第72話 連撃とその先に
「しかし、《業火の抱擁》でも決め手にはならないか。どうしたもんかな」
「でも、他の魔法よりは効いてそうですよ、師匠。繰り返していけばきっと勝機は見えるはずです」
「だな。まずは手数重視でいくか」
ようやく歩を止めたユグドラシルと対峙し、ルクスとロゼッタは次に取るべき行動を探っていた。
「ルクス、ロゼッタ。気をつけなさい。ここからはきっとあっちも狙って攻撃してくるわよ」
「言ってるそばからくるぞい!」
ノームが声を張り上げると同時、ユグドラシルはその巨体――正確には前足を大きく振り上げる。
影がルクスたちを飲み込むようにして迫り、襲いかかってきた。
「うわ……。でっか……」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないってば! 下がりなさいっ!」
圧倒的な質量を持ったユグドラシルの前足が振り下ろされる刹那、ルクスは風魔法、《シルフィード》を使用してその場を離れる。
その後遅れて前足が着地し、辺り一面が揺れた。
「うおっ……!」
それは局所的な地震のようであり、着地しようとしたルクスたちは足を取られそうになる。
何とかその場に留まったものの、ユグドラシルの追撃が二人を襲う。
「ロゼッタ! 上っ!」
「はい師匠!」
端的に言葉を交わし、地面を蹴るルクスとロゼッタ。
その直後、薙ぎ払われたユグドラシルの尾が通過し、地面を大きく削っていった。
「直撃したらひとたまりもなさそうですね」
「だな……」
守勢に回るのは得策ではない。
そう判断したルクスとロゼッタは、着地後すぐに行動を起こす。
――巨大な敵と戦う時、一撃での殲滅が難しければ部分的な破壊を試みよ。
――そして敵の戦力を削ぐことを考えるべし。
かつてルクスに言われたその教え通り、ロゼッタはユグドラシルの胴体ではなく足を狙った。
「《氷針の矢雨》――!」
――グゴァッ!
大量の氷針は前足を貫くまでには至らなかったが、ユグドラシルの動きを若干鈍らせることに成功する。
そしてその隙を逃すルクスではない。
「《炎の烈槍》――!」
今度はルクスの形成した炎の槍がユグドラシルの足に突き刺さる。
――グガァアアアアア!
先程よりも大きな咆哮を上げ、ユグドラシルは体勢を崩した。
好機――。
ルクスはすかさず手を掲げユグドラシルへと向ける。
「喰らえっ!」
選択したのは同じく《炎の烈槍》。
しかし今度は一本ではない。
ルクスが掲げた手を滑らせると上空に無数の炎槍が出現し、それらはユグドラシルへと落下した。
「師匠、さすがです!」
「どうだ……!?」
倒すまでとはいかずとも、多少のダメージは与えられたはず。
ルクスとロゼッタのその期待は次のユグドラシルの行動でかき消された。
――ゴガァアアアアアアアアッ!!
「二人とも、避けて!」
ユグドラシルは両前足を高々と振り上げると、その場に勢いよく叩きつける。
辺りを揺るがすほどの轟音――。
そしてそれだけではない。
巻き上がった土砂が礫となって二人に襲いかかってきた。
「くっ――!」
「きゃあ――!」
まともな直撃は避けたものの、ルクスとロゼッタは大きく後退させられる。
「やっぱり、一筋縄じゃいかないか……」
ルクスが流血した口を拭いながら見上げると、そこにはユグドラシルの鋭い眼光があった。





