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次の戦いに向けて

……………………


 ──次の戦いに向けて



「渡河作戦に使用する仮設橋の建設が進んでおります、陛下」


「ふむ。よいことだ」


 皇帝ルートヴィヒは帝国陸軍の工兵が中心になって進めている仮設橋の建設現場を見てそう言った。


 運河を渡河するための仮設橋はいくつもの浮きからなっており、それらを連結することで橋を構築するようになっていた。


 もっともこれは暫定的なもので、渡河成功後にはちゃんとした橋が架けられる。


 このように黒色同盟は再びアドラーベルクに攻め入り、そこで運河を渡河することを決定していた。


 渡河するならどこでもいいと思うかもしれないか、ちゃんとしたインフラが整っている都市アドラーベルクと他の道路すら何もない場所では、圧倒的にアドラーベルクの方に価値がある。


 黒色同盟最高統帥会議も運河の渡河を決定しており、準備を進めていた。


 アレックスたちもまた準備に入っていた。


「あなたの力を借りるということの意味を、私はちゃんと理解しているつもりだ」


 アレックスはそう言い放つ相手は彼に近しい悪魔。


「ふわあ。もちろんですよ、アレックスさん。私ならば喜んで手を貸すと理解しての上でしょう?」


 そう、ベルフェゴールだ。


「戦争と恋愛では手段を選ぶなというが、あなたの手を借りることにはかなりの拒否感がないわけではない。あなたほど邪悪な悪魔も存在しないだろうからね」


「それはまた心外ですよ。ベルちゃんはあなたのお母さんだというのに」


「そういうところがまさに邪悪だ」


 泣いたふりをするベルフェゴールにアレックスが肩をすくめた。


「ですが、あなたはその邪悪さに憧れた。でしょう?」


「まさに。あなたのように振る舞うのは私にとって理想だよ。あなたのように傍若無人にありたいものだ」


「そうすればいいではないですか。私が手を貸せばこの世の全てのものを平服させられる。あなたこそが皇帝になればいいのです。あなたが望んだように主役になればいいのです。そうではないですか?」


 アレックスの言葉にベルフェゴールがそう尋ねる。


「私は主人公(ヒーロー)になるつもりはもうない。私は悪役(ヴィラン)となるんだ。そして、その悪役(ヴィラン)は決して皇帝のような責任ある立場の人間ではないのだよ!」


「ふわあ。なんとまあ。それならばそれで考えておきましょう」


 アレックスの言葉にベルフェゴールが欠伸をしながら頷く。


「まずはこの戦争に勝利しなければ。黒色同盟最高統帥会議はアドラーベルクを再攻撃する。これで落ちれば文句はないのだがね」


 アレックスはそう言って増えつつある黒色同盟軍の野営地を見つめた。


 アドラーベルクが重要であるのはミネルゼーン政権軍にとっても依然同様であり、ミネルゼーン政権軍はアドラーベルクの重要性を将兵に伝えるために、あることをした。


「英雄都市アドラーベルク、ですか」


 ガブリエルが聞かれた言葉にそう繰り返す。


「そうだ。帝国としてもアドラーベルクは失えないらしい。将来の反撃を考えるならば、アドラーベルクかシュネーハイムだ。ヴォルフバーデンという手もあるが、インフラのことを考えるならばアドラーベルクがほしい」


「そうですね、団長。我々神聖義勇軍としても同意見だと」


「しかし、反撃はいつのことになるのやら……」


 エミリーが言い、そしてアウグストが首をひねった。


「帝国は同盟の形成に苦戦しているようです。これまで帝国は他の国と仲良くしていたわけでもないですからね。これまで積み重なった外交的な軋轢を解消するのに帝国外務省は苦戦しているのです」


「我々第九使徒教会が仲介することはできないのでしょうか?」


「難しいでしょう。そう簡単に解決できる問題ならば、戦争が始まる前から我々が力になっていたはず。ですが、何もせずに見ているということはないはずです」


 ガブリエルが尋ね、エミリーがそう返した。


「文民の活躍に期待するしかないな。我々がやるべきは文民の外交努力が達成されるまでの時間稼ぎだ。同盟が形成され、戦力においてカイゼルブルク政権を上回れば、我々の反撃も始まるのだろう。恐らくは」


「間違いなくですよ、団長。今は待ちましょう」


 アウグストたちがそう言っていたとき、ミネルゼーン政権軍はアドラーベルクにおける防衛準備を進めていた。


「オストアドラーベルクは完全に敵の手に落ちただな?」


「はっ! 第6軍団司令官のアーミン上級大将閣下からそのように報告があります」


 ミネルゼーンで開かれている皇帝大本営にて陸軍司令官のクイルンハイム上級大将が部下にそう確認をとっていた。


 現状オストアドラーベルクは完全に陥落。アドラーベルクにかかる橋も全てが崩落してしまっている。


「反撃が必要なのではないか?」


「しかし、戦力が不足している。アドラーベルクが攻撃を受けてアドラーベルクに戦力を機動させたが、今度はシュネーハイムが攻撃を受けるかもしれないのだ」


「またはヴォルフバーデンも」


 帝国宰相を始めとし、陸海軍司令官などが出席する会議の場が騒然となる。


「外務省はまだ同盟を締結できていないのか?」


「目下全力で関係構築に急いでいます。しかし、同盟を求める国にもそれなりの問題がありまして。まだ時間をいただきたく思います」


 ビューロー宰相の問いに外務大臣のブレンターノ大臣が答える。


「ふん。外国の連中は帝国が弱るのを待っているんだろう。我々に降りかかった災いを喜んでいるに違いない」


「よさないか」


 おもわずそう愚痴る出席者のひとりに別の出席者がそう注意した。


「我々が今現在やるべきことは同盟締結までの時間稼ぎと我々の側が勝利するということを示す戦果です。それが我々には必要です。その点はどうでしょうか、クイルンハイム上級大将?」


「分かっています。アドラーベルクが再び戦場になれば、我々は全力でそれを防衛し、防衛成功を持ってして勝利とするつもりです」


 ブレンターノ大臣が尋ね、クイルンハイム上級が答える。


「決まりだな。アドラーベルクでの防衛をしっかりと固める。今はそれが大事だ。各自、必要なことをしっかりと果たしてくれ」


 ビューロー宰相がそう言って皇帝大本営の会議は閉じられた。


「マクシミリアン陛下は流石に何も発言されませんね」


「何とも言えないな。我々には皇帝が必要だが、だからと言って9歳の子供を……」


 皇帝大本営はイオリス帝国皇帝の名において開かれており、幼い皇帝マクシミリアンも会議の場に出席していた。しかし、列席者たちが指摘したようにマクシミリアンが発言することはなかった。


「兄であるルートヴィヒが裏切ったのだ。ショックもあるだろう」


 ビューロー宰相がそう言って気の毒そうな顔をする。


「もし、ルートヴィヒが講和を持ち掛けてきたら、いかがしますか?」


「講和の条件次第だ。この戦争は人類対魔族というこれまでの構図とは異なる。続ければ我らが帝国は傷口を抉るように出血し続けることになるのだ」


 ブレンターノ大臣の言葉にビューロー宰相は答えた。


「そもそも現段階で提案される講和など我々の無条件降伏ぐらいだろう」


……………………

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