勝利ののちに
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──勝利ののちに
ブリギット法王国が地図からその姿を消したのは首都セルウィウス陥落から3週間後のことであった。ブリギット法王国は全土を黒色同盟軍に占領され、この世から消滅したのであった。
「ここに勝利を宣言する」
ルートヴィヒがそう宣言するように、イオリス魔術帝国は敵対していた全ての国家に対して勝利し、戦争は終結した。
「諸君。戦争はもう終わった!」
アレックスはミネルヴァ魔術学園地下の『アカデミー』本部に久しぶりに戻り、そこでエレオノーラたちメンバーに告げた。
「やーっと終わりましたよ。これでもう死ぬような思いはしなくて済みますね」
「やれやれ。これからはゆっくりと学問に専念できます」
アリスとジョシュアがそれぞれそう言う。
「次は何か企んでいるのか、アレックス?」
「いいや。ここまで完全勝利ならば何も考えなくていいだろう、カミラ殿下。我々はこれから思う存分黒魔術を追及しようではないか!」
カミラの質問にアレックスはそう答えた。
事実、彼は戦争に勝った後のことは特に考えていなかった。
「ねえ、アレックス。その前に少し出かけたりしない? 私も戦争以外でアレックスと旅行に行きたいなって」
「ほう! それもそうだね。しかし、どこに言ったものか……」
エレオノーラが少し頬を赤らめて言うのにアレックスが唸る。
「私の城にご招待しますよ、アレックスさん」
不意にそこで女性の声がした。
「……おやおや。ベルフェゴールではないか」
「意外ではないでしょう。暫くの間はご無沙汰していましたが、そろそろまた親密になろうと思っているのですよ。私はあなたに与えたものはいろいろありますしね」
「全く。悪魔の取り立てというやつだね。困ったものだ!」
ベルフェゴールがにやり笑って言うのにアレックスがそう返す。
「エレオノーラさんも私の城に興味があるのではないですか?」
「それは別に……」
エレオノーラがそう答えようとしたときだ。
「おっと。ベルフェゴール、ボクの玩具を盗もうとするのは感心しないな」
「おや。マモンではありませんか。盗むとは人聞きの悪い」
現れたのはエレオノーラにダインスレイフを貸与しているマモンだ。
「ふむふむ。では、久しぶりに愉快な地獄めぐりと行こうではないか。アリスたちも参加するかい?」
「遠慮します」
「では、私とエレオノーラだけで行ってくるよ!」
アレックスはそう言って笑い、エレオノーラに手を差し出す。
「さあ、行こう、エレオノーラ。私たちはもう自由だ」
「うん、アレックス!」
そして、アレックスたちは地獄の国王たちとともに地獄を巡る休暇を取った。
イオリス魔術帝国は皇帝ルートヴィヒの代で終わった内戦により、再び巨大な国家へと返り咲いた。
こと魔術の分野においてアレックスたち『アカデミー』は元より、ゲオルグ・フォン・ヴィトゲンシュタイン侯爵、マリア・フォン・ツェッペリン女伯など『ヘカテの子供たち』の貢献もあり、国は栄えた。
アリスは両親の玩具屋を継ぎ、今は自分の好きな小説のキャラクターのフィギュアなどを出している。
カミラはオーウェル機関副機関長となり、今も陰謀の日々だ。
トランシルヴァニア候もまた陰謀に。
ジョシュアは今もミネルヴァ魔術学園で教師をしている。
エドワードはヴィクトリアと結婚することで恩赦を得た。
そして、アレックスとエレオノーラは結婚し、今も幸せだ。