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されど戦線は

……………………


 ──されど戦線は



 無事に第二戦線は構築された。


 神聖イオリス帝国軍側は自らの後背を脅かされる位置に敵を抱え、それを排除するためのツェルベルス作戦にも失敗。迂闊に部隊を動かせなくなってしまった。


 しかしながら、そのような事情は黒色同盟軍も同様であり、辛うじて構築した第二戦線は維持するだけで精一杯であった。ツェルベルス作戦で受けた損害は無視できないものとなっており、西部方面軍司令官となったアルフォンス元帥も慎重になっている。


「というわけで戦線は再び膠着したわけだが。何のために第二戦線を作ったのやら!」


 戦線膠着を打破するための第二戦線構築は、戦線膠着を打破できなかった。


「しかし、敵も衝撃を受けているのは確かです。上陸作戦によって後方連絡線が脅かされていますからね。我々の側から動かなくとも、また神聖イオリス帝国の方から動くのではないでしょうか?」


「あなたには似合わない楽観主義だが、今はそう考えておきたいものだ、トランシルヴァニア候」


 トランシルヴァニア候の言葉にアレックスが渋々と頷く。


「我々はこれからどうするのだ?」


「暫くは火消しだよ。何か不味いことがった場所に投入される即応部隊。我々の運用方法としては間違いではないね」


「要は将軍たちのしりぬぐい部隊か」


 アレックスの説明にカミラが肩をすくめた。


「けど、戦線が膠着しているんじゃ私たちの出番もなさそうだね」


「全くだよ、エレオノーラ。早く将軍たちには攻撃を開始してもらいたいものだ。主導権とは攻撃によって得られるのだよ」


「そうだね。それに戦争が長期化すると皆が戦争に協力しなくなっちゃう」


「それが大きな問題だ。厭戦感情は既に広まりつつある」


 帝国の分裂から始まる戦争に市民はうんざりし始めていた。


 両軍ともに徴兵制を布いて、強制的に兵士を集めているが、そのことへの不満が蓄積し始めている。無理やり兵士にされて、死ぬかもしれない戦場に放り込まれて、それで不満を覚えない人間などいないのだ。


 それに市民の生活に必要な生活必需品についても、軍需品の生産が優先されたことによって後回しになっており、後方の市民も生活も悪化していた。


「さっさと勝つなり、負けるなりしないとどっちの軍も放棄した市民にひっくり返されるだろうな」


「ふん。連中がどうこう言う前に見せしめに10人、20人くらい吊るせば、そういう気も失せるだろうさ」


 カミラが言うのにサタナエルがそう言い放った。


「何かしらの勝利があればいいのだよ。戦術的な勝利でもいい。宣伝に足る勝利があれば、市民の厭戦感情も多少なりとマシになるだろう」


「その勝利はどこで?」


「実を言えば『ヘカテの子供たち』は未だに神聖イオリス帝国に協力者を有している。よって、その協力者を使って、神聖イオリス帝国側が何をするのかを確かめ──そして、それを阻止する!」


 ジョシュアが尋ねるのにアレックスがそう宣言。


「上手くいくんですか、それ」


「行かないと我々全員が困るんだよ、アリス!」


 このアレックスの発想は間違いではなかった。


「厭戦感情は深刻です」


 神聖イオリス帝国側でもクイルンハイム上級大将がビューロー宰相にそう報告していた。彼はアドラーベルクからザルトラントまでの一連の敗北のために、ストレスで急激にやせていた。


「現在戦線は膠着していますが、犠牲が出ていないわけではないのです。小規模な衝突が繰り返され、将兵が死傷して、周辺にも被害が出ている。それでいて勝利と呼べる勝利は存在しない」


「確かにそれは問題だ。では、どのようにすればいいのだろうか、クイルンハイム上級大将? 君には考えが?」


「あります。限定的な攻勢で象徴的な勝利を手にすることです。我々こそが正統な帝国だと示すことができる土地を占領する、というわけですな」


「それはどこになる?」


「ゴルトリッツ。帝国建国の地です」


 ゴルトリッツは帝国における京都のような場所だ。帝国の建国初期は首都でもあった。そのゴルトリッツをクイルンハイム上級大将は奪取しようと考えていた。


「可能なのか?」


「ええ。困難ではありますが、全く不可能ではないとも」


 ゴルトリッツは現在黒色同盟軍の占領下にあるものの、そこまで厳重に守られているわけでもなかった。


「一度戦線を突破する必要がありますが、それについては準備を進めております」


「分かった。では、任せよう」


「了解」


 こうして神聖イオリス帝国側はゴルトリッツ奪取を目指して作戦を立案。


 作戦名はクローネ作戦と呼称。その作戦の発動は敵による探知を避けるために迅速に行うということが決定したのだった。


 しかしながら、アレックスたちはこの攻撃情報をすぐさま手に入れていた。アレックスが言っていたように、未だに残る『ヘカテの子供たち』による諜報活動によってクローネ作戦の情報は盗み出されたのだ。


「敵はゴルトリッツを目標に攻撃を仕掛けてくる」


 アレックスは黒色同盟最高統帥会議の場でそう言った。


「それもかなり早い段階で仕掛けてくると思われる。将軍たちには是非とも対処していただきたい!」


「当然だ。敵が狙っている目標が分かるのであれば、対処のしようもある」


 アレックスの言葉にシュライヒ上級が頷く。


「ここはあえてゴルトリッツに誘い込んでは? その上で後方連絡線を遮断し、敵の戦力に打撃を与えるというわけだ」


「ふむ。敵は戦線を突破する際にも犠牲を出すだろうが、それを拡大するのも最適だな。ここで敵戦力を減らさなければ勝利は遠い」


 前に述べたように戦線は膠着している。その膠着を解くためには敵に打撃を与えるのが一番いい。


 今回は敵に先に行動させ、あとから打撃を与えるという後の先という戦術を、黒色同盟最高統帥会議は決定した。


 この戦いで敵に打撃を与え、勝利するのである。


「いよいよ戦争が大きく動くかもしれないよ、諸君」


「速く終わってほしいですよ。何もいいことはないですし」


 厭戦感情はどうやら『アカデミー』の中にも蔓延してしまっているようだ。アリスたちは辟易した表情をしている。


「今回の作戦に私たちは参加するの?」


「いや。やっぱり火消しの役割だ。というわけで、具体的にどうこうしろという指示は未だにない」


「そっか」


 エレオノーラはアレックスの言葉に少し安堵したような表情を浮かべる。


「お菓子を焼きたかったんだけど、時間はあると思っていいだよね?」


「もちろんだ! できれば私にも食べさせておくれ!」


「ふふっ。じゃあ、みんなの分を焼いておくね」


 戦争に間にもアレックスたちは進行を深めたのであった。


 その間にも黒色同盟軍の作戦は進んで行った。


 クローネ作戦に対する黒色同盟軍の対抗作戦の準備は進められ、その作戦名はリヒトシュヴェーアト作戦と呼称。


 準備を進める両軍は兵力を戦略機動させ、お互いの動きに合わせて動いた。


 そして、両軍が一斉に前線で動いた。


……………………

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