神聖義勇軍
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──神聖義勇軍
アレックスたちは聖騎士たちのパトロールを蹴散らしながらアドラーベルク美術館を目指している。
「ここで阻止しろ! 魔術砲撃準備!」
アレックスたちが迫るをの確認した聖騎士たちが一斉に魔術砲撃の準備に入る。あらゆる魔術砲撃が近距離に叩き込まれる最終防護射撃だ。
「撃てえっー!」
迫撃砲のような放物線を描いて、あるいは対戦車砲のように直線を描いて魔術が飛翔し、着弾地点に破壊と殺戮の嵐を振りまいた。
爆発音が鳴り響き、土煙が舞い上がる。
「やったか……!?」
聖騎士たちが土煙に覆われた前方を見据えて呟く。
「愚かな聖騎士ども。血と苦痛を味わえ!」
「畜生! 突破されちまったぞ!」
サタナエルが『七つの王冠』を構えた状態で魔術砲撃の嵐を突破。一気に距離を詰めて聖騎士たちに肉薄し、返り血をたっぷりと浴びる位置で、彼らの頸動脈や腎臓、心臓を叩き切った。
「ははっ! さあ、苦しみながら惨めに死ぬがいい!」
暴れ回るサタナエルを止められるものなど存在しないのではないかと、そう思わされるような一方的な戦闘が続く、
「流石は地獄の皇帝だ。だが、俺も負けられん!」
エドワードもサタナエルの活躍に奮起し、魔剣ミストルティンを手に戦う。聖騎士たちを撃破し、サタナエルとともに防衛線突破を試みた。
「クソ。このままじゃ、突破を許すぞ!」
「しかし、もう打つ手もない! これが全力だ!」
聖騎士たちは悲鳴じみた声を上げ、眼前で猛攻を繰り広げるサタナエル、エドワード、そしてアレックスが召喚したケルベロスたちを見て唸る。
「司令部、司令部! こちら聖アンデレ騎士団本部! 敵の猛烈な攻撃を受けている! 応援を要請!」
『司令部より聖アンデレ騎士団本部。現在、魔術砲撃による支援が可能。そちらに繋ぐ。待機せよ』
「了解!」
ここで美術館内の聖アンデレ騎士団司令部からミネルゼーン政権軍の司令部に連絡が行き、応援を要請された。
『こちらグスタフ。いつでも魔術砲撃支援可能だ』
「以下の座標に砲撃要請!」
『了解したが、友軍との距離が近い。警戒せよ』
そして、支援に応じたグスタフという部隊が魔術砲撃支援を開始する。
そのグスタフとは──。
「不味い」
アレックスが西の方角を見て不意にそう言った。
「サタナエル、エドワード! 遮蔽物に飛び込め! ロート橋を砲撃していた魔術砲撃がこちらに向かっている!」
「何だと」
そう、グスタフとは“砲撃の魔女”であり、ロート橋を砲撃していた黒魔術師であるマリア・フォン・ツェッペリンのことであり、彼女の魔術砲撃が近づいているのだ。
既に砲声は響いており、砲弾が急速にアドラーベルク美術館に接近中である。
「目には目を歯には歯を!」
アレックスはありったけの意志の力を込めて、対砲撃防御を展開し──。
激しい閃光と爆音。地面が地震のごとく揺れ、竜巻の中に巻き込まれたかのように暴風が吹き荒れた。地上にあるもの全てが破壊されるようなエネルギーが解き放たれたのちに、不意に静寂が訪れた。
「なんとまあ。友軍もお構いなしか」
マリアの魔術砲撃はアドラーベルク美術館付近にクレーターを穿ち、そこにいた聖騎士たちもを吹き飛ばしていた。
「サタナエル、エドワード! ここは急いで美術館を制圧しよう! このままでは塵一つ残さず吹っ飛ばされてしますよ!」
「ああ。そうすべきのようだな」
アレックスの言葉にエドワードが異論なく頷く。
「待て、アレックスの小僧。せっかくだから俺の召喚規模を増やせ」
「ふむ? どれくらいかね?」
「『四つ目の頭』程度だ」
サタナエルがそうアレックスに要求する。
「いいだろう。地獄の皇帝サタンよ、来たれ。『四つ目の頭』まで!」
アレックスによって地獄から地上に呼び出されたサタナエルの力が増す。
「ははっ! いいぞ。煩わしい聖騎士どもは俺に任せておけ」
そう言ってサタナエルは走り出し、砲撃で未だに混乱している生き残りの聖騎士を蹴散らして、美術館内に突入。
「敵だ! ついにここまで……!」
「応戦しろ! 神のために!」
聖騎士たちは運ばれてきていた負傷者すらも武器を持って立ち上がり、サタナエルに対して抵抗の姿勢を示す。
「皆殺しにしてくれる。さあ、己の血を味わえ、神の奴隷ども」
サタナエルは『七つの王冠』をしもべの様にして従え、聖騎士たちに向けて駆ける。顔には獰猛な肉食獣の笑みを浮かべていた。
そして、聖騎士の構えるエクスカリバー・イミテーションと衝突。激しい金属音が響き、鮮血が舞い散り、それから悲鳴や怒号が響く。
「彼女ひとりに任せていても何ら問題はなさそうだ」
「ああ。出番がないな」
アレックスとエドワードは大暴れするサタナエルを前にそう言い合う。
「だが、俺たちも動いた方がいいぞ。第九使徒教会がどういう経緯で聖騎士団を派遣してきたかを把握するべきだ」
「その通りだ。司令官を生け捕りにしよう」
エドワードの進言にアレックスが頷く。
「サタナエル! 司令官は殺さないでくれよ! 話を聞く必要がある!」
「分かった。つまらないが、付き合ってやる」
アレックスの要望に敵の血を浴びながら暴れ回っているサタナエルが、小さく鼻を鳴らして頷いて見せた。
「しかし、他の連中は殺す。皆殺しだ」
「もちろんだとも。君の好きなように殺すといい」
それからサタナエルは再び『七つの王冠』を手に暴れ回り、美術館内での戦闘を続けた。聖騎士たちは美術館の展示品も利用してバリケードを作り、抵抗するがそれもあっさりと蹂躙される。
『グスタフよりアドラーベルク美術館付近に展開中の部隊へ。これより魔術砲撃を再開する。警戒せよ』
再び冷酷な宣言がなされ、はるか後方からマリアの砲撃が飛来。戦艦の艦砲射撃に匹敵する威力の砲撃が美術館付近に降り注いだ。
聖アンデレ騎士団が美術館に司令部を設置したのは、美術館というものが所蔵しているものを地震や火災から守るための頑丈な作りをしているからだった。
しかし、そんな美術館も戦艦の艦砲射撃を受けることなど想定していない。
「砲撃中止、砲撃中止! 友軍を巻き込んでいる! 直ちに──」
美術館の一部が吹き飛ばれるのに聖騎士の通信兵が叫び、砲撃を止めさせようとするが砲撃は止まらない。
「おやおや? 友軍ごと我々を吹き飛ばしてしまおうという算段かな?」
「かもしれないな。どうする?」
「どうあっても指揮官は捕虜にしておきたい。急ごう!」
エドワードが尋ねるのにアレックスはそう言って揺さぶられる美術館内を駆けた。
「敵が来たぞ! 構えろ!」
友軍の魔術砲撃の巻き添えになりそうながらも、聖騎士たちの戦意は萎えていない。彼らは徹底的にアレックスたちの行方に立ちふさがった。
「全く! 私たちを通すぐらいならば友軍の魔術砲撃で吹き飛んだ方がマシだとでも言いたいのかね。さっさと逃げればいいものを」
「逃げようとしても逃がすつもりはないがな」
「それは結構だ、サタナエル。蹴散らしてくれ。ケルベロスに援護させる!」
「任せておけ」
サタナエルは無数のケルベロスに援護されて突き進み、美術館の事務室に入った。
「敵がこんなところにまで……!」
「応戦しろ! 総員抜刀!」
ここで高級将校らしき聖騎士をアレックスたちは見つけた。事実、その人物は聖アンデレ騎士団の先遣隊指揮官であった。
「こいつは生け捕りだな」
「ああ。その通りだ。お話をしなければいけないからね」
サタナエルが邪悪な笑みを浮かべるのにアレックスもにやりと笑った。
こののちにこの高級将校は捕虜となり、サタナエルのシュヴァルツラント陸戦条約を無視した拷問を受けることとなる。
その結果、アレックスたちは神聖義勇軍なるものの存在を知った。
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