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第3話

この世界に「イザベラ」というヒロインが既に存在している以上、私は私で乙女ゲームのストーリーに流されることなく自分の意志で生きなくてはいけない。だからこそ、フロレンツのこともまずは自分で調べることにした。とは言っても、普通の令嬢である私の耳にフロレンツの居場所という情報が入り込んでくるわけはないので、今出来ることと言えばせいぜい授業前のわずかな時間に、他の人の会話に聞き耳を立てるくらいである。


「マルセル様、今日もかっこいい」

「ヘンリー様も素敵よ」

「でもやっぱり、」

やっぱり、フロレンツだろう。私もそう思う、と心の中で首を縦に振っていると、

「ウルフハルト様よね」

そう言って恍惚の表情を浮かべる彼女らを見て、他人ながら「見る目がないなあ」とため息をつく。誰にでも(表向きは)笑顔のマルセルや、大事なイザベラと二人きりでいられる薔薇園に、邪魔者の私がいても嫌がるそぶりを見せなかったヘンリーの方が、よっぽど素敵な方だ。あんな感情丸出しのウルフハルトなんかよりも。


ウルフハルトの睨んだ顔つきを思い出してイライラしていると、「クリスタ、」と声がした。その声の主は隣に座っている数少ない友人のハンナだ。

「そういえば、今度の休みにあるお祭り、クリスタは行くの?」

「お祭り?」


ハンナの言うお祭りとは、恐らく市場で開催されるお祭りのことだろう。ゲームではヒロインと攻略対象がプレゼントをそこで買って送りあっていた。そして、ハンナの話によると、そのイベントは遠くから楽器を演奏する人たちを呼んで、開催を音楽で祝ってもらうというらしい。


音楽に精通しているフロレンツなら、きっとそこに来るはずだ。学校で彼の姿がない以上、大っぴらに来ることはないだろうからよく目を凝らして探さないとな、と考えていた。

「せっかくだし、行こうかなあ。ハンナはその日婚約相手に会うんだよね?」

「もう、気が早いよ」

ハンナはそう言って頬を赤く染めた。


お祭りが行われているとされる会場に近づくと、休日なのもあってか辺りは幸せな空気で満ち溢れていた。子どもに何かを買い与える親や、男性が跪いて女性に花をプレゼントしている光景を見ると、少しその幸せが羨ましく感じる。

人ごみをかき分けてさらに進んでいくと、男性がぼんやりと立ち止まっているのが見えた。フロレンツかもしれない、そんな勝手な期待を込めて少し歩く足を速める。


そこにいたのはウルフハルトだった。

粗暴で子どもっぽいウルフハルトが、と不思議に思ったが、きっとマルセルやヘンリー、イザベラも一緒に違いないと思った。でも私が見渡す限りそこには3人ともおらず、ただウルフハルトがそこに1人で立っているだけだった。

とは言っても、まあ彼にも何か事情があるんだろう、と大して気にも留めなかった。今の私はフロレンツのことの方が大事だからだ。


頭が痛くなるほど視線をぐるぐると回しながらそこら中を探し回っているものの、なかなか姿が見当たらない。「ここにもいないのかな」と肩を落としながら歩いていると、雑踏の間から見覚えのある髪型が見えた。もしかしたら、とその姿を追いかけると、それは会場から離れる方に向かっていった。


祭りの会場からかなり離れていることに気づくと、もう人ごみはなくなっていって、しんと静まり返る様な市場がそこには広がっていた。そこで私は、はっきりとその後ろ姿をとらえると、やはりフロレンツなんじゃないかという気持ちが高まっていった。髪の色も頭身もほぼ見たことある彼と重なっていた。


彼はパン屋さんの中に入っていく。何か買うのかと思って、私もパン屋さんに足を踏み入れると、そこにいたのはパンを齧っている彼の姿だった。




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