第二次アドラーベルクの戦い
……………………
──第二次アドラーベルクの戦い
黒色同盟最高統帥会議は速やかなアドラーベルク攻略を目指し、次の作戦を立案。
それがヴィンターナハト作戦である。
「我々はアドラーベルクを確保し、ここから渡河して橋頭保を拡大したのちに、アドラーベルクにおいて本格的な架橋を開始する」
シュライヒ上級大将はそう述べた。
「作戦名はヴィンターナハトと呼称。作戦計画は以下の通りだ」
ヴィンターナハト作戦の詳細が語られる。
まずカイゼルブルク政権軍は夜間における大規模な空中機動によって、アドラーベルクに通じる街道を占領。ミネルゼーン政権軍の後背にナイフを突き刺すがごとく、後方連絡線脅かす。
続いて陸軍主力が一斉に複数の場所で渡河を開始し、それによってミネルゼーン政権軍を撹乱しながら渡河を成功させ、そのまま空中機動部隊とともにミネルゼーン政権軍を挟み撃ちにする。
「ふむ。またしても空中機動部隊をそのように使うのは、流石に相手も警戒しているのではないだろうか? 空中機動部隊と言っても事実上の軽歩兵だ」
ヴィンターナハト作戦ついて聞かされたコルネリウス元帥がそう言う。
「分かっている。今回は速やかに渡河を成功させることに尽力する。それに、だ。敵が後方の空中機動部隊の相手をするならば、渡河に対する抵抗はそれだけ減少する」
「そうだな。空中機動部隊は精鋭でもある。やってくれるだろう」
シュライヒ上級大将の言葉にハーディング上級大将が答える。
「ヴェストアドラーベルク市街地ではオストアドラーベルクと同様に激しい敵の抵抗が予想される。その中でもっとも危険なのは、ロート橋を執拗に砲撃した敵の魔術砲撃だ。これについて情報がある、情報参謀、頼む」
「はっ! 魔術砲撃を実行したのは、マリア・フォン・ツェッペリン女伯です。既に『ヘカテの子供たち』の一員であることが確認されております」
シュライヒ上級大将が求めるのに列席していた情報参謀が報告。
「ツェッペリン卿はこれまで公安当局にマークされるようなことはなく、普通の人間であると思われてきました。しかし、ツェッペリン卿も恐らくは黒魔術師であり、黒魔術であの砲撃を実現したものと思われます」
「そして、今や我々にとって最悪の脅威だ」
情報参謀の言葉にコルネリウス元帥がそう言って唸る。
「そう、最悪の脅威だ。早急に対応をとる必要がある。ツェッペリン卿を殺すのか、あるいは他の方法で無力化するか」
「殺す以外に方法があるとでも?」
「彼女も黒魔術師なのだろう? 引き入れることはできないか?」
シュライヒ上級大将がハーディング上級大将の言葉にそう尋ね返した。
「分からない。だが、寝返りを促すのはそう簡単ではないだろう」
「『ヘカテの子供たち』がミネルゼーン政権においてどういう立場にあり、何を目的としているかによるだろうね。彼らは彼らとしての目的があってミネルゼーン政権に使えているというわけだから」
シュライヒ上級大将は首を横に振るが、ここでアレックスが発言。
「いずれにせよ、ツェッペリン卿対策の作戦も同時進行させなければならない。我々はこの任務を是非とも『アカデミー』に受けていただきたいのだが」
「了承した、シュライヒ上級大将閣下。引き受けよう」
「よろしい。それで、だ。ツェッペリン卿対策には『アカデミー』を中核とした空中機動部隊を砲撃を行っている彼女のいる場所に送り込み、暗殺、または拘束などを実施する。幸い、まだこちらの航空優勢は揺らいでいない」
空中機動部隊が再び編成され、それによってマリアを叩く。
「私からもいいだろうか? 今回の戦いから我々の側に新しい同盟者が現れる」
「同盟者?」
アレックスが言いだした言葉に列席者たちが怪訝そうにする。
「そうとも。何よりも恐ろしく、何よりも残忍で、何よりも強力な軍勢」
アレックスはそう言うと不意に司令部に甘い匂いと硫黄の臭いが漂い始めた。
「ふわあ。初めまして、皆さん。私はベルフェゴール。この度は皆さんを支援するためにやってまいりました」
そして、現れたのは他でもないベルフェゴールだ。彼女がにやりと笑ってその姿を見せたのであった。
「地獄の国王ベルフェゴール……!」
「国王級の大悪魔をどうやって……」
ベルフェゴールが姿を見せたことにその場が騒然となる。
「落ち着きたまえ。彼女は味方だよ。彼女には地獄からの援軍を率いてもらうことにしている。今回の攻勢に利用できるだろう。是非とも彼女と彼女軍勢を活用していただきたい、将軍たちよ!」
アレックスはそう高らかと宣言。
「ふむ。地獄からの援軍というものが、どういうものが教えてもらっても?」
「悪魔たちですよ。大量の悪魔たちを動員します。あなた方は既に下級、中級悪魔の軍勢を組織し、同時にそれと戦っているでしょう? それをちょっとばかり本格的にしただけですよ」
「ということだ。彼女の戦力はいくら損耗しても心が痛まない。囮にでも、弾除けにでも、何とでも使うといいだろう」
ベルフェゴールとアレックスが次々にそう言う。
「そういうことであれば、そちらの戦力を作戦に組み込もう」
シュライヒ上級大将は頷き、ベルフェゴールたち悪魔を作戦に組み込む。
ヴィンターナハト作戦は幾度か書き直され、最終的に決定した。
黒色同盟軍はアドラーベルクから渡河するが、その際に敵を撹乱する目的でヴォルフバーデンにおいても悪魔たちを使った陽動を実施。
一気に運河を渡河して、ヴェストアドラーベルクを制圧。橋頭保を拡大したのちに、敵が首都とする場所であるミネルゼーンに向けて進軍。
「一刻も早くミネルゼーンを落とす必要がある。そうしなければ時間が経つほど諸外国が介入してくる可能性が増す。アドラーベルク=シュネーハイム線でもたもたしている場合ではないのだ!」
「その通り。我々は速やかに前進しなければならない」
アレックスの言葉をコルネリウス元帥が同意して見せた。
「では、急がなければならないね」
「無論だ。我々は3日以内にヴィンターナハト作戦を決行する」
そえからまさに3日後、黒色同盟軍は再びアドラーベルクで軍事活動を再開。
「急げ、急げ! 渡河するんだ!」
工兵によって運河に浮き橋がかけられ、その上をまずは悪魔たちが進む。
ミネルゼーン政権軍の魔術砲撃が降り注ぐ中を工兵が橋を維持し、悪魔が時折吹き飛ばされながらも渡河を継続していく。
「現在、渡河は橋頭保の拡大にまで進行。悪魔を前面に押し出し、こちらの将兵の損耗は押さえております」
「よろしい。今回はちゃんと渡河できそうだな……」
第3擲弾兵師団ではバイエルライン中将がそう言っていた。
「報告!」
そこで兵士が駆けこんできた。
「魔術砲撃です! 例の強力な魔術砲撃が再開しています!」
「ついに来たか……!」
ここでついにマリアの魔術砲撃が渡河を行う黒色同盟軍に対して襲い掛かってきた。
砲撃は運河に着弾しては水柱を噴き上げ、浮き橋が揺れる。
「友軍がアドラーベルクでツェッペリン卿の魔術砲撃を受けている。よって、いよいよ我々の出番だ!」
待機していた『アカデミー』のメンバーたちにアレックスが宣言。
「これよりツェッペリン卿の無力化を目指して行動するよ! 生死を問わず、だ!」
「おー!」
アレックスのその宣言にエレオノーラたちが気合を入れる。
「では、砲兵潰しに向かおう」
……………………