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皇帝陛下万歳!

……………………


 ──皇帝陛下万歳!



 アレックスたちは無事に帝都を掌握した。


 ロングボウ作戦は皇帝と皇太子を殺害し、帝都を奪ったことで限定的に成功。しかしながら、殺害目標のひとつであったオイレンブルク帝国宰相の殺害は確認できなかった。


「ふうむ。帝国はミネルゼーンに遷都か」


 アレックスは現在確認できている情報で、帝国の正統政府を名乗るものたちが、ミネルゼーンに遷都したことを知った。そして、彼らが内戦を戦うつもりだということも確認したのだった。


「アレックス! そろそろ時間だよ」


「ああ。行くとしよう」


 アレックスをエレオノーラが呼び、アレックスたちはタンネンベルク城へと向かう。タンネンベルク城ではこれから戴冠式が開かれるのだ。


 忠誠を鞍替えした警察軍と陸軍の将兵やアルカード吸血鬼君主国、バロール魔王国の将兵が警護する中、タンネンベルク城にアレックスたちは入った。


「アレックス。お前も一応来たのか」


「ええ、カミラ殿下。平民ながらルートヴィヒ殿下にお呼ばれしましてね」


「お前を呼ばないという選択は奴にはなかっただろうな」


 黒い礼服のカミラが言い、アレックスは肩をすくめる。


「しかし、トランシルヴァニア候たちは? アルカード吸血鬼君主国の関係者もほぼ招かれたと思うのだが?」


「トランシルヴァニア候は本国に報告に向かった。エドワード兄はインナーサークル関係の仕事で席を外している。それからジョシュアも来ないと言っていたぞ」


「なんとまあ。相変わらずの協調性のなさだ」


 戴冠式だというのに『アカデミー』のメンバーの多くが欠席している。


「そろそろ始まるな。会場に行った方がいいぞ」


「そうするよ」


 アレックスとエレオノーラは戴冠式に出席するためにタンネンベルク城の中を指定された会場へと向かった。


 既に会場には寝返った帝国貴族などが列席しており、戴冠式が行われ、彼らの正統性が早く証明されるのを待っているようだった。


 そして、戴冠式の開催を知らせる鐘の音が響く。


 鐘の音とともに入ってくるのはルートヴィヒだ。今や皇位継承順位1位となった彼が帝国陸軍の軍服を身に着け、王座の間に入ってきた。


「諸君! 帝国皇室法が定める皇位継承に基づき、この私が皇位を継承する!」


 ルートヴィヒの宣言に王座の間では拍手が起きる。


「帝冠をここへ!」


 イオリス帝国皇帝は第九使徒教会の聖職者の手で戴冠するのが伝統だ。イオリス帝国の成り立ちがそれを求めていた。


 だが、今回の戴冠式において帝冠を運んで来たのはルートヴィヒの忠誠を誓うオーケストラ所属の陸軍中将であり、ルートヴィヒはイオリス帝国史上初めて第九使徒教会の影響を排した帝冠を演出した。


「神と祖国のために」


「神と祖国のために」


 ルートヴィヒは陸軍中将とそう言葉を交わし、帝冠を自らの手で自らに授けた。


「今ここに私はイオリス帝国皇帝である!」


 万雷の拍手。


「皇帝陛下万歳!」


「皇帝陛下万歳!」


 万歳の声がこだまし、ルートヴィヒは笑みを浮かべて列席したものたちを見渡す。


「やれやれ。冠ひとつで随分な騒ぎだ」


「そういうものだよ。これまでの歴史というものが、冠ひとつを大きくしているから」


 アレックスは呆れたようにそう呟き、エレオノーラがそう言った。


「ともあれ、これで皇帝は擁立できた。これで我々も帝国を名乗れるわけだ。もっとも斬首作戦については完璧に行えたわけではないが……」


「これからも戦争は続きそうだね」


「まあ、何とかなるさ!」


 アレックスたちは一応出席の義務は果たしたと退席する。


「ところで、これからどうするの、アレックス?」


「戦争を終わらせる。それがまずひとつだね。できれば我々が勝つ形で戦争を終わらせたいものだが、ここから先はノープランだよ!」


「あらら。どうにかなるのかな?」


 アレックスは斬首作戦がいい感じに成功して、帝都を襲撃したその日に戦争が終わることを考えていたので、ここから先には何のプランもなかった。


「なるようになるさ。心配してもしょうがない。どんなときでも自分が第一で、気楽に楽しく生きるのが私のモットーだよ」


「アレックスらしい」


 アレックスの言葉にエレオノーラが微笑む。


 この時点でエレオノーラが反乱勢力に与にしているのは知られていた。


 ヴィトゲンシュタイン侯爵家の城に帝国鷲獅子衛兵隊が向かい、グリフォンに乗った精鋭部隊が城を包囲する。


「ヴィトゲンシュタイン侯! 貴公に出頭命令が出ている! ご同行願おう!」


 そう述べるのは警察軍少将の階級章を付けたアルトゥール・ヴォルフだ。


「争うつもりはない」


 ヴィトゲンシュタイン候ゲオルグはそう言って城から出てきた。


「賢明な判断です」


「今は我々が身内で争う時間ではないだろう。我々は代々帝国に、皇帝に仕えてきた。今もそれが変わることはない」


「何か計画があると?」


「ああ。敵は黒魔術師たちだ。であるならば、私は力になれるだろう」


 怪訝そうにするヴォルフ少将にゲオルグがそう言う。


「このリストにある人間を集めろ。すぐにだ」


「ふむ。いいでしょう。ですが、あなたには一度ミネルゼーンまで来ていただく」


「異論はない」


 そして、ゲオルグは警察軍部隊に連れられてミネルゼーンへと向かった。『アカデミー』に対抗する何かしらの策を秘めて。


「帝国宰相閣下! ヴィトゲンシュタイン侯閣下がお見えです」


 そして、ゲオルグを連れたヴォルフ少将がミネルゼーンにある政府施設にて、そう報告の声を上げた。


「よく来てくれた、ヴィトゲンシュタイン侯」


 先の帝国宰相であるオイレンブルク宰相は死亡しており、副宰相であったテオバルト・フォン・ビューロー侯爵が政府存続計画に従い宰相となっている。


「ビューロー候。私は戦争に全面的に協力するつもりだし、貴公はそれを受け入れるべきだと考えている。そうでなければ我々は敵にエレオノーラがいるというだけで、この戦争に敗れるだろう」


「エレオノーラ嬢は反乱軍にいるのが確認されているが、貴公はそれとは無関係だと主張するわけだな」


「私に帝国を裏切る理由があるだろうか? ヴィトゲンシュタイン侯爵家は代々帝国に仕え、そして歴代の皇帝の寵愛を受けてきた。今になって裏切る理由は、少なくとも私には存在しない」


「そういうことにしておこう。とりあえずは」


 ビューロー帝国宰相はそう言ってゲオルグを見つめる。


「では、聞かせてもらおう。貴公の忠誠が正しい方の帝国にあるというのならば、どのようにしてこの戦争に貢献するつもりかを」


「まずは我々ヴィトゲンシュタイン侯爵家の秘密について明かさなければならない。ヴィトゲンシュタイン侯爵家は皇帝のために黒魔術を研究していた。ずっとずっとだ。歴代の皇帝のために黒魔術の技術を提供した」


「なんと。エレオノーラ嬢はそれで黒魔術を……」


「我々は大悪魔マモンの眷属として、生贄を捧げ、代価を受け取り続けていた。そうやって得た黒魔術で帝国の国益を保護し、このような地位を皇帝から与えられてきたのだ。であるならば、だ」


 ゲオルグが驚くビューロー帝国宰相に告げる。


「新しい帝国の指導者にも同じように貢献しよう。既に私が知る黒魔術を知るもののリストを渡した。それに従って人を集めてもらえば、私がそれらを指導し、帝国が反乱軍と戦うための黒魔術を提供する体制を整える」


「まさに毒を持って毒を制すというものだな。信頼していいのだな?」


「もちろんだ。第九使徒教会には内密にした方がいいだろうが」


「そうするとも。リストの人員をすぐさま集めよう。集めた人間たちは何と呼べば?」


「呼び名は既に存在する。それは──」


 ゲオルグが言う。


「『ヘカテの子供たち』だ」


……………………

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