襲撃計画
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──襲撃計画
しっかりと皇太子オットーの顔と彼が持っている結界維持のためのマジックアイテムを確認したアレックスたち。
彼らはいよいよ本格的に帝都を奇襲する計画を立てることになった。
「次の月に皇帝の50歳の誕生日を祝う式典が開かれる。当然、オットーもそれに参加し、公の場に姿を見せる。さらに言うならば、この式典の場では皇帝と皇太子の両方が同じ場所に集まることになる」
そう言うのはルートヴィヒだ。彼は彼が皇族として入手した情報と彼の親衛隊であるオーケストラに集めさせた情報を統合して伝えた。
「なるほど。絶好の暗殺日和というわけだ。この式典を狙うとしよう」
「式典にはそれなり以上の警備がいるが本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だとも、ルートヴィヒ殿下! 泥船に乗った気持ちでいたまえ!」
「それを言うなら大船にしてくれ。泥船には乗りたくない」
アレックスが哄笑するのにルートヴィヒがため息。
「バロール魔王国の方の準備はできているのですか?」
「できているとオーウェル機関を経由して報告を受けている。オフィーリア元帥はさっさと始めたいと言っているそうだ」
ジョシュアが尋ね、カミラがそう報告した。
「準備は整った、と。覚悟を決めなくちゃ」
「本当にやるんですね……。どれくらいの確立で、その、失敗すると思います……?」
エレオノーラが頷き、アリスはそう尋ねる。
「成功確率は100%だとも! 私が何としても成功させて見せよう!」
そして、アレックスは『アカデミー』の面々にそう宣言した。
「ふん。貴様ならばそれは可能だろうな。何せ成功する以外のことを完全に拒否すればいいのだから」
「その通りだよ、サタナエル。私は成功以外の結果を拒否する」
サタナエルはアレックスが死に戻ることを知っている。
「具体的な行動を決めておくべきではないでしょうか?」
「そうだね、トランシルヴァニア候。役割分担を兼ねて決めておこう」
ここでトランシルヴァニア候は発言し、アレックスが賛同。
「我々の仕事は大きく3つに分けられる」
アレックスは3本の指を立ててそう語り始めた。
「ひとつ。皇太子を殺害して、マジックアイテムを奪取するうえで警備戦力と交戦する仕事。皇太子には間違いなく、それなり以上の警護がついている。それを引きはがすことが仕事のひとつだ」
まず警備戦力の撃破。
「ひとつ。皇太子を殺害後に帝国側が結界修復を目指して、マジックアイテムを奪還しようとするのを阻止する。これはバロール魔王国の空中機動部隊が到着するまで維持されなければならない仕事だ」
次にマジックアイテムの防衛。
「最後は到着したバロール魔王国の部隊とともに帝都を制圧し、政府要人を殺害するというもの。これのために全ての作戦と戦闘は存在していると言ってもいい。まさにメインディッシュだ」
最後は帝都制圧。
「というわけで、この3つの任務に部隊を割り当てていこう」
アレックスは黒板に任務を記しながらそう言った。
「まず警備戦力の撃破だが、これは『アカデミー』とオーウェル機関で行おう。警備戦力を撃破し、帝都防衛結界を破壊し、無力化する。そこまでは『アカデミー』とオーウェル機関の仕事だ」
まずこれがなければ国家転覆作戦は始まらないという任務をアレックスは『アカデミー』のものとした。
「次にマジックアイテムの防衛。ここからはオーケストラを頼ろう。ルートヴィヒ殿下、あなたのオーケストラはあなたに忠実だと言っても、無謀なギャンブルには乗ってこないのだろう?」
「ああ。将軍たちも勝算を考えるだろうな。彼らとて大逆罪で死にたくはない」
「そんな彼らは帝都で皇太子が暗殺され、防衛結界が喪失し、上空をバロール魔王国のドラゴンが飛行するような状況ならば、勝てると思うだろうか?」
「それは当然だ。オーケストラも時が来た思うであろうな」
オーケストラを構成する人間たちは帝都が陥落しようとするならば、日和見をやめて、率先して協力することだろう。
「よろしい。では、バロール魔王国の介入まではオーケストラに帝国の対応を妨害してもらおう。間違った命令を伝達させたり、部隊の展開を妨害してくれればいい」
オーケストラが優れているのは既に彼らが帝国の内部に侵入しているという点だ。彼らは帝国軍や政府の中に潜み、密かに行動を起こすことができる。
「次はバロール魔王国とともに帝都を制圧する段階だが、ここではエドワードとインナーサークルにご協力願おう。あなた方はとにかく派手に暴れたがっているように思えるのでね」
「引き受けた。任せておけ」
エドワードは短くそう応じる。
「誰か忘れてはいませんか?」
「ジョシュア先生。あなたたち『神の叡智』には事前調査をお願いしたい。隠し通路や警察軍の行動予定などが手に入ればなによりだ」
「分かりました。それでしたらやっておきます」
アレックスは学術集団である『神の叡智』には調査を任せた。
「それでは準備開始だ。我々に勝利をー!」
「おー!」
そして、陰謀が始まる。
まずはジョシュアたち『神の叡智』による調査だ。
「式典が開かれるのはノルトラント宮殿です。これについて情報を集めてください」
「分かった。しかし、このまま連中についていくのか、ジョシュア?」
ジョシュアが求めるのに『神の叡智』のメンバーである堕天使が尋ねる。
「彼らが帝国を打倒することで我々にどのような利益があるかを考えてみてください。今の体制下では黒魔術は禁止されており、我々堕天使も追われる身です。それがもし、解消されるとしたら?」
「それは助かるが……」
「そして、シンプルに我々が体制になり替わるとなると、これまで体制側が秘匿してきた魔導書や歴史書などが手に入るのです。帝国議会図書館を始めとする我々の手が届かない場所にどれほどの宝があるか」
「ジョシュア。まさか、お前は帝国だけでなく……」
「ええ。帝国を落とせば他の人類国家を落とすことはさほど難しくもないでしょう。私たちはこの地上に散らばった知識を集めていくのです。『アカデミー』はそのために協力すべき組織ですよ」
ジョシュアはそう言い、不意に背後を振り返った。
「でしょう、アレックス君?」
「もちろんだとも、ジョシュア先生!」
背後にいたのはジョシュアたちの様子を見に来たアレックスだった。
「我々が体制側になれば、黒魔術だろうと堕天使だろうと認めよう。そして、全ての知識は解放される。禁忌の知識などクソ食らえだ。禁断のリンゴを食うなというならば最初からそんなものを植えるなというものだよ!」
アレックスは『神の叡智』のメンバーたちにそう告げる。
「しかしながら、体制側にならなければ私の主張も狂人のうわごとと一緒だ。何としても勝利しなければならない。ということで、頼んだよ、ジョシュア先生たち!」
「ええ。どうにかして見せましょう。我々も今まで無駄に生きてきたわけではないのですからね。それなりの知識の集積というものはあるものです」
ジョシュアたち『神の叡智』が求めるのはあくまで知識。
それさえ手に入るならばそれ以上の権力と地位は必要とせず、それを手に入れるためならばどのような権力も地位も求める。
ある意味では非常に分かりやすく、味方にしておくのに不安はない人種だ。
「神は知識を恐れた。それが自分の地位に害のあるものだと理解していたから。神はその知識ゆえに神である。全知全能を謳う神には知的優位がある。人間や我々堕天使が知識を持つことは、シンプルにそれを脅かす行為なのです」
「そうであるが故に神は知識を秘匿する、か。では、盛大に暴いてやろうではないか! もはやリンゴはバーゲンセールで食べ放題だと示してやろう!」
「ええ。そうすべきでしょうね」
ジョシュアはアレックスの言葉に頷いて返した。
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