砲兵叩き
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──砲兵叩き
アレックスたちを乗せたドラゴンの編隊が、遥か後方から砲撃を繰り返すマリアを止めるために空を駆ける。
「前方に何か見える。警戒せよ!」
しかし、今回の空中機動作戦には敵の妨害があった。
「グリフォンだ。ミネルゼーン政権軍の要撃部隊の模様!」
「積み荷を乗せていないドラゴンは応戦しろ!」
そう、ミネルゼーン政権軍は要撃のグリフォンを送り込んできた。ドラゴンと遜色ない速度のグリフォンがドラゴンの編隊に向けて、より高い高度から迫る。
「3カウントで一斉に火炎放射を実施!」
「3カウント!」
ドラゴンたちは戦列歩兵のように横陣を組み、前方に向けて一斉に火炎放射。ドラゴンたちの進路が炎に覆われる。
「やったか……!?」
「まだだ! 突破された! 応戦しろ!」
ドラゴンの火炎放射を突破したミネルゼーン政権軍のグリフォンたちは、そのままドラゴンたちとのドッグファイトに突入した。
「うおおっ!? まさか我々を乗せたまま空中戦をやるつもちかね!?」
「こちらの戦力は限定的だ! 使えるものは全て使う!」
「なるほど! でるあるならば私も強力しようじゃないか! バビロン!」
アレックスは上空でバビロンの召喚を決行。上空に巨大なドラゴンが姿を見せた。
「やれ、バビロン!」
アレックスが命じ、バビロンがグリフォンたちに襲い掛かる。
「いいぞ。これならば突破できそうだ。総員突撃、突撃!』
ドラゴンたちは一斉に加速し、要撃に上がったグリフォンたちを掠めると、一気に飛び抜けたのだった。
「敵のグリフォンは依然として我々を追尾中!」
「クソ。しつこい奴らだ」
それでもミネルゼーン政権軍は撃墜を諦めず、一度突破させてから、その背後を執るという戦略行動に出たのだ。
「振り払え!」
「駄目です! 逃げられな──」
護衛の小型ドラゴンがグリフォンに跨った兵士の構える槍で貫かれた。
「クソッタレ! 再度迎え撃つぞ!」
そして再び空に炎が舞う。
グリフォンが数体撃破されたところで、ミネルゼーン政権軍の要撃部隊は撤退を始めた。勝ち目がないと悟ったのだろう。
「今だ! 突破しろ!」
ドラゴンたちは大きく羽ばたき、目的地に急ぐ。
「こちらがどこを目指しているかまでは把握されていない。急げ間に合う!」
「何とか辿り着かないと……!」
アレックスたちがそう唸る中、ドラゴンたちは目的地に迫る。
そして──。
「あれは……!?」
「魔術砲撃だ。間違いなくあそこが目的地だぞ!」
アリスたちが呻き、アレックスが漢籍を上げる先からは、魔力で形成された砲弾が放たれ、そのままアドラーベルクに向けて飛翔していた。
「間もなく降下地点! 降下準備!」
ドラゴンたちは一斉に降下を始め、マリアがいる砲兵陣地へと急降下。
「!? 気を付けろ! 狙わているぞ!」
アドラーベルクを砲撃したはずのマリアの砲撃の向きが、降下を行っているドラゴンたちに向けられた。護衛のドラゴンが被弾すると跡形もなく消し飛んだ。
戦艦の主砲と同等の威力の砲撃である。喰らえばただでは済まない。
「急げ、急げ! 早く降下するんだ!」
「また1騎やられた!」
砲撃は激しさを増し、砲弾の嵐の中をアレックスたちはくぐり抜けた。
「こうなれば、だ。バビロン! 弾除けになれ!」
アレックスがバビロンを前面に押し出し、飛来する砲弾に対する盾にする。それによってアレックスたちが出し続けていた損害がようやく止まった。
そして、ついに──。
「タッチダウンだ! さあ、今こそやってやろう!」
アレックスたちは地上に降り立ち、マリアを前にする。
「『アカデミー』か。黒魔術師同士で殺し合うことになろうとはな」
「今からでもこちらに着くという選択肢もあるよ、ツェッペリン卿?」
「遠慮しておこう。私には私の忠誠がある」
「では、交渉決裂だ」
マリアが魔術砲撃の術式を切り替え、同時にアレックスたちも戦闘準備に。
「ここで死ね、帝国を裏切ったものたちよ!」
口径40ミリ機関砲に匹敵する威力の魔術砲撃が掃射され、アレックスたちについてきた魔族たちが次々に被害を出す。
「対砲撃防御を展開するんだ! 急げ!」
「くうっ! オーケーだよ!」
アレックスが叫び、エレオノーラたちが対砲撃防御を展開。
「ここは我々にお任せを、ツェッペリン卿」
「ああ。任せるぞ」
ここで『ヘカテの子供たち』のメンバーが現れて戦場に立つ。
「連中を蹴散らして、ツェッペリン卿を無力化するぞ! 行け、バビロン!」
バビロンがマリアを葬るために前に出た。巨大なドラゴンが敵に襲い掛かる。
「我々もだ! 悪魔を呼べ!」
しかし、呼応するように敵も悪魔を召喚し、バビロンに応戦。
悪魔たちが決して死ぬことはない殺し合いを繰り広げ、地上に地獄が広がる。
「アレックス! 私とエドワードさんで肉薄して、ツェッペリン卿を排除するよ!」
「了解だ! 可能な限り援護する!」
このまま悪魔を召喚しあっても埒が明かない。そこでエレオノーラがエドワードとともに近接戦闘を仕掛けることに。
「ダインスレイフ!」
全ての呪いが上書きされて敵の方を向き、同時にそれによって生まれた混乱の中をエレオノーラとエドワードが駆け抜ける。
「クソ! ヴィトゲンシュタイン侯の娘がいるなんて──」
「の、呪いが乗っ取られているだと!?」
応援に現れていた『ヘカテの子供たち』のメンバーたちが惨殺されていく。
「ちっ。流石にヴィトゲンシュタイン侯爵の娘と吸血鬼の王族が相手では分が悪い」
マリアはそういうと攻撃の矛先をアレックスたちから、エレオノーラたちへと移した。再び戦艦の主砲並みの大きなになった魔術砲撃が火を噴き、エレオノーラたちを吹き飛ばさんとする。
「そうはさせない! 目には目を、歯には歯を!」
しかい、そこにアレックスの対砲撃防御を介入し、砲撃を弾き返した。
「なっ……!」
マリアが爆風を浴びて姿勢を崩し、よろめいた。
「そこまでです!」
そして、姿勢を崩したマリアに向けてエレオノーラがダインスレイフの刃を突き付けた。チェックメイトだ。
「はあ。そのようだ。私を殺すのか?」
「あなたには利用価値がある。我々としては殺すより、仲間に引き入れたい。それにヴィトゲンシュタイン侯閣下から何か言伝があるのではないかな?」
「随分と読みが深いな。その通りだ。閣下から伝言がある」
「後で聞かせてもらおう。今はとりあえず撤退だ!」
アレックスがそういうのも当然だ。今、この砲兵陣地に向けてミネルゼーン政権軍の増援が大挙して向かってきているのだから。
「乗れ、乗れ! 撤退だ!」
アレックスたちはドラゴンに跨り、一斉に空に飛び立つ。
「帰ったら伝言を聞かせてもらうよ、ツェッペリン卿」
「ああ。我々は同じ黒魔術師だ。殺し合うのは馬鹿らしい。帝国への忠誠心があったとしてもな」
「全く以て同意するよ」
こうして予定通り、アレックスたちはマリアの無力化に成功。
ヴィンターナハト作戦は継続され、空中機動部隊はヴェストアドラーベルクの後方に降下して後方連絡線を遮断。敵に混乱を呼び込んだ。
さらには渡河部隊は渡河に成功し、ヴェストアドラーベルクになだれ込んだ。
ミネルゼーン政権軍はアドラーベルクを讃えながら、防衛線を継続し、後がないミネルゼーン政権軍はあちこちの建物に立て籠もって戦闘を継続した。
しかし、ながらその運命はもはや尽きたようなものであった。
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