第二戦線
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──第二戦線
イオリス魔術帝国と神聖イオリス帝国に分裂した帝国。
戦線は再び膠着し、このまま季節が過ぎ去っておくかのように思われた。
「第二戦線を構築すべきだと考えるね」
黒色同盟最高統帥会議の場にてそう発言するのはアレックスだ。
「私としてもそれを考えていた。今は穏やかな南部方面にて海上から敵地後方に上陸し、そのまま敵の戦力の分散を狙うというものだ」
「確かに膠着した戦線を打破するにはそれぐらいしか方法はないな」
シュライヒ上級大将がアレックスの発言を認め、コルネリウス元帥も同調。
「ミネルゼーン政権には現在大量の戦力が派遣されてきている。それらが防衛体制を取れば、前線の突破はほ困難になる。よって敵の戦力を分散させるのだよ」
アレックスは自慢げにそう言い、地図を見渡す。
「しかしながら、どの地点で攻撃を仕掛けるべきなのだろうかね?」
「敵が絶対に攻撃はないと油断している場所であり、同時に継続的な補給が不可能ではない場所だ」
アレックスが問い、シュライヒ上級大将が地図を指さす。
「それらを踏まえれば、この工法のザルトラントこそ襲撃するに適している」
シュライヒ上級大将が指さしたのは神聖イオリス帝国の西部にあるかなり後方の都市であった。
「ふむ。補給はどのように?」
「船舶を片っ端から徴用するしかないだろう。とにかく船が必要だ」
それから兵站上の問題などが話し合われ、第二戦線の構築が決定。
作戦名はドルフィン作戦と呼称。
全6個師団7万5000名を動員し、艦艇多数も投入することになり、海軍が中心となって作戦への準備を始めた。
「というわけで、上陸作戦だよ」
「うへえ」
いつものように『アカデミー』の会合の場でアレックスが述べるのに、アリスが速攻で嫌な顔ををして見せた。
「第二戦線というやつですね」
「そうだ、トランシルヴァニア候。我々には第二戦線が必要だ。このどうにも動かない戦線を前にしては、ね」
トランシルヴァニア候が察するのにアレックスは頷く。
「戦争はさっさと終わらせたいものだが。資源と人材の壮大な無駄遣いだ」
「戦争は誰もが英雄になれる愉快なものだよ。私は戦争を否定しないし、できるならばもっ盛大に戦争を行いたいものだ」
カミラはうんざりしたように言い、アレックスはそう笑う。
「それで、私たちはその上陸作戦に参加するの?」
「ああ。その通りだ、エレオノーラ。私たちは上陸作戦の支援を行う。何せ我々イオリス魔術帝国は人手不足だからね」
アレックスたちもドルフィン作戦に参加かすることになっていた。上陸部隊の第2梯団に参加し、橋頭保の拡大に参加するのだ。
「船旅になるから酔いやすい人は注意しておきたまえ!」
こうしてアレックスから上陸作戦について知らされ、ドルフィン作戦の準備が次々に進んで行くのだった。
さて、そのドルフィン作戦において上陸船団を出撃させる港は、グレート・アイランド王国にあった。グレート・アイランド王国のラストハーバーが出撃する艦隊の拠点となり、そこに艦艇と上陸部隊が集結。
アレックスたちもラストハーバーへと渡った。
「また来たね、グレート・アイランド王国」
「うむ。悪くない場所ではある」
アレックスたちはアリスの実家があるグレート・アイランド王国を訪れた。
「参加するのは本当に『アカデミー』の人間たちだけなのだな」
「ああ。カミラ殿下。エドワードたちインナーサークルには敵を今ある戦線に留めておく役割を任せている」
「なるほど」
エドワードたちインナーサークルは今回の上陸作戦には参加しない。彼らは今現在膠着している戦線に敵を留める仕事が任されている。
「作戦決行まであと1日だ。今日は備えようではないか!」
アレックスがそう宣言している間にも、作戦に参加する海軍の艦艇が終結しつつあった。海軍の存在しないアルカード吸血鬼君主国を除き、イオリス魔術帝国とバロール魔王国の2か国の海軍が集結する。
「みたまえ、エレオノーラ。あれは我が国最大の戦列艦たるカイザー・バルバロッサだよ。あれも作戦に参加するのだね」
「とても大きな船ばっかりだね」
この世界の海軍は大抵魔獣によって牽引される。問題のカイザー・バルバロッサもシーサーペントによって牽引され、素早く航行できるものであった。
上陸作戦に参加する輸送船には民間のものも混じっており、それらは長い桟橋に列を作っている。6個師団もの戦力を輸送する輸送船はそれだけ多い。
「さてさて。まずは制海権を確保することになるが、どうなるやら」
アレックスがそう危惧する中、両国の海軍は上陸作戦に当たって制海権を確保する必要に備え始めた。
「艦砲射撃を実施し、敵艦隊の出撃を誘うことを提案する」
そういうのはイオリス魔術帝国の海軍司令官フェルディナント・フォン・ホルツェンドルフ提督だ。彼は地図を指さしながら、どのようにして神聖イオリス帝国の海軍力を削ぐかを提案している。
「艦隊が存在することで圧力をかける現存艦隊主義など解決にはならない。積極的に敵戦力と交戦し、これを撃破することが勝利への未知だ」
「同意する。敵艦隊を撃滅せずして上陸作戦はあり得ない」
バロール魔王国の海軍司令官もホルツェンドルフ提督の作戦に同意。
「こちらにはドラゴンが存在する。敵を釣りだしたタイミングで投入し、敵艦隊に火炎放射を浴びせるならば、敵は大打撃を受けることだろう」
と、ホルツェンドルフ提督。
「では、提案通り艦砲射撃にて敵艦隊を誘導し、決戦に挑もう」
「合意してくれて感謝する。作戦の指揮は我が国の側が執る。必ずや勝利してみせようではないか」
そして、作戦の準備は進み続け、ついに決行日が訪れた。
「では、諸君。作戦開始だ」
ラストハーバーの港を出撃するのは黒色同盟軍側の旗艦カイザー・バルバロッサで、その旗艦には帝国海軍のアルフレート・シュニーヴィント提督が乗船していた。
「全艦艇出撃完了」
「よろしい。これより我々は逆賊の制圧下にあるゴルトハーフェンへの艦砲射撃を実施し、敵艦隊を殲滅する」
陸戦用の大砲の利用は極めて限定的だが、海戦と攻城戦において全面的に使用されている。作戦に参加している艦艇に満載された大砲に砲弾が込められ、砲口がゴルトハーフェンに向けられた。
「撃て!」
そして、砲声が響く。
放たれた砲弾はゴルトハーフェンの港湾部に着弾し、そこにあるものを薙ぎ払った。砲撃はその後も繰り返され、港湾部の艦艇などが被害を受けていく。
そして、当初の目的通り、これ以上の艦砲射撃を阻止するために、神聖イオリス帝国海軍が出撃してきて、黒色同盟海軍に決戦を挑んできた。
「敵艦隊出現! 3時の方向より我が艦隊に接近しつつあり!」
「予定通りだな。叩きのめせ!」
両艦隊は交戦状態に突入。
目標をゴルトハーフェンから敵艦隊に移した黒色同盟海軍が砲撃を浴びせ、神聖イオリス帝国海軍はそれに耐えながら突撃を継続。
「敵艦隊、我が艦隊に突っ込んできます!」
「クソ! その前に沈めろ!」
神聖イオリス帝国海軍は横腹を晒している黒色同盟海軍艦隊に突入。そのまま敵艦隊に体当たりと砲撃を浴びせながら、暴れ回った。
「艦隊、被害甚大!」
「まだ数では我々が勝っている。勝利を!」
その後、砲撃、体当たり、移乗攻撃のあらゆる戦闘が繰り広げられ、最終的に黒色同盟海軍がこの決戦に勝利した。
神聖イオリス帝国海軍は壊滅し、黒色同盟は会場作戦におけるフリーハンドを確立したのであった。
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