第76話 【SIDE:???】本当の報告
「――というわけです」
「うむ。報告ご苦労、オリオール君」
ユグドラシル襲撃事件の翌日――。
オリオールがリベルタ学園の「ある一室」を訪れていた。
本やら書類やらがごちゃごちゃと山積みになっている執務机の向こう。
そこに座っていたのは金髪の少女だった。
少女は見た目こそ幼いものの、それとは裏腹に理知的な雰囲気を纏っている。
そもそも、オリオールが目上の者に対しての態度を取っている時点で違和感があるのだが。
(なんか、やっぱりこの人と話すの苦手だな……。掴めないっていうか、何というか……)
少女が机の上にある資料を次々と漁るのを見ながら、オリオールは報告を昨日の出来事を思い返す。
昨日――。
ルクスがユグドラシルを撃退した後のこと。
シーベルトと共に異変が解消されたドライアドも姿を現し、オリオールはそれまでの事の経緯について諸々の説明を受けることになった。
精霊たちとの邂逅も然り、ルクスたちの説明はオリオールを驚かせるものばかりだった。
そして、そのあまりの情報量にオリオールは頭を抱えることになる。
結果として、全ての事情を即座に公表する判断は下すことができず、後から駆けつけてきた教師陣にも要所を伏せて状況の説明を行うことになった。
幸いとも言うべきか、ルクスがユグドラシルを撃退したという事実も今のところは伏せられている。
今またオリオールは昨日の一件を報告し終えたばかりなのだが、執務机の向こうにいる金髪の少女は書類漁りも一段落したのか、小さく溜息をついていた。
「すまなかったな。私が不在だったばかりに迷惑をかけたようだ」
「いえ……」
「しかし、そこまで巨大な魔物が現れるとはな。よく学園の生徒たちの被害が出る前に抑えてくれたものだ」
オリオールは少女の凛とした声を受けて恭しく腰を折る。
これで終わってくれれば良いのにと思っていたオリオールだったが、生憎そうはならなかった。
「さてと。それじゃ、本当の報告を聞こうか」
少女は両手で頬杖をついた後、オリオールに不敵な笑みを向ける。
オリオールは半ば諦めつつも、とぼけた調子で返すことにした。
「……本当の、とは?」
「言葉通りの意味だ。隠しても無駄だよ」
「……」
「元魔法師団の団長さん――」
少女がニンマリと笑いかけたのに対し、オリオールはボサボサの頭を掻きながら嘆息する。
「はぁ……。その肩書きで呼ばんでくれといったでしょう、学園長」
「君がこの私に嘘をつくからだよ。君が元の経歴を伏せた上でこの学園の教師に就けるよう手配したのは、一体誰だったかな?」
「分かりました。分かりましたって」
「んむ、よろしい」
オリオールが今度こそ観念して、学園長と呼ばれた金髪の少女は悪戯が成功した子供のように笑う。
「ルクスの奴も言っていました。他の先生たちはごまかせても学園長には通じないだろうって。あと、学園長には今回の一件がバレても構わないという感じでしたが」
「「そうだろうそうだろう。ルー坊も私が悪いようにしないってことは分かっているだろうしな」」
オリオールの言葉を受けて、金髪の少女が今度は見た目相応の得意げな笑みを浮かべて頷く。
「……学園長とルクスはどういうご関係性なんで? そういえばルクスの宿舎があの変な大樹になっているのも、学園長が手配したものなんですよね?」
「んむ、私とルー坊の関係性か……。それを説明しても良いんだが、長くなるからな」
「……また今度にしときますわ」
本当に長くなりそうだったので、オリオールは自身の興味を伏せて話題を元に戻そうとした。
「それで? 本当はルー坊なんだろう? ユグドラシルを倒したのは」
「……察しがついていたなら始めから言ってくださいよ」
何だか昨日から溜息をつきっぱなしだなと自覚しながら、オリオールは今回の一件について話すことにする。
「ふむふむ、なるほどなるほど。さすがはルー坊だ」
オリオールが本当の報告を行い、終始金髪の少女はご機嫌な様子だった。
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本作は次回が第1部の最終話となります。
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