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この戦争にケリをつける

……………………


 ──この戦争にケリをつける



 アレックスたちを乗せたドラゴンは一斉にブリギット法王国首都セルウィウスを目指し、降下を開始した。


「地上からの魔術砲撃を確認!」


「クソ。ギリギリまで隠してやがったな!」


 降下のために減速したところを地上からの魔術砲撃が襲い掛かる。


「うわ──」


 無防備な兵士たちが魔術砲撃によってドラゴンごと叩き落とされ、地面に向けて落下。次々に降下作戦に参加していたドラゴンが撃破されてしまう。


「わー! このままじゃ死んじゃいますよ!」


「大丈夫だ、ハニー。君のことは私が守ろう」


 アリスが悲鳴を上げ、メフィストフェレスがそれを庇う中、黒色同盟は降下作戦を強行した。ドラゴンたちを無理やり降下地点に推し進め、犠牲を覚悟の上で首都セルウィウスを陥落させるつもりだ。


「やれやれ! 誰がこんな無謀な作戦を考えたのやら!」


「ふん。だが、なかなか楽しめるじゃあないか」


「この状況を楽しめるのは君だけだよ、サタナエル」


 アレックスたちが騎乗しているドラゴンに向けても地上から魔術砲撃が迫る。


「バビロンッ!」


 しかし、首都セルウィウスが射程に入った時点でアレックスはバビロンを召喚。巨大なドラゴンが落下するようにセルウィウスに現れ、アレックスたちを狙っていた魔術砲撃は全てバビロンに吸い込まれた。


「はーはっはっはっ! 大暴れしたまえ、バビロン!」


 アレックスは高笑いをしながら、バビロンに破壊と殺戮を命じる。


 このバビロンの出現によってブリギット法王国側は対空魔術砲撃どころではなくなり、降下部隊に対する損害は急速に減っていった。


「間もなく地上だ! 備えろ!」


 ドラゴンがそう叫び、アレックスたちは急降下でセルウィウスに向けて降下。


「タッチダウン!」


 そして、アレックスたちはついに首都セルウィウスに降下した。


 セルウィウスの街は南部の特徴的な色鮮やかな建物が並ぶもので、これが戦時などでなければ観光を楽しめたのだろうなとアレックスは思った。


「『アカデミー』集合だ、集合!」


 アレックスはまずは別々に降下した仲間たちとの合流を急ぐ。


「ああ。そっちにいましたか」


「はー! 何とか生きてる!」


 ジョシュアやアリス、カミラにトランシルヴァニア候たちがアレックスたちに合流し、『アカデミー』はひとまず再集合した。


「我々の任務はこのセルウィウスを占領することだが、間違いなく排除しなければならない人間がいる。誰かは君たちも想像がつくだろう」


「え。誰です?」


「ガブリエル君だよ! 第九使徒教会最大戦力たる彼女は間違いなくここにいる!」


 そう、アレックスたちが優先的に排除すべきはガブリエルに他ならない。


 第九使徒教会最大戦力であり、最強の聖騎士(パラディン)であり聖女である彼女は間違いなくこの首都にいるはずなのだ。


「というわけで、ガブリエル君を探してくれ、ジョシュア先生!」


「はいはい。分かりました。しかし、こうしている間にも敵は攻撃してきますよ?」


「それらは我々が退けておこう!」


 アレックスたちは降下した先にあったホテルに立て籠もっている黒色同盟軍部隊と合流してそこに立て籠もりながらガブリエルを探すことに。


「お前たち。ここにいたのか」


「オフィーリア元帥。あなたもここにいたのだね!」


 ホテルに立て籠もってしばらく経つとオフィーリア元帥が部下を引き連れてやってきた。そして、彼女の部下たちがバリケードを構築し、司令部を設置し始める。


「現在の状況をお前たちにも説明しておいてやろう」


 オフィーリア元帥はそういって戦況を告げる。


「まず降下部隊は2割の損害を出すも降下に成功した。司令部は最大4割の損害を考えていたから、かなり少ない犠牲で降下できたな」


「それでも2割とは!」


 降下部隊は純粋な戦闘部隊であるため、ある程度損害を出しても機能する。3割で全滅ということにはならない。


「そして現在この私が指揮するオフィーリア戦闘団はこのホテルを中心にセルウィウスの北部一帯を占領した。ルクレール大佐が指揮するルクレール戦闘団は隣接して西部を占領した」


「法王がいるのは南部でしたね。官庁街もそこに」


「そうだ。故に我々は前進しなければならない。何としても」


 降下部隊は無事に降下したものの、未だに作戦目標である首都機能の喪失までは果たせていなかった。


「おっと。掴みましたよ、アレックス君。ガブリエルは南だそうです」


 と、ここでジョシュアがそう報告。


「ちょうどいい。我々は南部を制圧しなければならない。いざ、南部へ!」


 アレックスは『アカデミー』の面々にそう宣言する。


「南部に侵攻するなら我々と連携しろ。その方が効率的だ」


「もちろんだ、オフィーリア元帥。ともに勝利を掴もう」


 オフィーリア元帥の指揮下には1個旅団規模の戦闘部隊が存在し、南部への攻撃を画策している。南部が落ちれば作戦は成功だ。


「それでは一応作戦だ」


 オフィーリア元帥が地図を指して言う。


「南部に向けてルクレール戦闘団を連携しながら攻撃を実施。多方向から攻撃を仕掛けることで敵の対応を飽和させる。私も前線に出てひと暴れしてやるつもりだ」


 オフィーリア元帥が出ればそれだけで敵は彼女への対処で精いっぱいになる。そこに作戦など必要もない。


「『アカデミー』。お前たちは悪魔を動員して物量戦に出ろ。市街地戦において地元で戦う第九使徒教会には地の利がある。それを覆すには物量を叩きつけることだ」


「了解だ、元帥」


 ここでオフィーリア元帥がアレックスたちに指示。


「幸いなことに我々には強力な火力支援がある」


「まさか」


「そう、ツェッペリンがセルウィウスを砲撃可能な地点に進出している。やつはいつでもセルウィウスを更地にできると豪語していたぞ」


「凄いことだ」


 強力な砲撃魔法を操るマリア・フォン・ツェッペリンも配置に着いた。


「では、諸君。獣のように前進せよ。敵に慈悲は不要だ」


 オフィーリア元帥が将兵たちにそう命じた。


「さて! では、いつものようにアリスたちは悪魔をどんどん召喚してけしかけてくれたまえ! 我々は殴り込むよ!」


「殴り込み部隊は私とアレックスとサタナエルさん?」


「そうなるね」


 エレオノーラが確認を取り、アレックスは頷いていたときだ。


「俺たちも加わるぞ」


「エドワード兄。来たのか」


 ここでエドワードたちインナーサークルが集結。ヴィクトリアを含めた10名程度の吸血鬼たちが、司令部となっているホテルに入ってきた。


「オーケー。心強い限りだよ。それでは作戦開始だ。ゴー!」


「はいはい」


 アレックスの号令に合わせてアリスたちが悪魔を召喚。召喚された悪魔が使い魔(ファミリア)となって、前進を開始する。


 アリス、カミラ、トランシルヴァニア候、ジョシュアの4名が召喚する悪魔たちは瞬く間に膨れ上がり、第九使徒教会の聖騎士団に襲い掛かった。


「我々も前進だ。行くぞ」


「はい、元帥閣下!」


 オフィーリア元帥も堂々と前進を始め、彼女の部下たちがそれに続く。


「さあて、我々の獲物はガブリエル君だぞ。上手くやろう!」


 両軍の魔術砲撃が飛び交い、ときおりマリアの巨大な砲撃が飛んでくる戦場にて、アレックス、エレオノーラ、サタナエルの3名とエドワードたちインナーサークルのメンバーは前進を始めた。


 巨大な都市は情け容赦なく瓦礫に変えられていき、アレックスたちは瓦礫を乗り越えて前進していく。


「オフィーリア元帥たちがある程度は掃討してくれているおかげで、あまり雑魚には構わずに進むことが出来そうだ」


「退屈な話だ」


 オフィーリア元帥たちが先行して前進したので、アレックスたちは敵に遭遇することなく、前進できていた。


「ねえ、アレックス。ガブリエルさんと戦うなら私に任せてくれるかな? 一応は友達だったし、やるなら私が」


「駄目だ、エレオノーラ。それは聞けない。ガブリエル君は途轍もなく危険な相手だ。全員でやらなければ勝算はないだろう」


「そっか。分かった」


 エレオノーラにアレックスはそう言った。


 ガブリエルは以前戦ったときにもアレックスたちに勝利こそしなかったが、決して不利にもならなかった。それだけの力の持ち主だ。


「近いぞ」


 そこでサタナエルが言う。


「俺たちが先行しよう」


「頼むよ、エドワード」


 エドワードたちインナーサークルが先行し、瓦礫の山の向こうに進む。


「な──っ!?」


 不意にエドワードの驚く声が聞こえると、ヴィクトリアのものと思しき炎が吹き上がり、インナーサークルの吸血鬼たちの悲鳴が聞こえた。


「何が……!?」


「いやはや。どうやら接敵したようだ。行こう!」


 エレオノーラがうろたえるのにアレックスがそう言って走る。


 瓦礫の向こう側に到達したとき、そこには──。


「ははっ! また会ったね、ガブリエル君!」


「アレックス・C・ファウスト……!」


 ガブリエルがエクスカリバーを手にエドワードとヴィクトリアに対峙していた。そこにアレックスが現れ、ガブリエルが怒りに満ちた視線を彼に向ける。


「エドワード、ヴィクトリア! 君たちは撤退したまえ! 後は我々が!」


「分かった。そいつは化け物だ。気を付けろ」


 アレックスはエドワードたちを撤退させ、ガブリエルに対峙する。


「お前は殺す、アレックス。団長の敵だ」


「結構。我々も君に死んでもらいたい」


 ガブリエルが殺意に満ちた目でアレックスを見るのにアレックスがそう笑う。


「死ね」


「──バビロンッ!」


 ガブリエルが一瞬でアレックスに肉薄し、アレックスはバビロンを召喚して後ろに飛ぶ。バビロンはガブリエルが振るったエクスカリバーをその身で受け止め、傷つきながらも反撃を試みる。


「トカゲ風情が」


 しかし、ガブリエルは猛攻を仕掛け、バビロンに反撃の機会を許さない。


「ガブリエルさん、覚悟して!」


 ここでエレオノーラが乱入し、横合いからガブリエルに殴りかかった。


「エレオノーラ! 邪魔をするな!」


 ガブリエルはバビロンを迎撃しつつ、エレオノーラとの交戦を開始。


 彼女はそれでも互角かそれ以上に戦闘を続けていた。


「いやはや。流石は第九使徒教会最大戦力と言った具合だ。爵位持ちの上級悪魔とエレオノーラを相手に互角とは!」


「感心している場合か。さっさと殺すぞ」


「任せた、サタナエル」


 さらにサタナエルがガブリエルに襲い掛かる。『七つの王冠』を手にしたサタナエルがガブリエルに切りかかった。


「次から次に……! ですが!」


 ガブリエルがかっと目を見開くと、聖剣エクスカリバーが振るわれ、バビロンも、エレオノーラも、そしてサタナエルも後ろに弾かれた。


「ほう。神憑りか。面白い」


「まさか天使を宿すとは。思った以上の化け物だね、ガブリエル君!」


 今のガブリエルは天使を宿した状態であった。それも上級天使を宿している。その天使を宿したことで、その力は莫大なまでに引き上げられ、アレックスたちでは手に負えない存在へと変わった。


「神のために。死ね」


「だがね、ガブリエル君。君が最後までそうしなかったのは、それが死につながると分かっていたからだろう!」


 そう、ガブリエルがこれまで天使を宿すようなことをしなかったのは、ひとえにその行為が自らの死を招くからだ。高度に霊的な天使を宿すというのは、体に尋常ならざる負担がかかる。


「アレックス。俺を六つ目の頭まで召喚しろ。それでやつを殺す」


「了解だ。地獄の皇帝サタンよ、来たれ。『六つ目の頭』まで!」


 地上にサタンが、その姿を見せた。巨大なドラゴンがセルウィウスの市街地に召喚され、その真っ赤な瞳がガブリエルを見下す。


「さあ、悲鳴を上げて死ね、聖騎士(パラディン)


 サタンがガブリエルに向けて顎門を開き、そこから火炎放射を浴びせかける。


「その程度!」


 天使を宿したガブリエルはサタンの放った炎を斬り裂いて防ぎ、恐れることなくサタンに向けって突撃していった。


「ここは私が──」


「お前の相手は私だ」


「っ! エミリー先生!」


 ここで聖ゲオルギウス騎士団副団長のエミリーが乱入。エレオノーラがサタンの応援のために介入しようとするのを阻止した。


「手加減はできません。私たちの邪魔をするなら死んでください」


「やれるものならば」


 エレオノーラとエミリーがそのまま戦闘に突入。


「はてさて。サタンがガブリエル君を、エレオノーラがエミリーを相手にしているとなると私のすることがなくなってしまったぞ」


 ふたりが戦ってる中でアレックスがそうぼやく。


「ここはひとつ、あまり頼りにしたくないやつでも呼んでみるか」


 アレックスはそういうと手を掲げた。


「地獄の国王ベルフェゴールよ、来たれ!」


 アレックスがそう詠唱するとベルフェゴールが召喚された。


「ふわあ。おやおや? 私を呼び出すとは非常に珍しいですね?」


「あまりあなたには頼りたくなかったが、天使の相手をするとなると戦力不足だ。協力したまえ、ベルフェゴール!」


 大きな欠伸をして現れたベルフェゴールにアレックスがそう言う。


「私にサタン陛下の戦闘に乱入しろというのですか?」


「そうでなければエレオノーラを援護したまえ。その場合、サタンは私が支援する」


「でしたら、そうします。サタン陛下を怒らせたくはないですからね」


 ベルフェゴールはそういうとエレオノーラの援護に。


「私はサタンを支援だ。バビロンよ、その力の全てを発揮したまえ!」


 アレックスがそう唱えるとバビロンがどこまでも巨大化していき、やがてはサタンよりも巨大な存在へとなった。


「そう! そうだ! これまで繰り返してきた死によって肥大した憎悪を! その怒りを発揮したまえ! サタンの眷属である君が強大な存在になるには、怒りと憎しみを溜め込むのが一番いいのだ!」


 アレックスはそう哄笑し、巨大なバビロンがガブリエルを見る。


 そして、その腕を振り下ろした。


「邪魔者が増えた……! おのれ!」


 ガブリエルはまずはバビロンを撃破すべしとエクスカリバーの刃を向ける。


「──覚悟!」


 そして、バビロンに向けて刃が放たれ、バビロンが体のバランスを崩し、崩れ落ちていった。これでバビロンが死ぬことはないが、戦線復帰は遅れる。


 しかし──。


「雑魚に気を取られたな、聖騎士(パラディン)?」


 それこそがアレックスの狙いであった。


 ガブリエルがバビロンの相手をしなければならなくなったことで、サタンが動き、一斉にガブリエルを攻撃。


「まさか防げない──!?」


 サタンの放つ炎が、ガブリエルを押し、さらにサタンの鋭い爪が振り下ろされた。


「くうっ──!」


 エクスカリバーの刃は折れ、もはや身を守るものがなくなったガブリエルは炎に包まれて消えた。


「やったぞ。ついにやったぞー!」


 ガブリエルへの勝利にアレックスが歓声を上げる。


「ガブリエル君。君は強敵だった。だが、それもここまで。さらばだ!」


 アレックスは笑顔でそう言い放つ。


「アレックス! そっちは勝ったの?」


「ああ。勝ったとも、エレオノーラ!」


「こっちも勝ったよ。無事に聖ゲオルギウス騎士団は撃破」


 エレオノーラはエミリーを含む聖ゲオルギウス騎士団の残余戦力を殲滅していた。


「これでもはや我々を止めるものはない。我々の勝利だ!」


 このアレックスの宣言から6時間後、黒色同盟軍は司令官オフィーリア元帥がセルウィウスでの勝利を宣言した。


……………………

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