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血を吸う魔剣

……………………


 ──血を吸う魔剣



 アリスがアレックスの地下迷宮探索から解放されたのはその日の夕方のことだった。


「はあああ。本当にうんざりですよ。何だってあんな子供みたいなのに付き合わないといけないんですか」


 アリスが盛大に愚痴りながら学生寮を自分の部屋のある棟に向けて、寮に併設された庭を歩いていた。


「お疲れさまだ、愛する人よ。私が癒してあげよう」


「ああ。メフィスト先生。あなただけですよ。私を理解してくれるのは!」


 そこでメフィストフェレスがどこからともなく現れ、アリスがメフィストフェレスに飛びつくようにして抱き着いた。


「私たちはよき理解者だよ、愛する人。その上で言わせてほしい」


「どうしましたか、ダーリン?」


「不味いことになっている」


 そこで庭の地面が揺れた。


「な、な、なんですか!?」


「襲撃だ。君の知人のようだが」


 そして薄暗くなった庭の中に姿を見せたのは──。


「あれは……エレオノーラ、さん……?」


 エレオノーラだ。


 だが、彼女は巨大な剣を握っていた。それが地面を揺らしたものである。


「アリスさん。悪いけど死んで。私たちのために!」


 エレオノーラはそう叫ぶとその剣を振るった。


 巨大な爆発のように衝撃波が発生し、そこから無数の殺気が生じる。それらは真っすぐアリスたちに向けて突き進んできた。


「下がっていたまえ。あれは危険だ」


 メフィストフェレスが結界を展開し、そこに殺気を帯びた魔力の刃が叩き込まれる。結界が金属音を立てて攻撃を弾くが、叩き込まれてくる攻撃の方が威力が大きい。


「それは魔剣ダインスレイフか。マモン陛下の宝物庫にあった恐るべき魔剣……! 何故人間がそれを……!?」


 メフィストフェレスが反撃を試みて正面を見据えたとき、そこに今まで攻撃を放っていたエレオノーラの姿はなかった。


「どこに……──」


「死ね」


 エレオノーラはいつの間にかメフィストフェレスとアリスの背後に回り込んでおり、そこから先ほどの強力な攻撃を叩き込もうとする。


 しかし、その狙いはメフィストフェレスがではない。狙いはアリスだ。


「させんぞ!」


 メフィストフェレスが新しく結界を展開した瞬間、エレオノーラの狙いがアリスからメフィストフェレスに移った。


「あなたから死んだ方がよさそう」


「くっ……! この私とやり合えるか、人間!」


 エレオノーラが目にも止まらない速度で斬撃を繰り広げるのにメフィストフェレスが防戦一方に追い込まれたかのように見えた。


「だが、ぬるいぞ」


 メフィストフェレスがにっと笑うとエレオノーラの背後に黒魔術によって生成された剣が現れ、それが彼女の背中を狙って飛翔する。しかし──。


「それは効かない」


「馬鹿な……!?」


 エレオノーラを目指した剣が空中が制止し、ぐるりと回転すると主であるメフィストフェレスを狙って飛翔してきた。


「おのれ!」


 メフィストフェレスはそれを爆散させ、間一髪で防いだ。同時に爆発によってエレオノーラとの距離を取る。


「呪いを上書きした、というわけか。地獄の公爵である私の呪いを上書きするとはどういう魔力をしてる。本当に人間か、貴様?」


「人間でないならなんだというの? 悪魔? 化け物?」


 エレオノーラがゆらりと動くと一瞬でメフィストフェレスとの距離を詰めて攻撃を再開。魔剣ダインスレイフから繰り出される呪術を帯びた猛烈な斬撃が次々にメフィストフェレスを襲う。


「私は人間だ。どうあろうとも」


 次の瞬間、魔剣ダインスレイフの衝撃波によって破損した地面の舗装が鋭い剣に形となり、メフィストフェレスに向けて飛来。


「呪いを自在に操っているな。あらゆるものを呪いで制御し、武器に変える力。即席(インスタント)な呪物の生成とでもいうべきか。さらには他者の呪いも上書きして乗っ取る。全く、侮れない力だ」


 エレオノーラがやっているのは黒魔術の基礎である呪い、それによる事象の制御だ。呪いを媒介に現実の事象を改変しているのである。


「御託はいい。死んで」


「あいにくだが死ぬつもりはない。お前が死ぬがいい、小娘」


 再び複数の刃が生成され、次々にメフィストフェレスに襲い掛かる。


 360度。あらゆる方向からの攻撃にメフィストフェレスが結界で即応しながら、反撃の機会を狙ってエレオノーラの動きを把握しようとする。


「速い。何という速さだ。この私でも追いつくのが難しい。これは地獄における最強格であるベルゼブブ陛下に匹敵する速度だ。まさか人間がここまでやるとは……!」


 メフィストフェレスはアリスを守りながら必死にエレオノーラに応戦するが、その形勢が不利なのは明らかだった。


 そして、その様子を見物している影が学生寮の屋上にいた。


「くくっ。始まったか。本当に人間というのは浅はかなものだ」


 サタナエルが学生寮の屋上から激戦を繰り広げるエレオノーラとメフィストフェレスを眺めて低く笑う。


「さて、どちらが勝つか。楽しませてもらおう」


 サタナエルの視線に気づかず、エレオノーラとメフィストフェレスは戦闘を続けた。


「死んで。私たちのためにも」


 ついにエレオノーラは魔剣ダインスレイフでメフィストフェレスの左腕を斬り飛ばした。真っ赤な鮮血が舞い、その血が魔剣ダインスレイフの中に吸い込まれていく。剣が血を吸ったのだ。


「血を吸う魔剣。噂通りの力だ。厄介な……!」


 血もまた魔術的な記号(シンボル)のひとつだ。血は呪いを媒介すると言われており、また初期の医療においては生命の根源であるとも見做される。


 そのような記号(シンボル)である血を吸った魔剣ダインスレイフはその鋭さを増してメフィストフェレスを襲う。


 その刃はついにメフィストフェレスの首を捉え、刎ね飛ばさんとする。


「させるかー!」


 しかし、そこで地面が隆起し、巨大な人型が生まれると、その人型が魔剣ダインスレイフの刃を掴んだ。アリスが生み出した呪いの人形だ。


「メフィスト先生に手を出すならエレオノーラさんでも容赦しない! 叩きのめせ!」


 人型が拳を振り上げ、それをエレオノーラに向けて振り下ろした。


「一閃」


 しかし、その拳が到達する前に人型が真っ二つに引き裂かれ、地面に崩れ落ちる。下級悪魔によって動く呪いの人形は上半身だけでもエレオノーラに這っていくが、エレオノーラはそれを完全に破壊。


「あなたは黒魔術を使うのか。その事実だけでもあなたを殺せる」


「そういうあなただってその魔剣は黒魔術そのものでしょう……!」


「私の黒魔術は認められている。帝国によって。帝国の発展のために」


「どういう……」


 エレオノーラが告げた言葉にアリスが困惑するのが、それを無視してエレオノーラが再び魔剣ダインスレイフを構えて加速し、一気にアリスに肉薄しようとする。


「やらせるかー!」


 再びアリスが下級悪魔を使って人型を生み出すが──。


「その手はもう読めた。初歩的な呪術に過ぎない」


 人型は動きを停止させ、そのまま崩れ落ちた。


「うぐぐ! 不味いですよ……」


「あの小娘は呪いを大悪魔のように高度に操っている。黒魔術を下手に使えば敵を倒すことがないどころか、我々に牙を剥いてくる。慎重に戦う必要があるぞ、愛する人」


「ええ。どうにかしてこの状況を突破しないといけません!」


 魔剣ダインスレイフを握って向かってくるエレオノーラを相手にアリスとメフィストフェレスが身構える。


……………………

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