Afterストーリー デートの取り付け
「あの、師匠。次の休みの日なんですが――」
「ん?」
ある日の放課後。
退屈な座学を終え、いつもの如くダンジョン探索に出かけていたルクスは、隣を歩く銀髪の美少女――ロゼッタ・シトラスから声をかけられた。
数々の高位魔法を操り、強靭な魔物を討伐することができるルクスだったが、その日探索に出かけていたのは低級のダンジョンだ。
最近はルクスの家を訪れる来訪者……というよりも居候が増えており、部屋に備えた紅茶の茶葉が尋常ではないスピードで減っていくのだ。
今日の探索はこの低級ダンジョンでしかとれない、ルクスお気に入りの茶葉を調達することが目的だった。
「よっ――と。それで、次の休みの日が何だっけ?」
「さりげなく魔物を倒しながら聞き返すとはさすがですね、師匠……」
現れた魔物にノールックで魔法を撃ち込むルクスを見ながら、ロゼッタは小さく溜息をつく。
相変わらず緊張感なく魔物を倒す人だなと、これでは緊張している自分がちっぽけに見えてしまうではないかと、そんな心情が含まれた溜息だった。
「その……、今度のお休みの日、一緒に王都に行くのはどうかな、なんて……」
「王都に? ああ、前にロゼッタが話してた魔道具屋を案内してくれるっていう?」
「そ、そうです。それです」
声が上ずった同行者の反応に疑問符を浮かべつつ、ルクスは以前ロゼッタが話していた内容を思い出す。
(確か前にロゼッタが身に着けていた帽子やコートを買ったお店か。面白そうな効果を持つ代物だったし、俺も魔道具って前から気になってたんだよな)
三度の飯よりダンジョン探索が好きなルクスだったが、他のことに興味がないわけではない。
そもそも未知のものに遭遇する体験が好きなのであり、そんなルクスが様々な効果を発揮する魔道具という代物に興味を持つのは自然なことだろう。
「いいね。面白いものが見つかるかもしれないし、案内してくれると嬉しいな」
「本当ですか! じ、じゃあぜひ行きましょう!」
返事を受けて、ロゼッタはルクスから見えないように拳を握る。
理由は当然、デートの約束を取り付けることができたという喜びからである。
「そうだ。それならコランやシエスタとかも誘って――」
「あ、あー。残念ですねぇ。実はコランさんやシエスタさんにも聞いてみたんですが、次の休日は予定が入っているらしく」
「む、そっか。それは仕方ないな」
「はい。仕方ないですね。二人で行きましょう」
頭脳明晰なロゼッタのこと。
もちろんその辺りのイレギュラーも想定済みである。
ルクスのクラスメイトであるコランやシエスタと親交を深めたいという思いはあるが、それはそれ、これはこれだ。
事前に二人の予定が入っていることを確認しつつ「次の休みの日」と指定し、ルクスと二人で王都に出かけられるよう画策していたのである。
(コランさんとシエスタさんには申し訳ないですが、みんなで行くのはまたの機会でもできますからね。とりあえず作戦成功です)
ロゼッタはほっと安堵の表情を浮かべつつ、胸を撫で下ろしていた。
***
「おおー、賑わってるな」
「ですね。この活気は王都ならではといったところでしょうか」
ロゼッタがルクスとの約束を取り付けた次の休日。
二人はリベルタ学園近くの街を出発し、ここ王都ベルハイムにやって来ていた。
馬車で二時間ほどと、それなりに窮屈な時間を過ごすことになったのだが、ルクスと隣り合わせで座れるというのはロゼッタとしては悪くない時間だった。
時折馬車が揺れて肩が触れ合う、なんていうご褒美ももらえたたこともあり、もうちょっと馬車に乗っていても、なんて思っていたくらいである。
「師匠は王都に来たことはあるんでしたっけ?」
「ん? 小さい時にいたことがあるくらいだな。といっても、あんまし記憶に残ってないけど」
「へぇ、そうなんですね」
「お、あそこに美味そうな肉が」
そういえばルクスの小さい頃の話は聞いたことがないなと、ロゼッタはその話を掘り下げようとしたが、ルクスが露店を見つけたことで打ち切りになってしまった。
「ほら、ロゼッタも腹減っただろ。一緒に食おうぜ」
「あ、私の分も買ってきてくれたんですね。今お金を」
「いいっていいって。今日は案内してもらうんだし。このくらいはさせてくれよ」
「あ、ありがとうございます」
「その分、今日は目一杯楽しもうぜ」
ロゼッタが串肉を受け取ると、ルクスは二カッと無邪気に笑う。
少年らしさ全開の笑顔を受けて、ロゼッタはやや俯き気味になった。
ああもう、と。
こんなことで今日一日持つだろうか、と。
ロゼッタは赤面しているであろう顔を見られたくなくて、俯いたまま串肉にかぷりと口を付けていた。
一方その頃――。
「ちょっとノーム。そんなところで満足そうにヒゲを擦ってないでもっと近づきなさいよ」
「いやいや、最近は姿を消していてもルクスに気配を察知されるようになってきたからのぅ。興味津々なのは分かるが、がっつきすぎると見つかるぞ、ウンディーネよ」
「が、がっついてなんかないわよ。ただちょっと、あの二人がどこに行くのか興味があるってだけで……」
「でも、今日ついていこうと言い出したのはウンディーネですよ」
「そ、そういうルーナだって乗り気だったじゃない」
「……私は人間の活動に興味があるだけです」
そんなやり取りを交わし二人を尾行する精霊たちがいたが、姿を消していたため誰にも気づかれることはなかった。
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▼タイトル
元社畜の転生おっさん、異世界でラスボスを撃破したので念願の異世界観光へ出かけます
~自由気ままなスローライフのはずが、世界を救ってくれた勇者だと正体バレして英雄扱いされてる模様~
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