聖アンデレ騎士団
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──聖アンデレ騎士団
「確認された聖騎士団の規模は1個大隊相当。聖騎士どもは間違いなく第九使徒教会の正式採用魔剣エクスカリバー・イミテーションで武装している」
「敵の行動パターンは?」
「周辺に警戒しながら美術館に戦力を集結させているようだ。詳しいことは連中が常に索敵のためのパトロールを繰り出して、俺たちを近づけさせないから確認できない」
「なら、早急に叩いた方がいい。戦力が集結するために敵を撃破して、敵の出鼻を挫いてしまおう。集結しつつある部隊の目的はロート橋だろうから」
「分かった。では、こちらが収集した情報を共有しておこう。まず敵のパトロールの規模を巡回経路は──」
監視哨の下士官が聖騎士団についての具体的な情報をアレックスたちに伝えた。アレックスたちはそれをメモし、地図とともに記録する。
「オーケー。当初の予定通りにやろう。魔術砲撃を叩き込んでから、切り込みだ。そのために可能な限り静かに美術館に近づく」
「却下だ」
「はて? どうしてだい、サタナエル?」
サタナエルがあっさりと言うのにアレックスが尋ねる。
「ちまちまと隠れ潜んで戦うのはつまらん。正面から堂々と押し入り、連中に力の差を見せつけて、絶望の中に叩き込んで殺したい」
「それは確かに君らしい。では、そうしよう」
サタナエルの我がままで隠密行動は中止となった。アレックスたちは数で不利でありながらも、奇襲という要素すら捨て去ったのである。
「いざ、殴り込みだ」
アレックスたちがそのようにして攻撃の準備に入った中、アドラーベルク美術館に進出していた第九使徒教会隷下の聖騎士団にも動きがあった。
この聖騎士団ひとつ『聖アンデレ騎士団』は今回のアドラーベルクにおける戦いに投入された最初の聖騎士団である。
「大佐殿。義勇軍司令部からの命令に変更はなく、引き続きこの前進拠点を維持せよとのこと」
「分かった」
アドラーベルク美術館に設置された司令部にて聖アンデレ騎士団の聖騎士の報告に部隊の指揮官が頷く。
帝国との共同作戦において聖騎士団も軍隊と同じ階級が付与されることとなった。いざというとき現場で誰が指揮を執るかを決めるのは階級であり、それがはっきりしていなければ指揮系統に混乱が生じる。
現在聖アンデレ騎士団の指揮を執っているのは髭面の若い男で、彼は部下たちと同じ真っ白な軍服を纏って、腰には聖剣エクスカリバー・イミテーションを下げていた。
「戦力が集結すればそれによってロート橋を奪還する。ミネルゼーン政権軍が行っている魔術砲撃はあまり効果がないようだからな」
聖騎士団大佐はそう言って眉を歪め、アドラーベルク美術館からロート橋に至る経路を確認していた。いくつかの道路は友軍の魔術砲撃で崩壊し、使用できなくなっているのが斥候によって確認されており、いくつものバツ印が記されていた。
「我々が集結中なのは既に敵によって確認されてしまっているだろう。だが、問題はない。友軍であるミネルゼーン政権軍は地下水路を使って、オストアドラーベルク側に集結中だ。我々は西から、ミネルゼーン政権軍は東から挟撃する」
大佐の言うようにミネルゼーン政権軍は地下水路や無事な橋を利用してオストアドラーベルクに兵士を向かわせている。それによって聖アンデレ騎士団は西からミネルゼーン政権軍は東から攻撃を実行するのだ。
「しかし、次の部隊の到着が遅いな? どうなっている?」
「確認し──」
そのような言葉が聖アンデレ騎士団の司令部で交わされた瞬間、アドラーベルク美術館が大きく揺れ、ガラスが割れ、展示物の彫刻が倒れ、混乱が生じる。
「これは魔術砲撃かっ! 警戒し、すぐさま対応せよ!」
指揮官はすぐに命令を下し、聖アンデレ騎士団の聖騎士たちが警戒を始めた。
魔術砲撃は次々にアドラーベルク美術館に襲い掛かり、聖アンデレ騎士団の騎士たちは地面に伏せ、遮蔽物に潜み、砲撃に耐えていた。
「前方に人です!」
「市民は避難しているはずだ。あれは敵だ!」
そして、アドラーベルク美術館周辺に設けられた陣地にて聖騎士たちが聖剣エクスカリバー・イミテーションを構えた。
「おやおや。こんなところにも聖騎士たちだ」
彼らの陣地に迫っているのは他でもない。アレックスたちだ。
「行くぞ、諸君!」
聖騎士たちは一斉に陣地を出て、アレックスたちを迎撃。
「切り刻んでやる。血を味わえ」
「聖騎士ごとき!」
それによってサタナエルとエドワードが交戦を開始した。魔剣『七つの王冠』と魔剣ミストルティンが聖騎士たちを迎え撃つ。
サタナエルの『七つの王冠』が聖騎士たちを引き裂き、エドワードのミストルティンが防御の死角から敵を貫く。
「クソ。これは不味い。リベリ二等兵! お前は司令部に状況を報告しに向かえ! 『敵の戦力は少数なれど強大にして、我々が陣地を維持することは不可能』と!」
「りょ、了解!」
陣地の指揮官がまだ若い聖騎士にそう言い、若い聖騎士は命令に従って報告のために陣地から駆け出した。
「若いのは生き残るべきだ」
「ああ。死ぬのは年寄りからがこの世の道理だ」
「では、行くぞ、諸君!」
聖騎士たちはエクスカリバー・イミテーションを構え、さらに高度な身体能力強化を重ねがけして戦いに備える。
「聖騎士ども。悲鳴を上げ、泣き叫び、命乞いをして死んで行け」
「誰が命乞いなどするものか! 全ては神のために!」
サタナエルが宙に浮かべた『七つの王冠』を聖騎士たちに向けて冷酷に笑い、聖騎士たちはそれに抗うようにして気合を入れた。
「いざ──っ!」
そして、サタナエルたちと聖騎士が衝突。
「ふんっ!」
「戦え! 数ではこちらが優位だ! 押し切るんだ!」
地獄の皇帝たるサタンのアバター──サタナエルを相手に聖騎士たちは善戦し、エドワードも抑えるが両者決定打に欠ける戦いが続く。
「さてさて! いよいよここで私の有能さを示そうではないか!」
アレックスがそのような状況でそう宣言。
「来たれ、地獄の騎士たちよ!」
アレックスのその詠唱とともに魔法陣が宙に現れ、そこから三つ首の猟犬が複数体、その姿を現した。
三つ首の猟犬──それはケルベロスだ。
「ほう。そんなものも呼べるとはな。しかも、相変わらず制限なしか」
「はははははっ! 私にとって悪魔を地獄から呼ぶのは、紅茶にミルクを入れるくらい容易なことなのだよ!」
市議会議事堂で上級悪魔を召喚した『ヘカテの子供たち』の黒魔術師が、その上級悪魔の力を完全に引き出せなかったのに対して、アレックスのケルベロスはそうではない。完全に100%の力を発揮している。
「しかし、信じられない男だ。上級悪魔を使い魔として使用したり、完全な状態で上級悪魔を召喚するなど……」
エドワードはそう言いながら聖騎士たちと切り結ぶ。
「行け、ケルベロスたち! わんわんパニックの時間だ!」
「オオオオォォォォッ!」
アレックスの号令でケルベロスたちが咆哮すると一斉に駆けだした。
「悪魔です! 上級悪魔複数!」
「退くな! ここで食い止めるんだ!」
聖騎士たちが叫ぶが、サタナエルたちに加えて、ケルベロスたちを退けるには力はなかった。
「畜生──」
彼らは蹂躙され、八つ裂きにされ、死体を通りに晒した。
「このまま前進だ! 美術館内に突入っ!」
そして、アレックスたちは聖アンデレ騎士団の司令部が陣取る美術館を目指す。
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