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いよいよアルカード吸血鬼君主国へ!

……………………


 ──いよいよアルカード吸血鬼君主国へ!



「えー。まず留学の手続きが完了しました」


 そう述べるのはジョシュアで『アカデミー』の本部にて彼がそう語る。


「アルカード吸血鬼君主国のバートリ・エルジェーベト魔術学院が我々を受け入れます。留学後の身の回りの世話もアルカード吸血鬼君主国の方でしてくれるそうです。何せ、同国が受け入れる最初の留学生なので」


「私の方でも手配しておいた。外務省からは受け入れに問題はないと聞いている。問題なく渡航できるだろう」


 ジョシュアとカミラがそれぞれ報告。


「よろしい! これでアルカード吸血鬼君主国に向かい、それからバロール魔王国に向かうのだ! それによって我々は同盟者と手を結ぶのである!」


 それからアレックスが高らかと宣言した。


「本当に上手くいくんですか? というか内戦状態の国に行くんです?」


「虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ、アリス! 危険を冒さずして勝利はなーい!」


「うへえ」


 アリスは相変わらず後ろ向きであった。


「大丈夫だ、ハニー。君のことは私が守ろう」


「ああ。お願いしますね、メフィスト先生……」


 しかし、彼女にはメフィストフェレスがいるので行かざるを得ないのだ。


「やっぱりお土産とか持って行った方がいいのかな?」


「気にする必要がありませんよ、エレオノーラ嬢。我々にとってはあなた方が留学生として訪れることそのものが外交的勝利ですから。喜んで出迎えてもらえるでしょう」


 エレオノーラが首を傾げて悩むのにトランシルヴァニア候がそう答える。


「そうだよ、エレオノーラ。我々は人類と吸血鬼の友好を演出するわけだ。今は戦争ができないアルカード吸血鬼君主国によって人類国家との友好を演出することは必須。我々は下手な高級お菓子より役に立つ!」


 そう、まさにその通りなのだ。


 アルカード吸血鬼君主国はこれまで散々帝国を始めとする人類国家に敵対的だったにもかからわらず、同盟国のバロール魔王国の内戦の影響から外交方針を急転換した。


 人類国家との友好を謳い──密かに相手に国家に浸透する。それが方針になったことでどうあっても人類国家との友好を示さなければならない。


 アレックスたちの留学は降ってわいた幸運と言っていいだろう。


「というわけで、レッツゴーだ。アルカード吸血鬼君主国でアリバイを作ったら、即座にバロール魔王国に向かうぞ、諸君」


「わー!」


 かくしてアレックスたちはまずアルカード吸血鬼君主国を目指して帝国を出発する。


「馬車は準備させておいた。乗れ」


 馬車はカミラが準備させており、大きな客車を繋いだ三頭立ての馬車がアレックスたちを待っていた。馬車を引く馬は特別に育てられたもので、長い距離を通常より早く、そして休まずに進むことができる。


「帝都からアルカード吸血鬼君主国まではどの程度なのですか?」


「えっとですね。グレート・アイランズ王国チャネル領のすぐ東にあって、グレート・アイランズ王国までは帝都から馬車で3、4日です。遠いですよ」


 ジョシュアが尋ねるのにアリスが肩をすくめてそう答えた。


「まあ、この馬車で急げば2、3日に短縮できるだろう。そして、アリス、実家に寄っていくならいい機会だよ!」


「そうですね。せっかくグレート・アイランズ王国まで行くなら寄っていきたいですけど、私の実家は本島にありますから海を渡らないといけませんよ?」


「構わないさ! 親孝行しておきたまえ!」


「へいへい」


 というわけで、アレックスたちはまず帝国諸邦のひとつであるグレート・アイランズ王国に寄り、アリスの実家に立ち寄ることになった。


「さあ、行くぞ。グレート・アイランズ王国の本島に渡るならばチャネル領の港に寄らなければならんしな」


 カミラはそう言って馬車に乗り込む。


「出発だ!」


「おー!」


 アレックスたちは馬車に乗り込み、帝都を出た。


 帝都の外は広大な農地が広がっている。帝国を覇権国家たらしめているのは、その豊富な食料生産であり、その膨大な食料から得られる人口だ。


 帝国の農地はあちこちに広がっているが、中でも規模が大きいのが中部から南部に延びる穀倉地帯だ。長年、地道な開拓が進められ、膨大な農地が広がる肥沃な大地は帝国の生命線とも言えた。


 その穀倉地帯のひとつが南部のサウスフィールド王冠領であり、魔族たちが戦争を起こした理由もその豊かな穀倉地帯を奪うことだった。


「どこまでも畑が広がっているね」


「ここは帝国の食堂だ、エレオノーラ。帝国の全ての臣民の胎を満たすために実りを付ける。それゆえに膨大な規模となっているのだ」


 馬車で街道を進みながら、エレオノーラとアレックスは穀倉地帯を見つめる。


 ときおり、田畑の中に人間でも、あるいは農耕馬でもないものが見える。背丈が2メートルほどの人型の中にかだ。


「あれかゴーレムか?」


「その通り。農業に従事している魔術師が生み出しているものだよ、カミラ殿下。ジョシュア先生が詳しいのではないかな?」


 カミラがそれを見てそう尋ねるのにアレックスはジョシュアの方を向く。


「帝国ではゴーレムが農作業に用いられるのは珍しいことではありません。帝国は農業を政策上重要なものと位置づけており、農業の振興と効率化に、これまで力を尽くしてきましたから」


「それで魔術師を畑なんぞに?」


「魔術を学んで農業に従事するというのは、この国ではさほど不名誉なことではないのです、カミラ殿下。むしろ少なくない学生が農業について統合的に学び、魔術も使えるという農業技術者を目指すほどです」


「そいつらは満足しているのか?」


「しているのでしょう。農業技術者には平均的な地方官吏の数倍の給与が払われますし、まず失業することもない。それに、もし新しく一定の土地と開墾することに成功すれば一代貴族にも任命されるとかで」


「ほう。帝国は本当に農業が大事というわけか」


 カミラは広がる広大な農地を眺めてそう感想を述べる。


「人口はシンプルに経済・安全保障の両面で力になる。この帝国の広大な農地は帝国の力そのものだ。全く我らが祖国は本当に巨大な帝国じゃないか」


 アレックスもそう述べ、皆を乗せた馬車は街道を進んだ。


 さて、アリスの故郷であるグレート・アイランズ王国は大きな本島と呼ばれるものと、その周囲の諸島群、そして大陸にあるチャネル領という半島で構成される。


 チャネル領はアルカード吸血鬼君主国に隣接しており、絶えず戦渦に巻き込まれてきた歴史を有する。そもそも元はアルカード吸血鬼君主国の軍港があった場所を奪ったのが、グレート・アイランズ王国なのだ。


 グレート・アイランズ王国はイギリス的な安全保障の考え方をしていた。戦線は敵の港の背後に、というわけである。


「警察軍がいるね」


「国境警備部隊ですね。南部の国境はいろいろと物騒ですから」


 エレオノーラが警察軍の兵士を見つけ、アリスがそう説明。


「到着だ!」


 ついにアレックスたちはグレート・アイランズ王国チャネル領に到着した。


「ここからは船だね。船って1回しか乗ったことないから楽しみ!」


「楽しくないですよ。ぶっちゃけ、揺れるし、酔うし、危ないしで」


 エレオノーラが声を上げるのにアリスがうんざりしたように肩を落とす。


「私はここで待っていていいですか?」


「駄目だ、ジョシュア先生。隙を見て逃げるつもりだろう!」


「ここまで来て逃げませんよ」


 ジョシュアがさりげなく離脱しようとするのを制しながら、アレックスたちはグレート・アイランズ王国本島への渡航準備を行う。


 グレート・アイランズ王国はひとつの国家であるが、その国王はイオリス帝国皇帝という同君連合であり、その政治的地位もあくまでイオリス帝国内の一諸邦というものだ。


 よって同王国に入国するのに特別な手続きは必要ない。


「さて、海を渡ろう」


……………………

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