第75話 戦いの後で
「いやぁ、地面が脆くなってたみたいですね。ラッキーラッキー」
「……なあルクスよ。それを信じるほど俺は愚かに見えるのか? だとしたらけっこうショックだぞ」
土の精霊魔法によりユグドラシルを撃破した後のこと。
とぼけてみせたルクスに対し、オリオールはボサボサの髪を搔きながら深く嘆息する。
「まあそうですよね……」
「師匠、もう観念した方が良いですよ。オリオール先生の前で見せちゃったんですから。師匠の実力」
「いやぁ。一応、な」
「無理がありますって」
ロゼッタは澄まし顔だったが、内心では「ついに師匠が自分の実力を明かした! これで師匠と一緒のクラスになれるかも!」という私欲が大半を占めていた。
「はいはい、全部分かりましたよっと。俺はずっと煙に巻かれてたってわけね」
「はは……」
「というよりお前、使えるの《火球の礫》だけって書いてたろ。ダンジョン攻略授業の時」
「ああ、あれは嘘ですね」
「だよなぁ?」
今までの諸々に合点がいき、しかしなおオリオールの表情は晴れない。
ルクスの戦闘を目の当たりにするまで気づけなかったことへの不甲斐なさからか、今度は自嘲気味に溜息をついた。
「ったく。お前いい性格してるのな」
「それで、そのぅ……。オリオール先生に折り入ってご相談が」
「どうせ今回の件を内密にしてくれとか言い出すんだろ?」
「そうです! 察しが良くて助かります!」
「察しが良くないからお前のこと見抜けなかったんだよなぁ」
つまりルクスはFクラスにいるような生徒ではないということだ。
そう解釈したオリオールだったが、何故ルクスがFクラスに留まろうとしているかについては謎だった。
「ルクスよ。お前、何でそんなに実力を隠したがる? いや、これまでのことからしてクラスの昇格とかに興味が無いのは分かるんだが」
「師匠はダンジョン大好きなお方ですから」
「ロゼッタさん、どゆこと?」
解せないといった様子のオリオールに対し、ロゼッタは掻い摘んで説明していく。
呆れられるだろうか、いやむしろ「そんな理由が通るか今回のことも他の先生たちに伝えるからな」と言われるのではないかと身構えていたルクスだったが、オリオールから返ってきたのは予想外の言葉だった。
「ああ。分かるよ、うん。ダンジョン探索すんの楽しいもんなぁ」
「へ?」
「なるほどなぁ。まあ確かにクラス昇級すると時間は確かに取られるからな。気持ちは分からんでもない」
「おお……! オリオール先生、やっぱり話が分か――」
「しかしこれとそれとは別だ」
「おおぅ……」
がくりとうなだれるルクスにロゼッタが寄り添うが、「やっぱりもう諦めるしかないですよ。これで師匠も私と同じAクラス入りですね」と追い打ちをかける。
「そこを何とかしてもらえんかのぅ。ルクスのことを公表するとなると、儂らも色々と不便じゃし」
「ノームの言う通りね。私も色んなところから根掘り葉掘り聞かれたりするのはゴメンだわ」
「それに、功労者への褒美はつきものじゃろう? 人間の先生よ」
「は……?」
いつの間にかオリオールの前にノームとウンディーネが姿を現していた。
「あー、ノームのじっちゃん。姿見せて良いの?」
「ほっほ。いずれにせよこれまでの経緯を話すことになれば、このオリオールという者には伝えることになるじゃろ?」
「まあ、それもそうか」
突然のことにオリオールは狼狽し、そして現れた精霊たちを交互に見やる。
「え? ノームって土の精霊ノーム? あとこっちのは水の精霊ウンディーネか?」
「そういう反応になりますよね。お気持ちお察しします、オリオール先生」
「なんかさっきもこういう光景見たなぁ」
オリオールが事情を飲み込めずにいたところ、そこへ新たな人物が姿を現した。
「――ルクス君」
姿を現したのはシーベルトである。
「会長!? いつからそこに?」
「アイリスフロームの花を取りに行く時に使っていた、姿消しの魔導具の効果がちょうど切れたみたいだ。オリオール先生に事情を明かしたのも途中から聞いていたよ」
「ああ、なるほど……。それで、アイリスフロームは?」
「うん。無事見つけられた。この通りさ」
シーベルトが言って、そこに姿を現したのは木の精霊ドライアドだった。
体を侵食していた黒い影のようなものは消え去り、それでシーベルトの方も首尾よくいったのだとルクスたちは察する。
「皆さん。本当に、本当にありがとうございました。無事こうして、元通りになりました」
「ルクス君。僕からも礼を言うよ。凄まじい強敵だったみたいだけど、上手くやってくれたんだね」
「いえ、そんな……」
「まったく。こんな大規模な広範囲魔法まで使えるなんて、本当に君には驚かされるよ」
シーベルトはユグドラシルが落下した大穴を見ながら感嘆した様子で呟いた。
遅れてやって来たルーナも合流し、元気な姿を見せたドライアドに皆が歓喜する。
そして――。
「なあ。混乱しそうなんだが、そろそろ説明してもらっていいか?」
完全に取り残されていたオリオールがそのような言葉を発したのだった。
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