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情報戦

……………………


 ──情報戦



 アレックスの狙い。それは帝国によって密かに支援されているという共和派のスキャンダルを暴いて、共和派の支持を失わせるというものだ。


 そのためには帝国と共和派を結び付けている証拠が必要。


「もちろん証拠は必要だ。それを得るために頑張らなければいけない」


「頑張る、などという抽象的な話では証拠は手に入らんぞ」


 アレックスの意気込みにオフィーリアが少しばかり呆れた様子でそう言った。


「それぐらいは分かっているとも。世の中、ただ頑張るだけどうにかなるなら誰も苦労しない。ベクトルの間違った努力は何も生まないのだ」


 少しばかり憤慨した様子でアレックスが語る。


「方法についてはいくつか考えている。ひとつは帝国側で情報を掴むということ。帝国が工作を仕掛けている以上、帝国側に何かしらの証拠があるのは間違いない」


「我々がその証拠を掴めるぐらい帝国に情報源を持っていれば、最初から帝国の陰謀だと分かったがな。あいにく、我々は敵も味方も情報軽視も甚だしいのが現状だ」


「おやおや。情報軽視はよろしくない。それはついては改善すべき点だが、まあ今回件に限っては問題はない。これはトランシルヴァニア候閣下たちオーウェル機関に依頼するつもりだ」


 オフィーリアが言うのにアレックスはそう言った。


「引き受けましょう。我々にとっても利益になることです。ただ、国家保衛局はなかなか容易にはいかないゲームの相手ですので、成果は必ずしも約束できません」


「それで結構だよ、トランシルヴァニア候閣下。引き受けて下さって感謝だ」


 トランシルヴァニア候がアレックスの言ったことを引き受ける。だが、彼の言う通り、オーウェル機関によっても国家保衛局は危険な相手だ。


「それからこちら側でも証拠を手に入れる。帝国が武器や資金を渡しているところを押さえれば証拠になる。それに国家保衛局は共和派とも連絡を取り合っているはずだ」


「共和派内になら幾分か資産(アセット)があっただろう。我々は情報を軽視しているが、無視はしていない。内戦が始まってから共和派の懐にも資産(アセット)を作っておいたと思っていたが」


 アレックスの言葉にコルネリウスがそう発言した。


「ああ。もっとも軍情報部の資産(アセット)だから、軍事情報の収集がメインだろうが。しかし、他の目的に全く使えないということもないだろう」


 オフィーリアがそういう通り、共和派に情報戦を行っているのは王党派の軍情報部であり、軍事情報の収集を目的とした資産(アセット)がネットワークを構築している。


「オーウェル機関は何も資産(アセット)は持っていないのか?」


「同盟国にその手の情報戦は展開しませんよ」


「そうか? では、誰がエドワード兄上がバロール魔王国の共和派に亡命したという情報を手に入れたのだろうな?」


「はて? 私も存じ上げませんな」


 カミラが指摘した事案はオーウェル機関がバロール魔王国に忍び込ませている資産(アセット)からの情報である。トランシルヴァニア候のいう同盟国への配慮というものは虚偽というわけだ。


「まあまあ。当てにできないと言われたものを当てにしようとしてはいけない。我々はもうひとつやるべきことがある」


「というと?」


「王党派内の国家保衛局の工作員(エージェント)の洗い出しだ」


 エレオノーラが首を傾げるのにアレックスがそう言った。


「国家保衛局は共和派に王党派の情報を提供している。そのことは間違いない。よって、王党派内の国家保衛局の人間も排除しなければ。そうしないと連中が共和派を支援していることを我々が把握したことが漏れる」


「確かにですね。知っていることを知られないのが重要といいますし」


「ははは! 流石は我々の情報担当だ、アリス!」


「いつから私はそんな扱いになったんです?」


 アレックスが哄笑し、アリスがため息。


「というわけで、作戦は以上だ。オーウェル機関による国家保衛局からの情報収集。共和派内の国家保衛局の人間の確保。王党派内の国家保衛局の人間の排除。それらを実行しなければいけない」


 作戦は3つ同時進行。


 帝国における作戦。共和派内における作戦。王党派内における作戦。


「というわけで、私たちは王党派内での国家保衛局の工作員(エージェント)の洗い出しを行うつもりだ。どなたか我々に同伴してもらえるといろいろと物事がスムーズに進んで便利なのだが」


「なら、私が同行してやろう。今は暇をしているからな」


「おお。助かるよ、オフィーリア元帥」


 アレックスの求めに応じたのはオフィーリアだった。


「一応聞きますが防諜を担当している部署などは?」


「ない。それぞれがそれぞれの基準で防諜は行っているのみだ」


「随分とおおざっぱですね……」


 ジョシュアが呆れたようにそう言う。


「コルネリウスが言っただろう。我々魔族は魔族というひとつの単語で言い現わすには不適切なほど幅が広いと。戦争においても同じことだ。ドラゴンの戦争とゴブリンの戦争が同じだとは思うまい」


「情報への価値観もそれぞれ次第のままと。どのような戦いをするのであれ、鉄と炎と同じくらい情報は大事だと思いますがね」


「私は鉄も炎もを使わず敵を殺すぞ。それを使うよりも大量に、な」


 ジョシュアが苦言を呈するのにオフィーリアはそう笑った。


「つまり、我々は一から防諜作戦を実施するわけですな。これはなかなかにやりがいがあるではないですか」


「全くだよ、トランシルヴァニア候閣下。ジョシュア先生もいつまでも嫌そうな顔をしていないでやる気を出したまえよ!」


 トランシルヴァニア候が苦笑しながら言うのに、アレックスがそう言い、ジョシュアの肩を叩いた。


「実際問題として防諜作戦ってどうやるんです?」


「私が知るわけないだろう」


「こいつ……」


 アリスがあっさりと返したアレックスに呆れた視線を向ける。


「防諜作戦にはいろいろとあります。偽情報を流して様子を見ることや、情報に関係してくる人間に身辺調査を行い支出と収入や女性関係について地調べることなど。まあ、スパイ小説のようにドラマチックにはいきませんよ」


 流石はスパイマスターなだけあってトランシルヴァニア候は詳しい。


「私の魅了(チャーム)も役に立つだろう」


「それからこの『禁書死霊秘法』もですね」


 カミラとジョシュアが相次いでそう発言。


 カミラの魅了(チャーム)は言うまでもなく強力だし、アレックスがジョシュアにプレゼントした『禁書死霊秘法』も役に立つそうだ。


「アリス。君の使い魔(ファミリア)軍団にも期待しているよ!」


「はいはい。で、あなたは何をするんです?」


「私はそれらしき人間を『虚偽の理論』で揺さぶっていく!」


 ある意味では最強のスパイ狩りの魔導書である『虚偽の理論』をアレックスはちゃんとバロール魔王国まで持って来ていた。


「『虚偽の理論』があれば簡単にスパイを見つけられる、とはいかないよね。『虚偽の理論』は自動的に嘘をついている人を見つけてくれるわけじゃないから」


「そう、それが問題なのだよ。王党派には大勢の魔族がいる。そこから裏切り者を探して、『虚偽の理論』でそれを証明するのはなかなかに骨だ」


 エレオノーラの指摘にアレックスが頷く。


 魔導書『虚偽の理論』がその作用を発揮するには、相手に嘘をつかせなければいけない。そうしなければ『虚偽の理論』が真実を示すことはないのだ。


「であるならば、トランシルヴァニア候にある程度範囲を絞らせてから、その絞った人間を手当たり次第に調べるというのはどうだ? まだまだ時間はあるのだろう、魔女?」


「私に言っているのか? そうだな。軍事的に明日明後日我々のいるこの王城が陥落することはない。そういう意味では余裕はあるだろう。それに必要であれば私が3、4年は稼いでやろう」


 カミラが尋ねるのにオフィーリアがにやりと笑う。獰猛な笑みだ。


「オーケー。それでは作戦開始だ!」


……………………

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