山岳地帯
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──山岳地帯
アレックスたちはエドワードを拘束するために、共和派の残党に対する掃討戦に参加することになった。
共和派は分裂して殺し合ったのちに王党派の攻勢を受けてほぼ壊滅。しかし、生き残った残党は南西部の山岳地帯に潜んでいるということであった。
王党派は空軍部隊を動員し、さらには大規模な地上軍を編成。
さらにはアデル自らが戦場に出た。
「予定通り、最前線部隊は寝返った元共和派部隊です。王党派の忠誠が確かな部隊によって見張らせてあります」
「問題はなさそうだな」
この作戦において共和派から降伏した魔族たちは最前線に送られ、それを信頼できる王党派部隊が監視する形を取っている。
共和派は敗北によって寝返ったものの、アデルからすれば自分の王位を揺るがした大逆人たちだ。情けをかける意味もない。
だから今回の戦いで共和派同士を再び争わせ、そしてすり潰してやろうという魂胆であった。いささか残酷に思えるが、これが政治というものだ。
「作戦を説明いたします」
コルネリウスがアデルに告げる。
「まず空軍が大規模な爆撃を実施。さらにその後空中機動部隊を投入して、敵戦力の包囲を実施します。敵が山岳地帯を利用したゲリラ戦に出るのは確実であり、こちらはそれに優位な戦力規模の投入と包囲殲滅で対応します」
ゲリラを撃破するのに効率的なのは、特殊作戦部隊のような精鋭を投入するのではなく、とにかく数の多い部隊を投入して確実な包囲殲滅を行うことだ。
ゲリラは軽歩兵に過ぎず、正面から戦うことを強いられると脆い。だから、大量の戦力によって強引に正面からの戦いを強いるのである。
「よろしい。確実に実行しろ、コルネリウス元帥」
「畏まりました、陛下」
アデルが命じ、作戦が開始された。
まずドラゴンとワイバーンによる空軍戦力が山岳地帯上空に進出し、激しい爆撃を加える。爆発が地上を覆い、それによって共和派残党が抵抗拠点にするはずだった陣地が破壊される。
「コルネリウス元帥閣下。爆撃は効果大とのこと」
「よろしい。空中機動部隊を投入する」
続いて空軍によって空中機動する地上軍部隊が投入された。
彼らは山岳地帯における緊要地形を制圧していき、山岳地帯全域を包囲する等に広がった。帝国同様に火砲のない彼らを支援するのは魔術師だけだ。
「接敵、接敵!」
「陣形を崩さず前進せよ!」
山岳地帯での戦闘が始まり、王党派と共和派双方の魔術攻撃が飛び交い、白兵戦が行われていく。高低差のある地形での戦争は酷く体力を使い、犠牲は少なくない。
「我々の出番はまだなのかね?」
アレックスたちは今は前線に派遣されておらず、山岳地帯を見渡す司令部で待機していた。あまり緑のない荒れたアフガニスタンのような山を眺め、アレックスは酷く退屈そうである。
「まだ待て。待つのも兵士の仕事だ」
「そうともいうね」
オフィーリアがそう言い、アレックスはため息を吐いた。
今回の作戦の指揮はコルネリウスが執っているため、オフィーリアは一兵士として作戦に参加している。
元帥がふたりもいては面倒なのだ。船頭多くして船山に上るという単語のように、司令官はひとりでなければならない。特に軍隊において指揮系統は厳格化されてる。
「オフィーリア。偵察部隊が敵の司令部の位置を掴んだ」
ここでコルネリウスが現れてそう告げる。
「思ったより待たずに済んだな。行くぞ、ガキども」
「おや。我々の任務は司令部の制圧かい、元帥?」
「そうだ。寝返った共和派に任せていては脱走を幇助されかねない」
「なるほど」
どうやら雑魚は寝返った共和派に任せていいが、幹部や指導者となるとそうはいかないらしい。アデルは信頼のおけるオフィーリアとアレックスたちにそのものたちを処理するように命じていた。
「毎回の空中機動だ。すぐに行ってさっさと終わらせる」
「もちろんだとも。行こう、諸君!」
オフィーリアがドラゴンの背に跨り、それからアレックスたちも続く。
「準備万端だよ、アレックス!」
「よし。こちらはいつでもオーケーだ、オフィーリア元帥!」
エレオノーラたちもドラゴンに騎乗し、準備を終えたことをアレックスが報告。
「作戦開始だ」
アレックスたちを乗せたドラゴンは滑走路を加速して離陸し、一気に王党派と共和派が殺し合っている山岳地帯を目指す。
「凄い戦闘ですよ。あそこに飛び込んむですか?」
「いや。我々が目指しているのはあれだな」
アリスが尋ねるのにメフィストフェレスが前方を指さす。
山岳地帯が僅かに開けた場所に建物があった。要塞のような建物で、最初の爆撃で爆撃されたのか、僅かながら黒煙が立ち上っていた。
「防空網は沈黙してるようだな。行けるか、大尉?」
「問題ありません、元帥閣下。降下を開始します!」
要塞の防空兵器は全て爆撃で破壊されており、ドラゴンたちは一斉に降下。
「降下、降下!」
「行け! 時間との勝負だ!」
オフィーリアが引き連れてきた王党派の精鋭が降下地点を確保し、そこにアレックスたちを乗せたドラゴンも降下する。
「さてさて。我々の仕事は?」
「この降下地点を防衛する部隊が必要だ。そっちから抽出しろ。他はついてこい!」
「了解だ。アリス、メフィスト先生、ジョシュア先生。あなたたち3名はここを守っておくように!」
アレックスはアリスたちにそう言い、オフィーリアとともに要塞に突入。
「敵だ!」
「迎え撃て!」
要塞内部には共和派の兵士たちがおり、それらが一斉に襲い掛かってくる。
「蹴散らすぞ。巻き込まれるなよ」
オフィーリアがそう言うと彼女の前方にいた共和派の兵士たち全員が一瞬で八つ裂きになり、地面に崩れ落ちていった。辺りは真っ赤な血の海だ。
「おお。流石は魔女だね」
「凄い。圧倒的だよ」
その様子を見たアレックスとエレオノーラがそれぞれそう呟く。
「ガキども、ちんたらしている暇はないぞ。ここにいるのは雑魚ばかりだ。必要な人間以外は皆殺しにしろ」
「任せたまえ!」
そして、アレックスたちも戦闘に加わる。
もはや共和派残党の兵士たちの命運が尽きたのは明白であった。
人間の古き血統という規格外な魔女と爵位持ちの上級悪魔の使い魔を使役するようなものたちが相手になって、どうやってそれらに勝利できるだろうか?
城の警備は瞬く間に制圧されていく。
「一歩も引くな! 戦え! 我々の死に場所はここだ!」
「おおっ!」
しかし、敵の兵士たちの士気は高いを超えて、狂気のそれであり、死を恐れず抵抗を繰り返している。既に自分たちは死んだものとして戦う兵士たち。そう、まさに死兵だ。
「こいつらは死を恐れていない。ここで下手に生き残れば死よりも悲惨な結果が待っていると知っているのだろう」
「では、お望みどおりに殺すしかあるまいね」
「ああ。そうしろ。それが慈悲だ」
オフィーリアがアレックスにそう言い、空間断裂によってあらゆる方向から襲い掛かってくる共和派の残党たちを切り倒していく。
「派手に暴れるぞ。こういう死の臭いに満ちた戦場は好みだ」
サタナエルも暴れ始め、要塞の中が地獄のそれへと変わっていく。
「我らが信じるもののために! 死など恐れない!」
「死を恐れるな!」
捨て身の攻撃を繰り返す狂気じみた共和派は少しずつその数を減らしている。
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