!」


「はははっ! それはよかった! 素晴らしい広間だろう? ここに『アカデミー』の幹部たちが集まり、陰謀を企むのだ。黒魔術という恐るべきものをどのように秘匿して研究するかを含めてね」


 エレオノーラは子供のように喜び、アレックスも喜んでいた。


「まだまだ見せたいものがあるんだ。来てくれ」


 しかし、まだまだアレックスにはエレオノーラに見せたいものがあった。


「次は何を見せてくれるの?」


「見てのお楽しみだ」


 アレックスはそう言ってにやりと笑うと迷宮内の扉を開いた。


「ここだよ。みたまえ。この偉大なる本物の魔導書が並ぶ本棚を! これこそが『アカデミー』の誇る大図書館だよ!」


 扉の先に広がっていたのは大量の魔導書が埋蔵されている図書室だ。


 小学校の体育館ほどの広さがある部屋に大量の本棚が所狭しと並ぶ。並んでいる本はどれも印刷機が生まれる前のものばかりで、手書きで文字が記され、美しい装飾も描かれた貴重なそれであった。


「本物の魔導書? そんなものが存在するの?」


「ああ。存在するのだ。驚いただろう。この地下迷宮には4世紀前の宗教戦争の際に多くの魔導書が焚書を逃れるために世界各地からやってきた。そして、それらはこうして今も保存されているというわけだ」


「凄い。これらの本には長い歴史があるはずだよ。それに強力な力も……」


「ああ。呪いの力だ」


 アレックスがそう言うのにエレオノーラが暗い表情を浮かべる。


「エレオノーラ。君も呪いの力を使うことは知っている。しかし、君がどういう経緯で呪いの力を使えるようになったのか、よければ教えてほしい。どうだろうか?」


「私も気になります」


 アレックスがそう求め、アリスの方もそう尋ねてきた。


「……あまり楽しい思い出ではないよ」


「君がそれを思い出したくないというならば、無理には聞かない。絶対にだ」


「なら、かいつまんで話すね」


 エレオノーラはそう言って過去を振り返る。


「まず説明しておかなければならないというのはヴィトゲンシュタイン侯爵家は魔術の大家であると同時に黒魔術についても同様だということ。そして皇帝に黒魔術についての知識を教えていた家だということ」


 エレオノーラのヴィトゲンシュタイン侯爵家は皇帝から黒魔術を研究することが特別に許可された家だった。


 彼らは研究で得た知識を密かに皇帝に提供し、そのことで帝国によける重要な地位を占めてきたのである。


「ヴィトゲンシュタイン侯爵家が黒魔術を……」


「本当のことだよ、アリスさん。私たちヴィトゲンシュタイン侯爵家はずっと黒魔術に憑りつかれていて、親から子へと邪悪な知識が引き継がれていた」


「で、でも、教会はそういうのを禁止するのでは?」


「教会は知らない。4世紀前の宗教戦争の後で皇帝と帝国中央は戦争の発端となった教会に酷い不信感を持つようになっていたから」


「だから……」


「ええ。それに政治の場ではどんな手段を使ってでも果たすべき目標を達すべきという考えが横行している。いわゆる行き過ぎた現実主義というものね。正直、私はそういうのは好きじゃない」


 エレオノーラはヴィトゲンシュタイン侯爵家を巡る帝国中央をそう評価した。


「マキャベリズムというのは私も好きじゃないよ。目的のために手段が正当化されるというのは文明の否定のようなものだし、そもそも遊びがない。ああいう思想の人間はまるで余裕のないせかせかした惨めな人間に見えるよ」


「遊び、か。確かに余裕は大事だね」


 アレックスも肩をすくめてそう言い、エレオノーラは小さく笑った。


「帝国はそういうことで私たちヴィトゲンシュタイン侯爵家に黒魔術を研究させてきた。あの魔剣ダインスレイフはその研究成果のひとつといったところ」


「大悪魔マモンの所有物。彼女からどのようにして手に入れたのだい? かの“強欲”の悪魔がそう簡単に彼女の宝を渡さないとは思うだが」


「それは……ちょっと……」


「そうか」


 エレオノーラが言葉を濁すのにアレックスはそれ以上聞かなかった。


「ただ私たちヴィトゲンシュタイン侯爵家はずっと悪魔と関わりがあった。黒魔術というのは悪魔から力を得るものだからね。だから、黒魔術に携わる以上、悪魔と無関係ではいられない」


「これからも我々は悪魔と関わることになるさ。我々全員が既に関わり合いになっている。私はサタンと。アリスはメフィストフェレスと。エレオノーラ、君はマモンと」


「ええ。でも、きっと後悔はしないと思う。あなたが一緒だから」


 アレックスが言い、エレオノーラが頷く。


「もうすぐにいい感じにのろけるのやめてくれません? のろけるまえに私たちがいるということを思い出してくださーい」


「はいはい。ひがむんじゃないよ、アリス!」


「うがー!」


 けらけらとアレックスが笑い、アリスがぶんぶんと手を振った。


「さて、エレオノーラが自己紹介をしてくれたところで改めて宣言しよう」


 そして今回目的としていたことをアレックスが始める。


「今ここに我々『アカデミー』の本部設立を宣言する!」


……………………

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