首切り役人
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──首切り役人
アレックスたちは共和派に対する斬首作戦のためにラ・シーニュ城に突入。
アリスとカミラは城の外からの援軍の阻止。ジョシュアは城内の探索。エレオノーラ、サタナエル、オフィーリア、そしてアレックスは敵部隊の殲滅。それぞれの作戦目標を果たすべく、彼らは奮闘を始めた。
「敵だ! 王党派の犬だぞ!」
「急いで排除しろ! 今は指導部のメンバーがいるんだ!」
共和派の魔族たちがアレックスたちを迎え撃つために城内をかけてくる。
「来たぞ、敵の歓迎員会だ! 蹴散らせ!」
「了解!」
アレックスはバビロンを召喚し、エレオノーラたちは近接戦闘に臨む。
「数は圧倒的に向こうの法が上なうえに、敵も魔剣持ちか」
「あれは量産された物質魔剣ダモクレスだな。あの魔剣の表面には物質を絶対に寄せ付けない反発の魔術の効果がある。あの剣はそうであるが故に破壊できないし、同時にいかなるものも引き裂く」
「楽しめそうだ」
サタナエルがオフィーリアの言葉ににっと笑い、『七つの王冠』を構えて突撃。
「血の味を味わえ」
「畜生──」
サタナエルの『七つの王冠』が縦横無尽に踊り、空中を舞って敵を惨殺していく。魔剣ダモクレスを装備する共和派部隊は応戦するが、限定的にしか召喚されていなくとも地獄の皇帝を相手にするのは分が悪い。
「いいぞ! ジョシュア先生、まだ敵の指導部は見つからないかね!?」
「もう少しなので頑張ってください」
「分かった!」
ジョシュアは城内に『禁書死霊秘法の獣』を走らせて、どこに共和派指導部が存在するかを探し続けていた。放たれているおぞましい獣は凄まじい速度で、かつ誰にも防がれることなくラ・シーニュ城の中を探っていく。
「新手だ」
オフィーリアが警告し、城の下層から大規模な増援が現れた。
「我こそはバロール魔族共和国陸軍大将たるリヨテである! 正々堂々と一騎打ちをしたい! 名乗りを上げよ、反動分子の戦士!」
そして、増援とともに現れたのはリザードマンの将軍であった。
「私が相手をするよ」
「いいだろう。譲ってやる、小娘」
エレオノーラが声を上げ、サタナエルが前に出るように促す。
「正々堂々と戦いましょう、リヨン将軍」
「子供といえども手加減はせぬぞ」
エレオノーラは魔剣ダインスレイフを構え、リヨン大将は魔剣ダモクレスを構えた。
「いざ尋常に──」
「──勝負!」
そしてふたりが弾かれたかのように動く。
エレオノーラは無数の呪いと瓦礫によって構成される槍を一斉に生成。そして同時に投射。四方からリヨン大将に向けて殺意の嵐が吹き荒れる。
「この程度!」
リヨン大将は防御魔術を展開して、エレオノーラの攻撃をしのぐ。防御魔術はどういう仕組みかは不明だが、次々に放たれてくるエレオノーラの呪いの槍を黒い光で迎撃して、粉砕していた。
「なかなかやりますね」
「ふん! この程度とは他愛もないな!」
そして、次にエレオノーラの呪いの槍が途絶える。攻撃の機会だ。
「守るのは終わりだ! 覚悟──」
リヨン大将が防御魔術の外に出たとき、エレオノーラの姿はない。
「どこに……!? 上かっ!」
リヨン大将が上空を見上げるとエレオノーラがそこに降り、彼女はダインスレイフを振り下ろすように振るった。
「あっ!」
これまで共和派軍兵士たちの手に握られていたダモクレスが、呪いを自在に操るエレオノーラによって、その手から奪われ、一斉にリヨン大将に向けて飛翔する。
「しまっ──」
リヨン大将は反発を生じさせ、何もかもを引き裂く魔剣に押しつぶされ、一瞬で血の霧に変わってしまった。
「リヨン大将が!?」
「な、なんてことだ!」
兵士たちが司令官の死に衝撃を受ける。
「私たちの邪魔はさせない」
エレオノーラはそう宣言し、リヨン大将を屠ったダモクレスを魔族たちに向ける。
「逃げろ! 逃げろっ!」
「クソッタレ!」
先ほどのリヨン大将の無惨な死を見ている魔族たちは脱兎のごとく逃げ出した。それにエレオノーラに彼らの奥の手であったダモクレスが奪われてしまっているのでは、戦うことはできない。
「おっと。見つけました。共和派の指導者たちです」
魔族たちが逃げ出した後でジョシュアが声を上げる。
「オーケー! 早速向かおうではないか!」
アレックスたちはジョシュアが指導者たちを見つけた場所に向けて進む。
「この部屋です」
「突っ込むぞ」
サタナエルがジョシュアが示した部屋の扉を蹴り破り、内部に突入した。
「な、何だ、お前たちは!」
部屋に中には豪華な調度品で飾られており、6、7名の魔族たちがいた。
「首切り役人だ。挨拶は要るまい。死ね」
サタナエルはにっと笑ってそう言うと『七つの王冠』を放つ。
「ぎゃっ──」
宙を舞う刃が次々に魔族たちの首を刎ね飛ばし、殺害していく。
「一応彼らの身分を照合するつもりだったのだが、まあいいか」
「この部屋にある資料は全て回収していってください。きっと後々役に立ちますから。全てですよ」
「了解だ、ジョシュア先生」
アレックスたちは共和派指導者たちの首なし死体が転がる部屋の中で、部屋にあった地図から何までの資料を鞄に入れて回収。
「アレックス! 敵の大規模な増援ですよ! 指導者は殺せたんですか!?」
「ああ。終わったよ、アリス。これから逃げるところだ」
「じゃあ、急いで! 防ぎきれませんよ!」
「了解、了解」
急かすアリスに急かされてアレックスたちはラ・シーニュ城からの撤退へ。
「空軍に既に合図は送ってある。すぐに来るだろう」
カミラはそう言って城の屋上から地上を見ていた。
「地上に凄い敵がいる……」
「動けるのは今だけだ。後は指導者がいなくなったことで指揮権を巡る争いが起きるだろう。そこをアデル陛下たちに叩いてもらう」
「これで内戦は終結?」
「恐らくは」
アレックスたちの残る仕事は迫りくる敵の地上部隊を迎撃し、空軍到着までの時間を稼ぐこと。逃げるまでが暗殺作戦だ。
「ここは彼に頑張ってもらおう。バビロンッ!」
アレックスはそこにバビロンを放ち、バビロンがその巨大な体を地上に展開させる。場所に応じて、そのサイズが伸縮するバビロンは、外であれば怪獣映画のように巨大なドラゴンとなるのだ。
「踏みにじれ!」
アリスとカミラの下級悪魔の使い魔と死霊の軍勢も強力だが、爵位持ちの上級悪魔であるバビロンはさらに強力だ。
次々に魔族の軍勢が蹴散らされ、撃破され、生き残りが逃げていく。
「ふーはっはっはっはっ! 無駄だったな! さっさと帰りたまえよ!」
アレックスは高笑い。
そこで王党派のドラゴンたちが飛来し、次々にラ・シーニュ城の屋上に着陸。
「乗り込め! 脱出だ!」
「急げ、急げ!」
アレックスたちはドラゴンに跨り、そしてラ・シーニュ城から脱出した。
これと同時に王党派は大攻勢をかけて、混乱する共和派を次々に撃破。内戦における共和派の戦力僅かなものとなり、ほぼ壊滅したのだった。
今やほぼ全ての魔族がアデルに忠誠を誓い、魔王を讃えている。
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