第73話 逆転の戦略
「ロゼッタ、大丈夫か?」
「はい。なんとか……」
ルクスとロゼッタが強力な連携攻撃を食らわせてもなお、ユグドラシルは健在だった。
巨体である故か素早く攻撃を仕掛けてこないのは救いだが、やはりかつてない強敵であるとルクスは認識させられる。
「大いなる祝福よ。水の精霊の名の下において、二人を癒やしたまえ――」
ウンディーネが二人の傍に寄り、両手を合わせる。
すると、先程の土の礫に撃たれたことでできたルクスとロゼッタの傷が回復していった。
「おお、これは?」
「私が使える回復魔法。これで多少は楽になるはずよ」
「それは助かる。サンキューな、ウンディーネ」
「でも、過信は禁物よ。深手を負ったら回復しきれるか分からないわ」
「分かった」
ロゼッタと共に一旦距離を取って戦略を練るルクス。
一方でユグドラシルは低い唸り声を上げ、巨大な前足で地面を掻いていた。
「あれだけの連撃を浴びせたのに大して効いちゃいないか……。ほんと、今まで戦ってきた魔物とは比較にならない耐久能力だな」
「これは持久戦ですかね……」
「だな。何か有効な攻撃手段があればいいんだが。こんなことなら《サラマンドラの溶岩窟》をもっと深くまで攻略しとくんだったかな」
「――ルクスよ」
と、次の攻撃手段を決めかねていたルクスに声がかけられる。
ノームだった。
「あやつの装甲、確かに分厚いようじゃ。しかし、お主なら倒す方法を持っておる」
「え?」
「思い出せルクス。お主が儂の住処――第200階層で習得した魔法のことを」
「ああ……」
八大精霊ダンジョン《ノームの洞窟》、第200階層。
ノームと初めて出会った際、ルクスはある魔法を習得していた。
精霊魔法――。
使用者が精霊の力を行使することで様々な現象を引き起こす魔法だったかと、ルクスは思い当たる。
「確か、ダンジョンの階層一つをまるごと埋めるほどの威力を持つ魔法……」
「そうじゃ。しかし今この場所で使用したとてあやつを仕留めきれるかは分からん。そこで、儂に一つ考えがある」
前進してくるユグドラシルを警戒しつつ、ノームはルクスとロゼッタにその方法を告げた。
「ほ、本当にそんなことができるんですか……?」
「うむ。幸いにも儂の住処である洞窟まで近くじゃしの」
「となると、まずはあのデカブツをノームのじっちゃんの洞窟近くまで引き付ければいいんだな」
ノームの策を聞いた後で、ルクスはパシンッと手を叩く。
そしてロゼッタと互いに頷き合い、ユグドラシルとは反対の方向――《ノームの洞窟》を目指して駆けるのだった。





