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悪魔学のススメ

……………………


 ──悪魔学のススメ



 アレックスとエレオノーラはロットリッツにある司令部襲撃のために道路を走っている。先頭ではバビロンが大暴れた。


「うむ! 上手くいきそうな気がしてきたよ」


「それは今までは上手くいかないって思ってたの?」


「少しね」


 アレックスがエレオノーラに向けて率直にそう言った。


 ロットリッツまでに向かうまでの道のりにはもはや有力な敵戦力は存在しない。このまま司令部を強襲することができる。アレックスたちはそう思っていた。


 しかし、敵もそう簡単には諦めなかった。


「おっと! 前方に──悪魔だな、あれは」


「中級悪魔を宿した人型。悪魔を使い魔(ファミリア)にしている」


「ああ。蹴散らそう!」


 アレックスたちの行く手を遮るのは甲冑に包まれた人型であり、使い魔(ファミリア)にした中級悪魔を宿したものであった。


「バビロン!」


 その人型が巨大な剣を振り上げるのにバビロンが火炎放射。


「ふむ? これでやれないとは、なかなかに頑丈だ」


 火炎放射を浴びても悪魔を宿した人型は全ては撃破されておらず、数体がアレックスたちに向けて押し寄せてきた。


「アレックスをやらせはしない!」


 エレオノーラが魔剣ダインスレイフで近接戦闘を仕掛けようとする悪魔たちを迎撃。激しい剣が交錯する剣戟が繰り広げられる。


「エレオノーラ! 退避を! バビロンが再び火炎放射を実施する!」


「分かったよ!」


 エレオノーラがアレックスの合図で離脱し、即座にバビロンが火炎放射を叩き込む。


「オーケー。今度はかなり撃破できた」


「それでも悪魔が相手ではあまり意味がないね」


「そう、対悪魔戦の定石は最優先で召喚者を叩くこと。そうしなければ悪魔は次々に押し寄せるのだから」


 アレックスたちが相手にしてきた兵士や聖騎士(パラディン)たちが、悪魔ではなく召喚者であるアレックスを叩きに来たのを思い出そう。アレックスも悪魔を相手にするなら同じことをすべきなのだ。


 アレックスたちが危惧したようにミネルゼーン政権軍が使役している悪魔たちは、今も呼び出されて、使役されていた。


「まだまだ悪魔が湧いてくる。これは地獄から召喚しているのか?」


「そうだよ。ヴィトゲンシュタイン侯爵家には悪魔召喚の方法が受け継がれていた。私はまだ学んでいなかったけど、お父様は知っている。だから……」


「君の父君がミネルゼーン政権軍に協力しているならば、ミネルゼーン政権軍はその黒魔術を知っていると。だが、構いはしないとも!」


 アレックスたちは再び悪魔と接敵。


「これはアリスのようにひとりの人間がが複数の悪魔を使役しているわけではなさそうだね。複数の人間が同じような方法で悪魔の召喚を成し遂げている、と」


「ええ。ヴィトゲンシュタイン侯爵家は悪魔召喚の方法を確立していた。黒魔術が他の魔術と違って比較的共通した方法が存在することは知っているよね?」


「ああ。要求される意志の幅の狭さと限られた記号(シンボル)による悪意の表面によってなされるわけだらかね」


 エレオノーラの問いにアレックスが答える。


「たとえば一般の魔術は包丁であり、包丁は料理から殺人まで使える。しかし、黒魔術はいうなれば刀だ。これは人殺し以外には使えない。故に要求される意志は限定されるというわけだ」


「その通り。ヴィトゲンシュタイン侯爵家はそのような一定の共通性がある黒魔術を研究していた。特にお父様はそのような黒魔術の研究においてちょっとした権威だともいえるほど」


「彼は何を成し遂げたのだろうか?」


「お父様が目指していたのものは、恐らくは悪魔の軍勢を作ること。そのために必要な悪魔たちを地獄から呼び出し、使役し、戦力化する研究をしていたんだと思う」


「おお。それは素晴らしい研究だな。できれば、君の父君にも『アカデミー』に参加してほしかったよ! そうすれば鬼に金棒、オーガに機関銃だったろうに!」


「そうするべきだったのかな……。私にはどうすればよかったのかは分からないや」


 アレックスとエレオノーラはそう言葉を交わしつつも悪魔を撃破していく。


「敵が使役している悪魔は基本的に爵位こそないものの、それなりの実力のあるもののようだ。そして、同時にマモンの眷属のようだね」


「ヴィトゲンシュタイン侯爵家はマモンの眷属。不思議じゃないよ」


 アレックスが分析するのをエレオノーラが敵を切り倒しながら答える。


「しかし、地上に召喚されるに当たって、悪魔は制約を受けるものだ。強力すぎる悪魔ほど制約は大きい。この中級悪魔もその手の制約を受けており、全力で戦えているわけではなさそうだね」


「それが悪魔を組織して軍隊を作るうえでの問題。悪魔は地獄に縛られた存在であって、地上を自由に歩き回れるわけではないから」


「それでもただの人間を殺す分には十分すぎる」


 そう言いながらアレックスとエレオノーラは司令部に向けて進み続けた。


「来たぞ! 敵だ! 悪魔を前に出せ!」


「悪魔を前に出して、魔術砲撃を実施! 司令部に接近させるな!」


 ここで悪魔を前に出し、警備部隊が魔術砲撃準備を始める。


「エレオノーラ! これをいちいち相手にはしていられない! バビロンが援護するから司令部に突入してくれ! 雑魚は私が相手しておくよ!」


「分かった! 任せて、アレックス!」


 アレックスは精神魔剣と結界を展開しながら、エレオノーラに向けて告げる。そして、エレオノーラはバビロンの援護を受けて敵の隊列に突撃。


「悪魔が相手ならば……!」


 エレオノーラは悪魔を縛っている呪いを上書きし、それによって悪魔の攻撃を阻止するどころか同士討ちを実行させる。


 悪魔は召喚してそのままにしていては、召喚者を害する方向に向かう。悪魔は決して人間にとって友人や親切な隣人というわけではないのだ。古来から下級悪魔以上の、それなりの力がある悪魔を召喚する際には、まず悪魔の力を縛り、命令に従うようにする。


 それを縛る呪いをエレオノーラは乗っ取ったのだ。


「う、うわああ──っ!」


「悪魔が友軍を攻撃しているぞ!?」


 それによって悪魔たちは悪魔同士で殺し合ったり、さらには帝国陸軍の部隊を攻撃。


「よしっ! 突破だ!」


 そして、エレオノーラが敵の防衛線を突破し、司令部のある民家に向けて突撃。


「阻止しろ! 敵だ!」


「あれは化け物だ!」


 僅かな警備も突破され、ついにエレオノーラが司令部へ。


 エレオノーラは扉を蹴り破り、司令部内に突っ込んだ。


「て、敵!?」


「間に合わなかったか……!」


 司令部内では司令部要員たちが命令書や地図などの焼却を実行しているところであった。彼らはエレオノーラが現れたのに目を見開き、そして動揺する。


「貴様はヴィトゲンシュタイン侯爵家の……!」


「ええ。そうです。私はエレオノーラ・ツー・ヴィトゲンシュタイン」


 司令部要員とともに司令部に残っていたシュラーブレンドルフ大将がエレオノーラの顔を見て忌々し気に言うのに、エレオノーラがそう告げる。


「貴様の父であるヴィトゲンシュタイン侯は忠誠を違わず、正しい我々の側についている。娘である貴様も正しい側につくべきだ。何故、祖国である帝国を裏切った?」


「私には私の意志があ。私は父とは違う。それだけです。では──覚悟を!」


「忌々しい」


 そして、エレオノーラの振るう魔剣ダインスレイフが司令部に残っていた将校とシュラーブレンドルフ大将たちを屠った。鮮血が舞い散り、司令部は血の海に沈んだ。


「アレックス、司令部は制圧できたよ!」


「ご苦労さまだ、エレオノーラ! 私の方も片付いたよ」


 司令部の外にいた悪魔たちは残らず撃破されており、死体が散らばっている。アレックスはそこでバビロンを連れてエレオノーラを待っていた。


「司令部に命令書や地図があったけど持っていく? こういうのって価値があるんだよね?」


「そうしよう。情報は貴重だ」


「じゃあ、急いで集めるね」


 アレックスたちは司令部にあった命令書や地図を確保した。幾分か血で汚れているが、全く判別できないものはない。


「さあ、後は敵の増援が来るまでに友軍と合流してとんずらだ」


「了解だよ!」


 そして、アレックスとエレオノーラは司令部の設置されていたロットリッツを後にしたのだった。


……………………

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