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もうひとつの目標

……………………


 ──もうひとつの目標



 神聖イオリス帝国は第九使徒教会を含めた諸外国の支援を受けて、クローネ作戦を発動。黒色同盟軍の制圧してる帝国建国の地ゴルトリッツを目指して、全戦線で一斉に攻勢に出た。


「我々は露払いのようですね」


 前線付近に展開していた第九使徒教会隷下の聖ゲオルギウス騎士団、そこに所属するガブリエルがそう言った。


「仕方がない。作戦の主導権は神聖イオリス帝国にある。我々がどうこう口の出せる問題ではないんだ。しかし、この作戦で何が得られるというのか!」


「団長。市民は勝利を欲しているのです。我々の盟友は負けすぎている」


「ふうむ。ちょっとした勝利でも宣伝にはなるというわけか」


 聖ゲオルギウス騎士団団長のアウグストと副団長のエミリーがそう言葉を交わした。


「善良な市民が戦争を恐れるのは当然ですね。まして敵が黒魔術師や魔族なら当然のこと。我々にはそのような市民を守る必要があります」


「ほら、団長もガブリエルを見習ってください」


 ガブリエルの言葉にエミリーがそう意地悪く笑う。


「むう。しかし、我々はゴルトリッツまでの前進が命じられていない。我々はあくまでゴルトリッツまでの道を切り開くだけだ。どうにも我々は軽んじられている」


「そうかもしれません。ですが、我々が命令に歯向かえば、いよいよ我々の連携は崩壊してしまいます。この連合軍がかろうじて存続しているのは、我々がこうして神聖イオリス帝国を盟主として認めているからです」


「この戦争は確かに神聖イオリス帝国の戦争だ。彼らが主導権を握っているのは間違いではない。だが、戦っているのは我々も同じこと。少しは我々にも華を持たせ貰いたいものだ」


 アウグストはそう愚痴り、再び戦いに挑んだ。


 神聖イオリス帝国率いる連合軍は徐々に戦線を押し出し、攻勢は成功しているように思われていた。これまで膠着していた戦線に大量の兵力が投入され、戦線が前進しているのだからそう思うのも当然であった。


 しかし、それは黒色同盟軍側が敢えて引き入れいているからだと、そう指摘するものは存在しなかった。


 事実としては黒色同盟軍はまさに戦力を後方に移し、待ち構えていたのだ。


「敵が前線を突破して進軍中だ。ゴルトリッツを目指している。情報通りに」


 アレックスはそう『アカデミー』の面々に告げる。


「我々はどうするのですか?」


「まだ指示はないよ、アリス。将軍たちは私たちのことを忘れてしまったかもね」


「なら結構なことです。このまま戦争が終わるまで忘れておいてほしいですね」


 アリスはアレックスに向けてそう言う。


「そもそも攻撃の目標も分かって、十二分に待ち伏せするチャンスもあるのだ。これに余計な戦力が必要だというのは、司令官の怠慢だろう」


「ですね。情報を調達した時点で我々は勝利に貢献しています」


 カミラの言葉にジョシュアが頷く。


「まあまあ。頼まれたらちゃんと仕事をしようじゃないか。勝利を欲しているのは我々全員だろう?」


「だけど、いつまで待てばいいんだろう?」


 アレックスやエレオノーラたちがそんな会話をしていたとき、黒色同盟軍の陸軍将校がやってきた。


「『アカデミー』の皆さん。シュライヒ上級大将がお呼びです」


「オーケー。行くとしよう」


 アレックスたちは呼び出しを受けて、司令部に向かった。


「『アカデミー』の諸君もそろったな。状況を説明する」


 そう言ってシュライヒ上級大将が説明を開始。


「敵は事前の情報通り、ゴルトリッツを目指している。我々は予備戦力を集結させて、ゴルトリッツにて敵を待ち構えているところだ。しかし……」


 シュライヒ上級大将は地図の上の戦況を睨む。


「敵はゴルトリッツに至る土産という具合にゴルトリッツとは別の場所を制圧するつもりだ。それはシュヴァルツタールだ。我々は敵を誘導するために可能な限りの努力をしたが、敵は我々の強固な守りを突破している」


「シュヴァルツタールが制圧されるとゴルトリッツに敵到達後の包囲作戦に影響が出る。これは阻止しなければならない」


 シュライヒ上級大将に続いてハーディング上級大将が説明。


「よって、だ。火消しとして君たちに敵によるシュヴァルツタール制圧阻止を目指してもらいたい。こちらかは1個連隊を増援をして派遣する」


「もちろんいいとも、シュライヒ上級大将! 我々に任せておきたまえ!」


 シュライヒ上級大将の依頼にアレックスが快諾した。


「よろしい。では、早速シュヴァルツタールに向かってほしい。現地はいつ陥落しておかしくない状態だ」


「うへえ」


 アリスたちはシュライヒ上級大将の説明した戦況に辟易した態度を見せる。


「具体的な作戦はあるのか?」


「シュヴァルツタール東側に流れる川を利用した防衛作戦を展開し、敵戦力を損耗させた末に反転攻勢にてこれを撃破する。反転のタイミングはゴルトリッツでの反撃開始と同じタイミングだ」


 防衛に有利な地点に陣取り、敵を撃退し続けて損耗を強い、その後反転攻勢に出る。黒色同盟が積極的な攻撃より、防御を好むのは変わらないようだ。


「では、早速向かおうではないか」


 そして、アレックスたちはシュヴァルツタールに向けて出発。


 戦線後方では神聖イオリス帝国の破壊活動を恐れて警察軍部隊と陸軍の憲兵たちが展開しており、アレックスたちは通行許可証を見せながらシュヴァルツタールに向かった。


「砲声だ」


「近かったですね」


 アレックスたちがシュヴァルツタールに接近すると魔術砲撃による砲声が聞こえてきた。そのことにアレックスたちは慎重に周囲を見渡し始める。


「まだここは戦場になっていないのだろう。しかし、主力はゴルトリッツに集結している。エドワードのインナーサークルもゴルトリッツだ。ツェッペリン卿もね。私たちを支援してくれるのは僅かに1個連隊!」


「そこまで分かっているなら最初から断ればよかったじゃないですか」


「そういうわけにはいかないさ、アリス! 私はもう負けたくないんだよ!」


 アレックスはもう前世で一度敗北している。これ以上の敗北は彼はごめんだった。


「そろそろシュヴァルツタールだ」


 アレックスたちを乗せた馬車はゆっくりとシュヴァルツタールに入っていく。


 ここに来ると明確に魔術砲撃の砲声が聞こえてくる。それに加えて地面も衝撃で振動しているのが感じられた。


「止まれ! 誰か!」


 シュヴァルツタール市街地に入ると検問が設置されており、そこで警察軍の兵士たちがアレックスたちに誰何を行う。


「アレックス・C・ファウスト! 『アカデミー』だよ!」


「ああ。連絡にあったな。案内するので司令部に向かってくれ!」


 ここから警察軍の騎兵が先導してアレックスたちをシュヴァルツタール市街地内に設置されている司令部に案内した。


「よく来てくれた、『アカデミー』の諸君。私はヴァルター・ツィンマーマン大佐だ。現在シュヴァルツタール防衛に任務に当たっている混成部隊ツィンマーマン戦闘団の司令官である」


 司令部ではツィンマーマン大佐という陸軍士官が指揮を執っていた。


「ツィンマーマン大佐。我々は何をすればいいのだろうか?」


「むろん、敵の撃退だ。敵は戦力差にものを言わせて我々への圧力を増している。だが、我々はこのシュヴァルツタールを渡すわけに科いかないのだ」


 ツィンマーマン大佐はそう言って地図を広げる。


「この地点まで敵は進出し、我々はこの川沿いの防衛ラインにまで撤退した。そして、既に黒色同盟最高統帥会議から知らされているだろうが、ゴルトリッツでの反撃のタイミングに合わせて我々は反撃に出る」


「それまでは川を天然の要害として時間を稼ぐ、と」


「そうだ。今は耐え忍ぶ必要がある」


 ツィンマーマン大佐は現時点では反撃など夢もまた夢であること認めた。


「そして、不味いことに我々が防衛線にしている川はそこまで深いわけでも、流れが速いわけでもない。渡ろうと思えばどこからでも渡河できる」


「なんとまあ! 障害物が障害物になってないじゃないか!」


「残念なことにな。だが、時間稼ぎ程度にはなる。『アカデミー』の諸君にもこの防衛戦に参加してもらうことになるがいいか?」


「私たちに何か名案があるわけではないので、それで構わないとも」


 アレックスたちは何かこの危機の迫る状況を解決する手段を持って、このシュヴァルツタールにやってきたわけではない。将軍たちに要請されて何も考えずにやってきただけなのだ。


「早速だが、諸君には防衛線が破られた場合の予備戦力として待機してもらおう。何かあればすぐに出動してもらう」


「では、待っているよ、大佐!」


……………………

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