第7話
馬車が止まり、ウルフハルトはそそくさと降りた後、扉の前で手を出した。ウルフハルトにエスコートされるのは少し癪だが、顔に出す方がもっと嫌なので、心を無にしながらその手を取って降りた。
目の前には、白いお城が立っていた。ギラギラしているわけではないが、その白さが保たれている所をみるに、かなりこまめな管理がなされているのだろう。
ウルフハルトはそんな私を意に介さないで前を歩いていく。門前はかなり閑静で、何か争っている様子は特に見られなかった。
白の扉が開くと、中から壮年期の女性が1人やってきた。
「お待ちしておりました。リヴィア様もミレーヌ様も客間にいらっしゃいます。おや、そちらの貴婦人は?」
「クリスタ。フロレンツの知り合いだ。二人に紹介しに来た。」
「え、」
なぜ私の名前を知っているんだろう。馬車の中で自己紹介した記憶はないのに。
「まあ、すぐに伝えますわ」
女性は一瞬だけ少し呆れたような表情をした後、血相を変えて奥の部屋に消えた。ウルフハルトが来ることは分かっていても、他に人が来るなんて知らなかったらそうなるのも無理はない。ウルフハルトの気まぐれに振り回される彼女が不憫でならない。それに、事前に申告もないまま顔を合わせる妹様たちにも顔向けできない。
5分ほどして、女性がパタパタと音を立ててこちらに向かって走ってきた。
「大変お待たせいたしました。こちらに」
女性がそう言い終わらないうちにウルフハルトはつかつかと中に入る。貴族の癖に余裕のない不躾な態度が目に付く。貴族身分を奪われたフロレンツ様よりよほど品が無い振舞いだった。
「久しいな、リヴィア、ミレーヌ。」
そこには、シャンパンゴールドのドレスに身を包んだ女性とラベンダーのドレスに身を包んだ女性がいた。2人ともフロレンツ様の面影をどこか残しているような、端正で気品ある顔立ちをしていた。フロレンツ様の妹君なのだから私よりも年下のはずだけど、シャンパンゴールドのドレスを召している方の妹様は、私より背が高いように見える。反対にラベンダーのドレスを召している方の妹様は、まだあどけなさが顔立ちに現れていた。
「金のドレス着てる方がリヴィア、紫の方がミレーヌ。」
ウルフハルトは私にそう言ってから2人に向き直った。
「こいつはクリスタ、どうやら俺が2人をちゃんと保護してるのか確認したいらしい」
ウルフハルトの言葉に、2人とも目を見開いて困惑していた。
「何も全部言うことないじゃないですか!あ、あの、私はクリスタで、フロレンツ様の同級生です。えっと、ウルフハルト様がさきほどおっしゃっていたことは、間違いではないです」
リヴィア様は少し小首をかしげてから
「私もミレーヌも、ウルフハルト様には感謝してもしきれないわ。ウルフハルト様がいなければ、私たちもきっと、」
そこまで言って、言葉を詰まらせてしまった。ウルフハルトへの疑念でここに来てしまったけれど、妹様たちにこんな顔をさせたくて来たわけじゃない。
「ああ、そうだ!このお城の調度品、素敵ですよね。過度に主張しないのに、その存在感は消せないくらい鮮やかで、」
「このお城のものは、全てウルフハルト様が用意なさっていますわ。」
リヴィア様の言葉に、私の心はバラバラになりそうになった。ウルフハルトの方を見ると、何も言葉を発してないままニヤニヤしていた。
ウルフハルトから視線を逸らすと、今度はミレーヌ様がこちらを見ていた。
「お姉さんはウルフハルト様の奥さんなの?」
「なっ、そんなわけありません!!そもそも今日初めて会話しましたし!」
「ふうん」とミレーヌ様は口を尖らせた。あらぬ誤解が広まっては困る。