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バートリ・エルジェーベト魔術学院

……………………


 ──バートリ・エルジェーベト魔術学院



 国王との謁見が終わり、アレックスたちはいよいよバートリ・エルジェーベト魔術学院へと向かうことに。


「あれがそうだ」


「ふむ。雰囲気はミネルヴァ魔術学園に似てますね」


「それはそうだ。ミネルヴァ魔術学園を模したものだからな」


 吸血鬼と人狼にとっての魔術の学校はミネルヴァ魔術学園に似た雰囲気の場所であった。建物の雰囲気から敷地の立地に至るまで似ている。


「しかし、ミネルヴァ魔術学園と違ってさしたる歴史はない。前に言ったが吸血鬼にとって学校というのは人間の文化だ」


 長命種が支配するアルカード吸血鬼君主国において人間のような知識継承の場である学校の文化はなかなか根付かなかった。


「となると、どういう経緯で学校ができたんだい?」


「人間たちとの戦争が続き、それによって相手に魔術の技量から兵器の質に至るまで様々なものが比較された。本来ならば優れているはずの我々がどうにも劣っていると分かり、その原因が追究された」


「その原因が学校にあると」


「ああ。知識の継承と発展という面で学校という文化は優れている。少なくとも分析を行ったものはそう判断した。そこで学校という文化を取り入れることにし、このバートリ・エルジェーベト魔術学院が設置された」


 ここでは魔術だけでなく、一般的な学問についても教えているとカミラ。


「効果はあったのですか?」


「ほどほどにはな。劇的なものではない。やはり従来の子弟方式では教育から漏れるものがいるが、学校はその規模の大きさから従来より大勢の教育が行えた。もっとも質については疑問点が残っているが」


「興味深い話です」


 ジョシュアはアルカード吸血鬼君主国の教育について興味があるようだった。


「細かい話は学院の担当者に聞け。すぐには出発しないのだろう?」


「ああ。一応アリバイを作る必要がある。アルカード吸血鬼君主国に留学してきたというアリバイだ。それがなければ国家保衛局なり何なりに疑われてしまう」


「では、そうしろ」


 カミラがアレックスにそう言い、彼らを乗せた馬車は学院内で停車。アレックスたちは馬車を降りると学院の生徒たちに迎えられた。


「ようこそ、バートリ・エルジェーベト魔術学院へ、人間さん」


「これはご丁寧にどうも。私はアレックス・C・ファウストだ」


 代表生らしき黒髪をボーイッシュに纏めた女子生徒が握手を求めて手を差し出すのに、アレックスは挨拶をして握手に応じた。


「私はメイベル・ハーカー。今回、あなた方の歓迎委委員を務めています。改めましてよろしくアレックスさん」


 代表生はメイベルと名乗った。


「さて、とりあえずこの学院の中を案内しますので、どうぞついて来て」


「お願いしよう」


 アレックスたちはカミラとトランシルヴァニア候を除き、メイベルについて学院内の案内を受けた。


 学院内の施設はミネルヴァ魔術学園にやはり類似しており、講義室の間取りを見ても影響が窺えた。そして、生徒たちはアレックスたちを興味深そうに眺めている。


「我々は随分と興味を集めているようだ」


「ここにいる生徒たちは人間に興味があるから。最後に人類国家との戦争が起きたのは20年前で、若い世代は戦争のことも、人間のことも知らない」


「それで人間に興味を?」


「あなたは吸血鬼に興味はない?」


「そう言われると反論できないな」


 カミラが言っていたように学院の生徒は人間にかぶれているらしい。


「私たちはいろいろと人間の影響を受けていることは自覚しているし、昔ほど敵意もない。少なくともお互いに顔を見合わせた途端殺し合う時代は終わっているから」


「しかし、老人たちはそうでもないだろう? 彼らにとって20年前というのは昨日のようなものだ。違うかい?」


 若者はもう戦争を知らない。だが、大人は覚えている。


 サウスフィールド王冠領を巡る南部動乱は20年前。20年前というのは人間であっても関係者が生きているほどの短い時間に過ぎない。


「大人たちは確かに戦争と人間への恨みを忘れていません。前にもエドワード王子が過激な極右の民兵を組織していましたしね」


「エドワード王子は今は?」


「亡命されたと聞いています。バロール魔王国に」


「ほう。バロール魔王国に、か」


 カミラからエドワードのことは片付いたと聞いていたが、エドワードは別に処刑されたわけではないらしい。


「この学院の目的にも大人たちは明日の兵士を育てるためだと思っています。そのために戦闘に関するカリキュラムが多いんですよ。ミネルヴァ魔術学園はどうです?」


「我々は純粋に魔術の勉強だね。軍の魔術師は軍が育成するから」


「ふむ。でも、あなたはお強いのでしょう?」


 そこでメイベルが僅かに眼光を光らせてアレックスにそう尋ねた。


「弱くはないとだけ」


「であるならば、手合わせ願えませんか?」


「模擬戦かね?」


「ええ」


 メイベルの提案はアレックスとの模擬戦。


「いいだろう。しかしながら、親善の場で死者がでないようにはしてほしい」


「もちろんです。この学院の生徒たちはみんなが人間に興味を持っているので盛り上がりますよ」


 アレックスが快諾するのにメイベルが微笑み、残りの学院の紹介を終えた。


 それからアレックスとメイベルはグラウンドに出る。


「それでは模擬戦と行きましょう」


 メイベルはそう宣言。


「ルールは?」


「このグランドに引かれた白い線の外に出たら負け。他は降参したら終わり。これでどうです?」


「問題ない。やろうか」


 メイベルが言い、アレックスが頷く。


 グラウンドには大勢の見物人が集まっており、吸血鬼も、人狼も、初めて見る人間がどのように戦うかに興味津々だ。


「アレックス! 頑張ってー!」


 エレオノーラたちも集まり、アレックスに声援を飛ばす。


「それではいざ尋常に──」


「──勝負」


 そして、模擬戦が始まった。


「行け、我が軍勢!」


 メイベルは吸血鬼というだけあって迷いなく黒魔術を使ってきた。下級悪魔の使い魔(ファミリア)を使った攻撃だ。


 その数は膨大で、意志を持ち、自律行動する武器として機能している。


「流石は戦闘に重きを置いたカリキュラムをしているだけはある。だが!」


 アレックスはそれを迎え撃つ魔力の刃を形成。精神魔剣としたそれをイージス艦がミサイルを迎撃するような正確さで放ち、下級悪魔を撃破していく。


「思った以上にやりますね!」


「そちらもね」


 下級悪魔の軍勢が次々に展開されてはアレックスに押し寄せ、アレックスはそれを迎撃するのにかかりきりになっているかのように見えた。


 ここでアレックスがバビロンを召喚すれば、あっという間に勝てるだろう。しかし、どこに帝国の目があるか分からない以上、ここで黒魔術を使うわけにはいかない。


 いわゆる縛りプレイ状態だが、アレックスは通常の魔術のみで戦う。


「さて、守るのにも飽きてきたな。反撃をいかせてもらおう」


 アレックスは一度召喚された全ての下級悪魔を撃破すると、メイベルの前方に魔法陣を浮かべさせた。


「しまっ──」


 いきなり魔法陣が眼前に現れたメイベルが防御魔術を展開させようとするが遅い。魔法陣の中で圧縮され得た膨大な魔力が爆発し、その圧力が解き放たれてメイベルが吹き飛ばされた。


「勝負ありだ、メイベル嬢」


「流石はお強いですね」


 メイベルは何とか防御魔術を展開したものの、既にグラウンドに引かれた白い線からはたたき出されてしまっていた。


「あなたもなかなか強かったよ。戦闘の基本を守っているしね。手数をとにかく増やせ。基礎的な戦術が分かっていれば、数が多い方が基本的に勝利する、と」


 下級悪魔の軍勢は非常に効果的な戦術だ。いわゆる物量で押し切る人海戦術が展開可能であり、相手の対応を飽和させることができる。


 いくら相手が優れた魔術師であろうと対処できる数には限度がある。それを僅かにでも上回れば、下級悪魔の1体、2体であろうと敵に重傷を負わせるばかりか、殺害することも可能になるのだ。


「ええ。手数を増やして戦えと叩き込まれています」


「しかしながら、手数を増やした物量戦というのはシンプルすぎるが故に、あらゆる可能性を秘めた魔術の前にはいささか弱いのだよ。魔術とは常識を覆すものであり、戦術においてもそれは同様」


 メイベルにアレックスはそう告げたのだった。


……………………

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