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アドラーベルクへようこそ

……………………


 ──アドラーベルクへようこそ



 アドラーベルクは運河沿いの交易都市として発達した都市だ。


 運河を利用して貿易を盛んに行い、帝都や他の地域を結び、帝国全体に様々な物品を流通させてきた。そうであるが故にその都市は巨大で、どの建物も普通のものとは異なる、立派な作りをしていた。


 都市は運河の両岸に広がり、東をオストアドラーベルク、西をヴェストアドラーベルクを呼ぶ。オストアドラーベルクには市議会議事堂などがあり、ヴェストアドラーベルクには劇場などがあった。


 そして北から南にかけて流れる運河にロート橋、ブラウ橋、ゲルブ橋がそれぞれかかっている。どれも大きな橋であり、かつ運河を行きかう船舶を妨害しない作りだ。


司令部(HQ)より全部隊へ。流星は去った、繰り返す流星は去った』


 暗号を使ってメテオライト作戦の発動が宣言された。


 各飛行場から兵士たちを乗せたドラゴンたちが一斉に離陸し、アドラーベルクに向けて急速に迫っていく。


 ヘリの巡航高度よりも少し高い高度を、ヘリよりもずっと早くドラゴンたちは飛んでいた。これ以上の高度になると酸素が薄くなり、ドラゴンにも乗っている人間にも悪影響が生じるためだ。


 地上からの探知が避けられないのは覚悟しており、その分速度を上げている。


「アドラーベルクが見えた」


 ドラゴンの背中の鞍に自分たちのハーネスをカラビナで繋いでいるアレックスが上空からアドラーベルクを見てそう呟く。


 運河の両岸に広がるアドラーベルクが見えてきたのだ。


 帝都にこそ劣るものの発達した街並みが見え、その美しい光景が眼下に広がっていく。オレンジ色の屋根をした民家や歴史ある市庁舎などもうっすらと見えてきた。


 ……まさかここが地獄のような戦場になると誰が予想できただろうか?


『降下、降下!』


 ドラゴンたちはそこで一斉に高度を落とし始め、鋭角でアドラーベルクに架かる3つの橋のひとつたるロート橋を目指す。


 そこで地上から魔術攻撃が行われるが、ドラゴンたちはそれを巧みに回避。


『敵の抵抗は軽微! このまま着陸する!』


 ドラゴンたちは対空砲火を潜りぬけてロート橋の両岸に着陸。同時にそこにいた警備戦力を焼き払い、踏みにじる。


「オーケー! 無事に着陸だ! 戦闘じゅーんび!」


「了解だよ!」


 アレックスたちは慌ただしくドラゴンから降り、地上に展開。


「バリケードの構築を急げ!」


「第1中隊、あの建物を押さえておけ!」


 アレックスたちとともに展開したのは1個大隊の戦力で、彼らはこのロート橋を守るために必要な処置を講じていく。


「敵が少なすぎる。つまらん連中だな」


「そう焦らずともこれからうんざりするほど敵は来るよ。我々はまさに1944年のイギリス第1空挺師団のようなものだからね」


「はあ。皮肉にしてもつまらん話だ」


 1944年に発動された連合軍のマーケットガーデン作戦にて橋の確保を命じられたイギリス第1空挺師団は降下先で孤立してしまい、大損害を出した。


「敵が来るぞ!」


 アドラーベルク市街地に降下したアレックスたちに対してミネルゼーン政権軍は即座に応じた。ミネルゼーン政権に忠誠を誓う陸軍部隊が投入されてロート橋を両岸から攻め始めたのだ。


「魔術砲撃だ! 伏せろ、伏せろ!」


 口径81ミリ迫撃砲から口径105ミリ榴弾砲ほどの威力の魔術砲撃がアレックスたちが立て籠もるロート橋付近の建物に叩き込まれる。


 一部の砲撃は対砲撃防御結界によって弾かれたものの、残るは降下部隊が展開した結界を突破して、辺りに衝撃波と炎をまき散らした。


「橋は無事か!?」


「大丈夫です!」


 この降下部隊指揮官の人狼の将校ゴードン・ジョーンズ中佐が確認するのに、部下がそう報告する。


 ジョーンズ中佐はアルカード吸血鬼君主国陸軍の精鋭である近衛人狼猟兵連隊の将校だ。頭に被った黒いべレー帽がその証である。


 そのジョーンズ中佐はロート橋の近くにあった頑丈な商館の建物に司令部を設置し、防衛戦の指揮を執っていた。繰り返される魔術砲撃で建物が揺れ、ガラスが割れても、彼は冷静に指示を出そうとしていた。


「ジョーンズ中佐!」


 その司令部にアレックスがサタナエルとともに姿を見せた。


「私ならもっと強固な結界が展開できると思うよ」


「本当か? なら頼む」


「了解だ。任せておくがいいだろう!」


 アレックスはジョーンズ中佐に進言し、ロート橋周辺に対砲撃防御を張る。


「目には目を歯には歯を! 全ての悪意は今こそ弾かれる!」


 アレックスはロート橋の東側でそう唱え、強い意志と欲望を持ってして、全ての砲撃を弾き返す対砲撃防御結界を展開した。


 それからは魔術砲撃はほぼ完全に弾かれた。


「よし。状況は順調だ。斥候を両岸から市街地に派遣しよう。敵がどこまで迫っていくかを確認しておきたい」


 ジョーンズ中佐はそう言って部下を偵察に派遣することに。


「偵察には同行してもいいよ。我々は少数精鋭なのでね」


「オーケー。頼むとしよう。こちらの指揮官の指示に従って行動してくれ」


 司令部に残っていたアレックスの提案で、ジョーンズ中佐は彼らを斥候とした。


 西の方に向かうチームがアレックス、サタナエル、エドワード、そして人狼4名。


 東の方に向かうチームがエレオノーラ、ヴィクトリア、そして人狼4名。


「エレオノーラ。気を付けて」


「アレックスも」


 それぞれのチームに分かれてアレックスたちは行動を開始。


「こっちだ、黒魔術師たち。静かに行動してくれ」


 人狼の将校に導かれてアレックスたちは市街地を進む。


 アドラーベルクからはほとんどの住民は避難しており、市民に出くわすことはない。死角に用心しながら人狼の優れた感覚器で敵を探していく。


「この先に大きな通りがある。敵が集結しているとすればそこだが……」


 人狼の将校は慎重に進み、通りを角から見る。


「クソ。いたぞ。敵の大部隊だ」


 そして、アレックスたちは大通りに集結中のミネルゼーン政権軍を発見。


 それは1個大隊かそれ以上の戦力のように見えた。


使い魔(ファミリア)に上空から偵察させて具体的な規模を把握しないか?」


「そうしよう。使い魔(ファミリア)を展開する。しかし、あまり長く飛ばすな。気づかれてしまうぞ」


「もちろんだ」


 アレックスは人狼の将校の許可を得て、上空に使い魔(ファミリア)を飛ばす。


「おや? アレックス、貴様はいつの間にか根暗メガネと同じようなことができるようになったのか?」


「そうだよ。いろいろと研鑽を重ねたおかげでね。全く同じことをするのは不可能だが、類似することはできるとも」


 これまでアレックスはアリスのようにいくつもの下級悪魔を使い魔(ファミリア)にして、偵察などに使用することはできなかった。


 だが、今ではアレックスはアリスと同じことができる。


「映像が来たぞ。見てくれ」


「2個大隊というところか。騎兵はいないな」


「そろそろ使い魔(ファミリア)を引き揚げさせるよ」


 アレックスは偵察を終了して使い魔(ファミリア)を回収。


「2個大隊に突っ込まれたら、流石に不味いな……。可能であれば敵を撹乱して攻撃を遅らせておきたいが……」


「ならばやろうじゃないか。どうせ最初からそのつもりだったのだろう?」


 人狼の将校の言葉にエドワードがそう言った。


「派手に掻き乱して来ようではないか。で、作戦は?」


「敵を撹乱したら地図のこの地点に撤退。急いで友軍勢力下に逃げ込む」


「了解だ。では、始めよう」


 アレックスたちは脱出地点を決定したのちに作戦を始めた。


 建物から建物へと移動しながらアレックスたちは集結中のミネルゼーン政権軍に接近。徐々にミネルゼーン政権軍へと近づいていき、軍靴の立てる足音と将校たちの命令を叫ぶ声が間近に聞こえ始める。


「さあて。かなり近づいたぞ。準備はいいかね、諸君?」


「問われるまでもない。さっさとやるぞ」


 アレックスの言葉にエドワードたちが頷く。


「じゃあ、おっぱじめよう!」


……………………

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