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魔王

……………………


 ──魔王



 アレックスたちの長い馬車の旅ももうすぐ終わろうとしていた。


「見えてきたぞ。あれが王都モレクだ」


「おお」


 高い城壁に囲まれた巨大な都市。それがバロール魔王国の王都モレクだ。


 モレクは帝都と同じように運河の傍に築かれており、城壁には運河の通る門も作られている。さらにはいくつもの街道が交差し、このモレクを中心にバロール魔王国の交通インフラは広がっていた。


「あの中央の塔がバロール魔王国の宮殿だね」


「へえ。塔が宮殿というのは珍しいね」


「いろいろと理由はあるようだよ」


 アレックスが知識を披露するのにエレオノーラが興味津々でモレクの中心部から聳える高い塔を見上げた。


「さて、王都に入るぞ。お行儀良くしてくれよ」


 ディアール大尉はそう言うと馬車を先導し、王都モレクの巨大な門に向かう。


「止まれ!」


 門の前にはオーガの衛兵がおり、重武装の彼らがアレックスたちの馬車を止めた。


「そっちにいるのは人間だな? どういうことだ?」


「上官に敬礼ぐらいしろ。許可証がある。外務省が招待した客だ」


 ディアール大尉は下馬し、バロール魔王国外務省が発行した許可証を見せる。


「失礼しました、大尉殿。どうぞお通りください」


 衛兵たちの態度は一変し、門が開かれて、アレックスたちはモレクの中へ。


「おおー。何というか帝都とあまり変わらない感じの街並みですね?」


「そうだな。しかし、都市というものはそこに暮らす人間の利便性に応じて構築されていくものだ。人間とは異なるものだとしても、手足があり、二足歩行で行動し、馬車などを利用するとすれば同じ形になるのは必然ではないか?」


 アリスはもっと変わった風景を期待していたようだが、広がっている街並みは帝都のそれによく似ている。そんなアリスの感想にカミラがそう言って返した。


「収斂進化というものだね。生物にも見られるものだ」


「そういうものがあるんだ」


 アレックスたちはそんな雑談をしながらモレク中心部の塔に向かう。


「ここだ。ここから先は宮殿を守っている近衛に案内してもらってくれ。俺がついていけるのはここまでだからな」


「了解だ。助かったよ、大尉」


「ああ。内戦を終わらせてくれればそれでいいよ」


 ディアール大尉はそう言って去った。


 アレックスたちは許可証を手に宮殿の門へと近づく。


「止まれ。ここは魔王陛下の宮殿である。何用か?」


「謁見の許可を得ている。アレックス・C・ファウストとその仲間だ」


「お前たちが例の人間か。通れ。案内する」


 近衛兵はアレックスの示した許可証を見て頷くとアレックスたちの門の内側に招き入れ、聳え立つ塔に向けて案内を始めた。


 塔の中は外観からは想像できないほど豊かな光景が広がっていた。


 美しいクリスタルの彫像がいくつも並び、歴代の魔王や魔族の英雄を讃えている。絵画も戦場の様子を描いたものなどが並び、塔の中を美しく飾っていた。


「こちらです。失礼のないように」


「ああ」


 近衛兵からバトンタッチした塔で魔王に使える侍従に言われ、アレックスたちはついに人類の長年の宿敵であった魔王と対面した。


「ほう。お前たちが例の人間か。我々の内戦を終わらせたいという物好きの」


 魔王は女性だった。


 外見年齢は20代後半ほどで長身かつ女性的な魅力ある体つき。額から鋭く伸びた2本の角と顔に施された化粧が特徴的な人物だ。


「お会いできて光栄です、アデル陛下」


 アレックスたちは膝を突いて魔王──アデル・デア・バロールに敬意を示した。


 今、このバロール魔王国を統治する魔王の名はアデル・デア・バロール。とは言えど、、今の彼女は数ある軍閥の中で王都を占領しているだけのものに過ぎなかった。


「お前からは濃い硫黄の臭いがする。悪魔と契約しているのか?」


「ええ。悪魔と契約しています。地獄の皇帝サタンと」


「サタンと、だと……?」


 アデルは疑るように目を細めてアレックスを見た。


「信じられませんかな? では、示しましょう。サタナエル!」


 アレックスが呼び掛けると虚空が裂けて、そこからサタナエルが姿を見せた。


「どうした、アレックスの小僧?」


「私が君という存在と契約していることを示したくてね。協力してもらえるかい?」


「ふん。いいだろう」


「では。地獄の皇帝サタンよ、来たれ。『一つ目の頭』まで!」


 次の瞬間、肌を貫くような冷たい空気と硫黄の臭いが王座の間に満ち、誰もが何かしらの本能的な脅威を感じ取って震えあがった。例外はメフィストフェレスとトランシルヴァニア候だけだ。


「……事実のようだな」


「信じていただけて何よりだ、陛下」


 アデルはそう言ってただ頷き、アレックスは微笑んだ。


「話は大使のメーストル男爵から聞いている。将来的に人類国家に黒魔術を認めさせるために我々を支援するということだったな」


「その通り。受けていただけますかな?」


「いろいろと考えた。お前たちはただ我が国を疲弊させるためだけに来たのではないかと。内戦を終わらせるといいながら、内戦によってバロール魔王国の力を削ぐのではないかと、いろいと考えた」


「考えるのは大事ですな。そして、それと同じくらい結論を出すのも大事ですよ」


「ああ。結論を出さなければならない」


 アデルはそう言ってアレックスをじっと見つめる。


「それに、陛下。あなたはかなり参った状況にあるはずだ。支配地域は狭まり、辛うじてこの王都モレクを防衛しているが、それすらも怪しくなっている。ここを失えば、いよいよ政権の正統性は失われる」


「ほう。調べてきたのか? その情報はアルカード吸血鬼君主国のオーウェル機関のものか、それとも帝国の国家保衛局か……」


「いずれでもない。我々には我々の情報源がある。そして、それによればあなたは我々と手を組むべきである!」


 アレックスはそうアデルに訴えた。


「分かった。そうだな。地獄の皇帝サタンすらも従えるお前と手を組むことは有益だろう。手を組もう」


 そして、アデルは存外あっさりと手を組むことを決めた。


「ありがとう、陛下。さて、それでは内戦の戦況について私以外のメンバーに説明してもらえるだろうか?」


「ああ。まず内戦は主にふたつの勢力が争っている。王党派と共和派だ」


 アレックスに頼まれてアデルが説明を始める。


「王党派は言うまでもなく魔王による統治を引き続き続けることを求める勢力だ。私が戦っているのもこれだ。王党派の中でも誰を魔王とするかは揉めているが、今は身内で殺し合っているような贅沢はできない」


 内戦の勢力のひとつ王党派。魔王による統治を望む勢力だ。


「共和派はそれとは全く違う。連中は魔王の地位を廃止し、合議制の指導部が国を導くべきだと考えている。連中が自称している政府もバロール魔王国ではなく、バロール魔族共和国だ」


 共和派は魔王の地位の廃止と共和制を求める勢力である。


「大きくこのふたつの勢力が殺し合っている。お前たちは私と手を組むというのならば王党派と組むことになる」


「問題ないとも。正直、力こそが全ての魔族のお行儀よく話し合うということができるとは思えないのだよ」


「はん。言ってくれる。だが、確かに我々には少しばかり早すぎるな」


 アレックスがそう述べるのにアデルはそう吐き捨てた。


「具体的な戦況については司令官たちに尋ねるといい。案内させる」


「助かるよ、陛下」


「戦況が分かったら、お前たちにも戦ってもらうからな」


 そして、ひとまずアレックスたちは戦況を把握することに。


……………………

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