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第一次アドラーベルクの戦い、終結

……………………


 ──第一次アドラーベルクの戦い、終結



 ブラウ橋は今はミネルゼーン政権軍の制圧下にあった。


 既にその橋には工兵が爆薬を仕掛けており、友軍が撤退中であろうとも敵に奪われそうになれば爆破せよとの命令が下されている。


「橋を完全に吹き飛ばせる爆薬が準備されているようだ」


「どうするかね? 何か手が?」


「方法はいくつか」


 人狼の下士官がアレックスに語る。


「まず泳いで運河を渡って対岸にいる工兵を制圧。爆破を阻止する」


「残念なことに私は泳げない」


 アレックスは泳げないし、エドワードも吸血鬼として流水は苦手だ。


「なら、他の案だ。敵の軍服を着て橋を渡り、相手を奇襲する」


「それなら悪くなさそうだ。敵の軍服が手に入るならばだが」


「もちろん、手に入れてある。着替えてきてくれ」


「了解だ」


 アレックスたちは敵であるミネルゼーン政権軍の軍服を渡されると運河沿いにあった建物に入って素早く着替えた。


「オーケー。じゃあ、あんたらは俺たちを捕虜にしたと言って運河に近づいてくれ。所属は第10擲弾兵師団第102擲弾兵連隊A大隊だ」


「なるほど。捕虜にしたと言って連れていけば、相手も油断するね。あくどいものだ」


「戦争ってのは悪意に満ちているからな」


 人狼たちは情報収集を進め、この付近で活動中のミネルゼーン政権軍の部隊名まで把握していた。これだけ情報があれば、ブラウ橋にいる寄せ集めの防衛部隊を欺くことは容易だろう。


「では、作戦開始だ」


 アレックスがそう言い、アレックスたちは両手を上げている人狼たちを連れてブラウ橋へと向かった。


「止まれ!」


 ブラウ橋は両岸にバリケードが作られ、そこに臨時編成された防衛部隊が陣取っていた。彼らは緊張した様子でアレックスたちを呼び止める。


「待ってくれ! 味方だ! 人狼を捕虜にしたから司令部に連れていきたい!」


「人狼を捕虜に? そいつは凄いな!」


 兵士たちはアレックスの演技を見破ることはできず、のんきに歓声を上げていた。


「じゃあ、司令部に向かわねければならないので、渡らせてもらうよ」


「ああ。行ってくれ」


 そして、兵士たちはあっさりとアレックスたちを通過させ──。


「待て! その人狼は拘束されていないぞ!」


「何だと!?」


 人狼たちが縛られているように見せかけてあるだけなのに気づいた兵士が声を上げ、他の兵士たちが一斉に魔剣クラウ・ソラスを抜いた。


「ははっ! 気づかれたな! やるぞ!」


「やれやれ! こうなるなら最初から殴り込めばよかった!」


 サタナエルが嬉しそうに吠え、アレックスも戦闘態勢に。


「橋を爆破しろ! 急げ!」


「まだ対岸には友軍がいるだろう!?」


「何かあればすぐに爆破しろとの命令が出ているんだ! さっさとやれ!」


 そこで工兵が防衛部隊の指揮官に急かされて橋の爆破を開始した。


「サタナエル! 今、爆破されたら全員がお陀仏だ! 阻止してくれ!」


「任せておけ、アレックスの小僧!」


 サタナエルは『七つの王冠』を縦横無尽に展開させ、次々にミネルゼーン政権軍部隊を切り倒して、火を付けようとしている工兵たちの方に迫る。


「点火しろ!」


「て、点火──」


 工兵が導火線に火を付けようとしたところで、その首が『七つの王冠』によって跳ね飛ばされ宙を舞った。


「己の血を味わえ」


 鮮血が吹き上げる中、サタナエルは対岸に到達し、残忍な表情でそこにる兵士たちを見渡した。それはまるで獲物を前にした肉食獣のようであった。


 そして、殺戮が幕を開けた。


「おおー。サタナエルは暴れまくっているな。しかし、これで橋が爆破される可能性もなくなった。無事に任務は成功としていいのではないかね?」


「そうだな。これで無事にブラウ橋を確保できた。すぐに司令部に──」


 そこでアレックスたちの耳に破滅の音が聞こえてきた。


「魔術砲撃だ! あの戦艦級の砲撃だよ! 逃げろ、逃げろ!」


「クソ。相手も考えてはいたか!」


 アレックスが叫ぶのにエドワードが悪態をついて速やかに撤退。


「サタナエル! 君も撤退するんだ!」


「くだらん。遠くからちまちまとうんざりだ」


 サタナエルはそう言うと空に向けて『七つの王冠』の刃を向ける。


「落ちろ!」


 飛翔していた魔術砲弾に向けて『七つの王冠』の刃が放たれ、複数の砲弾のうち1発が迎撃された。激しい爆発が上空で広がり、空が赤く染まる。


 しかし、全ての砲弾が迎撃されたわけでもなく、残った砲弾のうち1発はブラウ橋を直撃し、橋を木っ端みじんに吹き飛ばしてしまった。


「あーあ。結局はこうなってしまったね」


「仕方ないだろう。あまり成功の期待されていなかった作戦だ。しかし──」


 エドワードがそう言って空を見上げる。


「あの砲撃が厄介だぞ。このままアドラーベルクに居座られたら、いくら橋を押さえても進軍することは不可能だ」


「そうだね。こちらからの対砲撃防御魔術も効かず、術者がどこにいるかすら分からないほどの長距離砲撃。これは厄介だよ」


 マリアによる戦艦級の魔術砲撃はアドラーベルク全域を射程に収めており、このアドラーベルクをアレックスたちが仮に奪ったとしても、マリアによって全て破壊しつくされる恐れもある。


「この砲撃の主をどうにかしなければ勝利はないな……」


「同意するよ、エドワード。さて、サタナエルは、と」


 エドワードが呟き、アレックスが同意する中、アレックスはサタナエルを探す。


「ここだ。橋は落ちたな。クソッタレな戦術ごっこも終わりか」


 サタナエルは崩落した橋の方から姿を見せた。


「凝った戦術も上手くいけば文句はないのだがね。あいにく今回はあれこもこれもと欲張りすぎたね」


 サタナエルの言葉にアレックスは肩をすくめた。


「──本当ですか?」


 そこで通信兵の傍で険しい表情をしている人狼の下士官が言うのが聞こえた。


「どうしたんだい?」


「ロート橋とゲルブ橋が落ちた」


「ほう? ロート橋が?」


 アレックスが人狼の下士官の言葉に目を細めた。


「ゲルブ橋は工兵によって落とされたが、ロート橋を落としたのは聖騎士(パラディン)だと司令部は言っている。単騎で戦線を突破した聖騎士(パラディン)が、その剣でロート橋を叩き切ったそうだ。信じられん」


「いや。信じられるね。そういうことができる人物を私はひとり知っている」


 人狼の下士官が唸り、アレックスは両手を広げて語る。


「ガブリエル・フロスト。最強の聖女にして聖騎士(パラディン)だ」


 そう、ロート橋を単騎で落としたというのはガブリエルだ。


 彼女はひとりで出撃し、ロート橋を守るジョーンズ中佐たちの部隊に襲い掛かり、バビロンを退け、ロート橋を叩き切った。


 そして、全ての橋を失った両軍の戦線は再び膠着。


 オストアドラーベルクではミネルゼーン政権軍が残した敗残兵の掃討戦が始まり、オストアドラーベルクにおけるカイゼルブルク政権軍の支配は確立した。


 運河を渡河しようとしていた第3擲弾兵師団も撤退。殿はアリスたちの悪魔が務め、彼らは無事に友軍と合流した。


「戦線は見事に膠着した。果たしてどうしたものか!」


 アレックスたちはオストアドラーベルクで無事だった建物を宿営として、次の命令を待つことになっていた。


 が、アレックスとエレオノーラは宿営を出て、メテオライト作戦を指揮していた将軍たちがいる司令部に押しかけていた。


「悪魔を大量に召喚して一気に川を渡るのはどうかな?」


「ふむ。それもいいアイディアだと思うが、どうかね、オフィーリア元帥?」


 アレックスは司令部で暇をしていたオフィーリアに話を振る。


「数に任せれば大抵の戦いには勝てる。が、今回はそのことを間違いなく警戒しているであろう『ヘカテの子供たち』と第九使徒教会がいる。聖騎士(パラディン)からなる神聖義勇軍の連中は、どう悪魔を戦うか知っている」


 オフィーリアはそう指摘した。


「しかし、不思議でたまらない。黒魔術師である『ヘカテの子供たち』と第九使徒教会がここまで協力した関係にあるとは……」


「確かに不思議ですな」


 司令部で黒色同盟最高統帥会議のシュライヒ上級大将が言うのにアレックスが頷く。


「猫の手も借りたいというのはこちらも向こうも同じだろう。そして、実際に手を借りたわけだ。不思議でも何でもない」


「敵対する相手に与するというのは、それだけで出血になる」


「だが、死ぬよりマシだ」


 アレックスの言葉にオフィーリアはあっさりとそう告げた。


「何はともあれ、アドラーベルクの戦いはひとまずは終わりだ」


……………………

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