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式典会場にて

……………………


 ──式典会場にて



 イオリス帝国皇帝カール3世の50歳の誕生日を祝う式典は、ジョシュアたち『神の叡智』の調査したようにノルトラント宮殿にて開かれていた。


「皇帝陛下の長寿に!」


「皇帝陛下万歳!」


 式典会場では晩餐会の前の立食式のパーティーが開かれており、招かれた一部の高位貴族と皇族たちが、会話とワインを楽しんでいた。


「オットー殿下。ルートヴィヒ殿下はどうなされたのですか?」


「弟は体調が悪いそうだ。出席できないことを残念がっていたよ」


「そうでしたか」


 第二皇子ルートヴィヒはこの式典を欠席している。


「それにしても、今回は第九使徒教会の帝都教区長まで招かれているのですな」


「ああ。皇帝陛下もバロール魔王国の内戦が突如として終結したことを警戒されているのだろう。これからは諸外国と足並みを合わせなければ」


 普段ならば招待されない帝都教区長の大司教まで、今回は式典に参加していた。


「カミラ殿下。この度はご出席いただきありがとうございます」


「ああ。我々の友情のためにもな」


 カミラも黒いドレス姿で式典会場にいた。


「ジョシュアはしくじったな。警備は近衛と警察軍だけという話だったが、あれはどう見ても聖騎士(パラディン)どもだ」


 そのカミラが見るのは第九使徒教会の聖騎士(パラディン)としての軍服を纏った男女で、大司教の護衛の他にもちらほらと聖騎士(パラディン)たちが式典会場にいるのが確認された。


「そして、よりによって──」


 カミラの視線が式典会場内を動き、ある人物を見る。


「カミラ殿下。殿下も出席されていたのですね」


「そうだ。お前もとはな、ガブリエル」


 そう、ガブリエルがいた。第九使徒教会の最大戦力と言われる彼女がいたのだ。


「聖ゲオルギウス騎士団が皇帝の身辺警護か?」


「いえ。私はオットー殿下に式典に招かれまして。これが聖騎士(パラディン)としての正装ですから」


「そうか」


 軍服が聖騎士(パラディン)の正装であることは間違いない。しかし、その軍服は威圧感がある。式典に相応しいとは思えない。


「フロスト卿。少しよろしいですか?」


「はい。失礼します、殿下」


 ここでガブリエルが皇太子オットーの侍従に呼ばれて去る。


「殿下。どうなさいました?」


 オットーが待っていたのは皇族のための控室であった。


「フロスト卿。今、我々は結束しなければならない。そうは思わないか?」


「ええ。バロール魔王国は今や再び我々の脅威となり、帝都には黒魔術師の噂が流れています。人類国家は危機に立たされている。であるならば、我々は団結すべきでしょう」


「その通りだ。君と意見が一致していて嬉しい」


 ガブリエルがオットーの問いに答えるのにオットーが笑みを浮かべる。


「そこで、だ。最大の人類国家である帝国と人類国家の普遍的な価値観を示す第九使徒教会の結束を示そうではないか。私はこの式典で結婚を発表したい」


「それはよろしいかと。どなたとですか?」


「私は、その、君と……。そう、君と結婚したい!」


 皇太子オットーはおずおずとそう言い、ガブリエルに指輪を見せた。


「殿下。そのお気持ちはとてもお嬉しいのですが、私は聖騎士(パラディン)としての役目を果たさなければ……」


「殿下!」


 ここで急に侍従武官が飛び込んできた。


「どうした、大佐?」


「襲撃です。帝都が襲撃を受けたとの報告が……!」


「何だと!?」


 式典も出席者たちが集まり、皇帝が姿を見せたとき、急に騒がしくなった。警察軍の将兵が慌ただしく駆け回り、近衛の兵士たちが足早に宮殿の周囲に展開する。


 帝都襲撃の知らせはその知らせの入るべき人間に入っていた。


「状況を報告せよ」


 帝国陸軍帝都軍管区司令官が部下たちにそう求める。


「大量の死霊と下級悪魔が現在、帝国議会議事堂を制圧し、そのまま宮殿に向かっています。警察軍が対応中ですが、規模からして対処は困難かと」


「軍の出動許可は?」


「オイレンブルク帝国宰相と連絡が取れません」


「式典に出席しているのではないのか?」


「警察軍の危機管理が皇帝陛下、皇太子殿下に加え、帝国宰相まで同じ場所にいるのは危険であると判断し、オイレンブルク宰相は帝国議会議員向けの式典に」


「それはどこだ?」


「帝国議会議事堂傍のグスタフ6世記念会館です」


「クソ」


 帝国議会議事堂は現在、所属不明の死霊と下級悪魔に攻撃を受けている。その傍にあるグスタフ6世記念会館も攻撃下だ。


「やむを得ない。これより軍は独自の判断で出動する。私が責任を取ろう。第1擲弾兵師団と第1騎兵師団、そしてノルトラント近衛擲弾兵師団に出動命令を出せ。速やかに帝都内に展開し、これ以上黒魔術師のいいようにさせるな!」


「了解です、閣下」


 そして、帝国陸軍は司令官の独断で出動を決定。帝都内とその付近に駐屯地を有する第1擲弾兵師団と第1騎兵師団が帝都に向けて進み始めた。ノルトラント近衛擲弾兵師団は既に一部が宮殿に展開しており、その支援に向かう。


 彼らの目的は侵攻中の死霊と下級悪魔の軍勢を食い止めること。


「進め、進めー! とにかく進め、どこまでも!」


 その死霊と下級悪魔を使い魔(ファミリア)として使役し、攻撃を行っているのは他でもないアリスとメフィストフェレスであった。


「追加だ、ハニー! 地獄から引きずり出してきた新鮮な中級悪魔だ!」


「行きますよ!」


 メフィストフェレスは地獄とつながった門から次々に悪魔たちを召喚し続け、アリスはそれらを無理やり使い魔(ファミリア)に変えて、それらによって軍勢を組織して送り込んでいく。


 使い魔(ファミリア)によって形成された巨大な人型がこの世の終わりのように列を作っては、帝国議会議事堂や宮殿がある帝都中心部へと侵攻していた。


「なんだかちょっと気分がいいですよ! 私の前にひれ伏せって感じがして! わーはっはっはっはっ!」


 アリスはかなりハイになっていた。


「当初の目的はこれで達しただろう。だが、まだまだ派手に暴れようではないか!」


「イエスッ! 行け、行け、行け、私の軍団(レギオン)!」


 メフィストフェレスがそう言って獰猛に笑い、アリスはあらゆる死霊と悪魔たちを使い魔(ファミリア)として指揮下に置いおては繰り出す。


 それを迎え撃つのは帝国陸軍第1擲弾兵師団と第1騎兵師団。


 第1擲弾兵師団は帝国陸軍標準装備の物質魔剣クラウ・ソラスを装備しており、伝説の魔術師が作った悪魔や死霊を斬ることのできる金属を混ぜたそれが、隊列を組んだ歩兵によって構えられる。


「敵が近づいています! 数は膨大! 地上が見えなくなっていきます!」


「怯むな! 戦うのだ!」


 身長1メートルもない人型からそれを大きく超える15メートル級の人型まで、死霊と悪魔を使い魔(ファミリア)としたことで生み出された怪物たちが防衛線に向けて迫ってくる。


「魔術猟兵大隊! 魔術砲撃準備!」


「了解!」


 第1擲弾兵師団には2個大隊の魔術猟兵が編成されている。


 魔術猟兵は魔術とクロスボウで戦う兵科で、基本的に遠距離火力として機能する。砲兵としての機能もあり、遠距離への砲撃から、近距離での突撃破砕射撃まで。、あらゆる場面で出番があった。


「第1、第2魔術猟兵大隊、魔術砲撃準備完了!」


「目標が射程に入り次第、一斉射撃だ。備えろ」


 師団長からの指示を受け、魔術猟兵は砲撃に備える。


「まだだ。まだ撃つな……」


 死霊と悪魔の軍勢が押し寄せる中、兵士たちは緊張から汗を浮かべ、じっと指示された距離に敵が入るのを待った。


 そして、ついに敵が射的内に。


「撃てえっ!」


 2個大隊約2000名の魔術師が一斉に魔術攻撃を放つ。精神魔剣を錬成したものから爆発を生じさせるものまで、あらゆる魔術攻撃が叩き込まれる。


 互いに干渉しないように放たれた魔術は、死霊と悪魔の軍勢を吹き飛ばしていく。


 砲兵は戦場の女神であるが、それが存在しないこの世界においては砲兵を代替する魔術こそが戦場の女神である。


 魔術砲撃の威力は安定しないが、おおむね迫撃砲と軽榴弾砲の間のほどの威力で、素早い感覚で放たれては敵を制圧しようとした。


「やったか……?」


 土煙に覆われた防衛線の向こう側を指揮官たちが見つめる。


「オオオオォォォォッ!」


 ダメであった。先頭の怪物たちは潰せても、後方からさらに何倍もの数の敵が押し寄せてきて、防衛線の能力が飽和し始める。


「クソ! 兵士が回復し次第、魔術砲撃を再開! 撃ち漏らした敵は白兵戦で叩く! 全員気合を入れろ!」


「了解!」


 そして、帝国陸軍とアリスの軍勢は血まみれの戦いに突入していく。


……………………

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