ツヴァイヘンダー作戦発動
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──ツヴァイヘンダー作戦発動
アレックスたちは発動されたツヴァイヘンダー作戦において先陣を切った。
「行け、行け! 乗り込めー!」
アレックスが声を上げるのは帝都郊外にある飛行場だ。
元は帝国陸軍の飛行隊が駐屯していた飛行場だが、今はバロール魔王国のドラゴンたちの拠点となっていた。
アレックスたちはその一角にあるドラゴンたちの待機している場所へ向かう。
「やあやあ。あなた方が今回我々を運んでくれるドラゴンたちかな? 我々は『アカデミー』の部隊だよ。連絡はあっただろう?」
「ああ。連絡はあった。準備はできているぞ」
「では、始めよう!」
アレックスたちはそう言ってドラゴンに乗り込み、落下防止のハーネスを装着する。
「時間だ。作戦開始、作戦開始」
予定された時間に一斉にアレックスたちを乗せたドラゴンが滑走路に進み、滑走路で加速すると宙に舞い上がった。
動員されたドラゴンの編隊はミネルゼーン政権軍が哨戒飛行に回しているグリフォンによる探知を避けるために超低空を飛行し、目標地点に迫る。
「順調なフライトのように思えるが、はてさて」
アレックスはドラゴンの背の上でそう呟き、ドラゴンの向かう方向を睨む。
「間もなく降下地点だ。備えろ!」
ドラゴンたちは地形を把握する手段に優れており、自分たちの位置だけでなく、地上の目標についても正確に把握するように訓練されている。
彼らは降下地点に向けて静かに、素早く進む。
「降下地点、降下地点」
「降下だ、諸君!」
アレックスたちは一斉に地面に着地したドラゴンから飛び降り、周辺を素早く見渡した。敵がいないことを確認してから、ドラゴンに乗せていた物資を下ろす。
「では、我々は撤退する。幸運を!」
ドラゴンたちはそう言って飛び去った。
「諸君、これからが本番だぞ。まずは周辺の索敵だ。アリス、ジョシュア先生!」
「はいはい」
アリスはここで下級悪魔の使い魔を展開。ジョシュアも『禁書死霊秘法の獣』を展開して、周辺の索敵を開始した。
彼女たち操るのはいわば現代でいうドローンだ。その能力が有意義であることは、近年の地球における戦争を見ても明らかだろう。
「周辺に敵はいないようです。しかし、敵地のど真ん中なわけですし、いつ敵に遭遇してもおかしくないんですよね……」
「だから、さっさと目標を達するべきだろうな」
アリスの言葉にカミラがそう言った。
「その通りだ。まずは兵站基地を襲撃する。こちらでも将軍たちがあれこれ計算して物資や道路を手配したように、こちらでも攻勢に備えてあれこれ準備しただろう。それを滅茶苦茶にしてやるのだ!」
「相手は大打撃だね。さあ、行こう!」
アレックスとエレオノーラがそう声をかけ、『アカデミー』は敵地にて動き出す。
事前の航空偵察で兵站基地の場所は判明している。アレックスたちはその発見されている兵站基地に向けて進む。
この付近は僻地ながら村々にある建物で位置が把握しやすく、アレックスたちは特に迷うこともなく、無事に兵站基地に到着。
「あれが兵站基地だ」
「かなりの規模だな」
アレックスたちはミネルゼーン政権軍の兵站基地を、内戦の勃発によって住民がいなくなった家屋から密かに偵察した。
兵站基地は元は学校のあった場所に作られており、様々な物資が貯蔵されている。馬車なども多く配備されており、警備の規模もそれなりであった。
「どうやって襲撃するつもりだ?」
「私もいろいろと考えたのだよ。別の場所で陽動を行うとか、密かに侵入するとか。だがね。あまりちまちまやるのも一部から不満が出るし、まず我々こそが友軍の攻撃における陽動なわけだ」
「で?」
「正面から殴り込んで大暴れする。それで万事解決だ」
「それはいい」
アレックスの言葉にサタナエルがにやりと笑う。
「では、諸君! これから兵站基地に殴り込むぞー!」
「ええー? 隠密とかするんじゃなかったんです?」
「そういうことは得意じゃない人間ばかりなので変更!」
「うへえ」
アリスとジョシュア辺りのやる気なしグループがうんざりした顔をした。
「それでは全軍突撃だ。物資と馬車は全て焼き払い、警備も可能な限り撃破せよ!」
そしてアレックスたちは兵站基地に殴り込むことに。
ここで遠方から魔術砲撃で支援する部隊をカミラが指揮し、アリス、メフィストフェレス、トランシルヴァニア候、ジョシュアがその指揮下に入る。
突入する部隊はアレックスが指揮し、エレオノーラ他全員が指揮下に入った。
「魔術砲撃開始だ」
「やりましょう」
カミラがそう言い、トランシルヴァニア候たちが魔術砲撃を兵站基地に向けて叩き込む。砲撃が着弾して爆発が生じ、現地の警備に当たっているミネルゼーン政権軍の兵士たちに動揺が走った。
「て、敵襲、敵襲!」
「配置につけ!」
慌ただしく警備要員が配置に急ぐ。
「さあ、我々も突撃だ!」
アレックスたちは砲撃で生じた混乱に乗じて兵站基地に突入。
「アレックス。待って。あれは……!」
「おっと? あれは中級悪魔の使い魔か!」
先陣を切っているエレオノーラが声を上げるのにアレックスがそう言った。
そう、中級悪魔の使い魔数体が兵站基地を防衛していたのだ。当然ながら悪魔を使役することも黒魔術であり、帝国では認められていない。
「ふん。あの程度どうにでもなる。さあ、皆殺しだ」
サタナエルが前に出て中級悪魔に殴りかかる。人型をした中級悪魔は剣を振るってサタナエルの攻撃を振り払おうとするが、サタナエルを相手に白兵戦は分が悪い。
「しかし、数が多いな」
「まとめてやっちまおう。それ!」
エドワードが魔剣ミストルティンで中級悪魔や兵士たちを撃破していくのに、ヴィクトリアが兵站基地を覆わんばかりの炎を生じさせる。それによって兵士たちは炭になるが、中級悪魔は何体かがしぶとく残った。
「アレックス。1体、解析したいから生け捕りにできないかな?」
「努力してみよう」
エレオノーラの要請でアレックスが中級悪魔1体の捕獲を試みる。
「バビロン! 捕獲だ!」
怒れるバビロンが呼び出され、アレックスの指示に従って中級悪魔を巨大な腕で押さえつけて捕獲した。
「どうだい、エレオノーラ。好きなだけ調べてくれ」
「ええ」
アレックスが促し、エレオノーラが中級悪魔の使い魔を調べる。
「この術式はやっぱり……。間違いない。これはヴィトゲンシュタイン侯爵家の魔術で呼び出された悪魔だよ。けど、どうして……?」
「君が言っていたように君の父上は生き延びる術に長けていたのだろう」
「そうみたい」
アレックスはヴィトゲンシュタイン侯爵家の当主ゲオルグが黒魔術をミネルゼーン政権のために使うことで生き残ったのだと言っている。
「おい。何をしている。襲撃は進行中だぞ」
「すまない、オフィーリア元帥! すぐに加わるよ!」
オフィーリアは中級悪魔の使い魔も警備の部隊も魔剣アンサラーで八つ裂きにしながら、兵站基地を破壊していた。
『アレックス! 襲撃は終わったですか?』
ここでアリスの使役する下級悪魔の使い魔を通じてアレックスたちに連絡が飛んできた。
「もうそろそろだよ、アリス。敵の増援が向かっているのかね?」
『まさに。敵の大部隊が向かってます。さっさと終わらせてきてくださいね』
アリスは砲撃の他に使い魔で周辺を見張るという役割も追っていた。そして、それによって敵の増援に気づいたのである。
「諸君! 敵の増援が迫っている! そろそろ引き上げだ!」
「まだまだこれから面白くなりそうだったのにな」
サタナエルはアレックスの言葉にそう言い放つと最後にひとりの兵士を切り倒した。既に周囲は中級悪魔の残した人型の残骸と兵士の死体だらけだ。
「ヴィクトリア。やれ!」
「ああ。全て焼けろ。燃え落ち、灰となり、風に散るがいい」
エドワードの号令でヴィクトリアが再び強力な火炎魔術を行使。
「オーケー。物資は全て焼いた。任務達成だ」
「上出来だな、ヴィクトリア」
ヴィクトリアが炎によって兵站基地を焼き払い、エドワードが頷く。
「しかし、お父様が黒魔術をミネルゼーン政権にも提供するなんて……」
「第九使徒教会の反応が見ものじゃないかね?」
「そう、彼らはそこまで仲良くしてはいられない」
猫の手も借りたいミネルゼーン政権にとっては自分たちに仕える黒魔術師も重宝するだろう。しかし、そうなると第九使徒教会のような手を貸している人類国家から批判されることを覚悟しなければならない。
「はたしてどうなることか」
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