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勧誘

……………………


 ──勧誘



 メフィストフェレスの血を吸い、力を増す魔剣ダインスレイフ。


 それを構えたエレオノーラがアリスとメフィストフェレスに向かってくる。


 アリス呪いの人形も、メフィストフェレスの黒魔術も乗っ取られ、無力化されることで抵抗する手段はほとんどなく、絶体絶命と思われたとき──。


「そこまでだ、エレオノーラ!」


「アレックス……!?」


 騒動が起きている寮の庭に現れたのはアレックスだ。


「エレオノーラ。君のその手にあるのは魔剣ダインスレイフだね。地獄の国王マモンが保有するものであり、血を吸う呪われた魔剣。ヴィトゲンシュタイン侯爵家に代々伝わる伝家の宝刀」


「……知っているの?」


「もちろんだ。私の交友範囲は広くてね。マモンも知り合いのひとりなのだよ」


「大悪魔マモンと……知り合い?」


「驚いたかね? 彼女の晩餐会に招かれたこともあるよ。君がこのことに驚くとは思わなかったな。君たちヴィトゲンシュタイン侯爵家は私より長い付き合いだろう。あの“強欲”のマモンとは」


「私たちは……」


 アレックスが指摘するのにエレオノーラが小さく呟き、首を横に振る。


「そこを退いて、アレックス。彼女を殺さなければいけないから」


「ほう? 何故だい? どうしてアリスを殺す必要が?」


「私たちのため。私があなたを……好きでいられるために!」


 アレックスが尋ね、エレオノーラがそう叫んだ。


「それは本当に君の意志なのだろうか? 人が吹き込んだことではないのか? 心優しい君が人を犠牲に自分の望みをかなえようとするとは思えない」


「けど、私は自分で!」


「悪魔が恐ろしいところは彼らが強大な力を持っているからではない。人間の心に入り込んで彼らの意のままに操るからだ。君からは悪魔の臭いがする、エレオノーラ。マモンではなく、それよりずっと性質の悪い悪魔の臭いだ」


「……!?」


 アレックスのその言葉にエレオノーラが目を見開いた。


「さて、実は君を誘おうとは思っていたのだ。私とアリスはとある秘密結社に所属している。黒魔術師たちの秘密結社『アカデミー』だ!」


「『アカデミー』……? 何かの学問の機関……?」


「そう。黒魔術を研究する秘密結社だ。そして私は今君を勧誘することにしよう! 我々の仲間になりたまえ、エレオノーラ! 君は記念すべき3人目の会員だ!」


 困惑するエレオノーラにアレックスがそう訴える。


「……ずっとそれで一緒だったの? アリスさんと?」


「まさに。君が何を思っているのか思いつかなかったことには謝罪する。だが、君に本当のことを明かすわけにはいかなかったのだ。分かるだろう。黒魔術は帝国において禁止されているのだから」


「そうだね……。けど、それでも私は認められない」


「何をだい?」


「あなたを独占できないということ」


 エレオノーラはそう言った。


「私はあなたが欲しい。これは誰の欲望でもなく、私が望んだこと。それだけは間違いない。だから、私はどうあってもあなたを手に入れる」


「それは困った。私は私自身の主であり、他の誰かに従うつもりないのだよ。たとえそれが君であってもね、エレオノーラ」


「なら、力尽くで手に入れるだけ」


 アレックスが苦笑して告げるのにエレオノーラが魔剣ダインスレイフを再び構える。


「私を殺しても私は手に入らないよ」


「でも、できることをする。それが私にできることだから。あなたを手に入れるためにならなんだってする」


 エレオノーラはもはやアレックスの説得を聞くような様子ではなかった。


「悪い方向に振り切れてしまったね。我らが親友にも困ったものだ。であるならば、提案させてもらおう。君と決闘をしようじゃあないか」


「決闘?」


「そう、決闘だ。君が私に勝てば私は君のものになろう。私が勝てば君には『アカデミー』の会員になってもらう。どうだい? 悪い条件ではないだろう?」


 アレックスが提案したの決闘であった。


 決闘の文化は帝国貴族とブルジョワ層の間には未だに存在するものである。現代の国家のように決闘罪というものは帝国では定められておらず、ちゃんとした手続きを踏めば決闘は法的にも許されるものであった。


 その決闘をアレックスはエレオノーラに提案。


「……本当にそれでいいの?」


「もちろんだ。男に二言はない」


 エレオノーラは呟くように問いかけ、アレックスは頷く。


「分かった。それでいい。やろう。ルールは?」


「どちらか降伏するか、審判が戦闘不能と判断するまで戦う。降伏した側と戦闘不能と判定された側は敗者だ」


「審判は誰が?」


「そこにいる我らが友人に頼もう。サタナエル!」


 アレックスが声を上げると学生寮の屋上からサタナエルが飛び降りてきた。


「いいだろう。付き合ってやる。盛大にやるがいい」


「では、頼んだよ。さあ、エレオノーラ。正々堂々尋常に勝負だ」


 サタナエルがにやりと笑って審判を引き受け、アレックスがそう宣言。


「ええ。いつでもいいよ」


 エレオノーラも魔剣ダインスレイフを構えて応じる。


「開始の合図は任せるよ、サタナエル」


「3カウントだ。それで始めとする」


 アレックスが言い、サタナエルがカウントを開始。


「3──2──1──……始めだ!」


 サタナエルが号令をかけ、ついに決闘が始まった。


「加減はしない」


「いいとも。私もだ。バビロン!」


 エレオノーラが魔剣ダインスレイフを手に突撃し、アレックスはバビロンを召喚する。巨大なドラゴンが現れて肉薄するエレオノーラを迎撃しようと立ちふさがった。


「爵位持ちの上級悪魔を使い魔(ファミリア)に……!? なるほど。それが自信の表れというわけか……」


 エレオノーラは瞬時にバビロンの正体を見破ったようであり、バビロンを警戒しながら魔剣ダインスレイフでかのドラゴンを仕留めようとする。


 バビロンが唸り声を上げ、炎を振りまきながらエレオノーラを迎え撃つ。だが、その炎はエレオノーラが魔剣ダインスレイフをかざすと捻じ曲げられて狙いを逸れてしまう。


「なるほど。魔剣ダインスレイフは敵を引き裂くだけでなく、あらゆる黒魔術由来の力を捻じ曲げるというわけか。素晴らしい力だ」


「褒めてくれてありがとう。けど手加減はできない」


 アレックスがその様子を見て感心するのにエレオノーラはバビロンの撃破を目指す。


「遠慮することはない。手加減などする必要はないとも、エレオノーラ。君に私は倒せない。加減しようとしまいとね」


「……どうして?」


「前に話しただろう。魔術は科学に分類されない。なぜならば魔術は個人の意志によって作用するからだ。そして私と君とでは持っている意志は異なる。その方向性も、その強さも。全てが違う」


 エレオノーラがバビロンを交戦しながら尋ねるのにアレックスがそう返した。


「私の意志はひとつだ。勝利を。それを求めるのみ。ただただ勝利をと求めている。強く、強く、とても強くそれを望んでいる。何よりもだ。だから、私の魔術は強力なのだよ。地獄の上級悪魔を使い魔(ファミリア)として使役する程度にね」


「私も勝利を望んでいる」


「だが、君が求めているのはそれだけではないだろう。君は私を求めた。勝利ではなく、だ。そして私から得られるものを同じように望んでいる。君の望みはあまりにも多い。君は欲張りだ、エレオノーラ」


「……そんなことはない!」


 バビロンの首をついにエレオノーラの魔剣ダインスレイフが切り落とすが、バビロンはすぐさま自分の中にある地獄から復活した。その首が再生していき、再びエレオノーラに向けて鋭い爪や炎で攻撃を繰り広げる。


「いいや。君は欲張りだよ、エレオノーラ。だが、私はそういう君が好きだし、どうして君がそこまで様々なものを求めるのかも理解できる。その上で私は私の勝利を望む!」


 アレックスがそう叫ぶとバビロンがその巨体をさらに巨大化させた。


「私に勝利を。私は勝利だけを求める。やれ、バビロン」


……………………

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