第71話 紅蓮の攻防
「いくぞロゼッタ!」
「はい、師匠!」
ルクスとロゼッタは声を発すると同時、ユグドラシルに対してそれぞれの攻撃魔法を打ち込む。
ルクスは《魔弾の射手》による光弾を射出し、ロゼッタは得意とする氷属性の魔法、《氷針の矢雨》を。
ユグドラシルは依然として歩を止めておらず、まずはそれを立ち止まらせることを目的とした牽制に近い攻撃だった。
が――。
――オガァアアアアアア!!!
ユグドラシルに正しく着弾したはずの攻撃は、体表をわずかに削るばかりで有効打とは言い難い。
その証拠にユグドラシルは鬱陶しい虫を払うかのように体を震わせただけで、侵攻を止めようとしなかった。
「全然意に介していない様子ですね……」
「せめて止まってほしかったけどな。あれだけデカいと普通の攻撃は眼中にないってか?」
通常、魔物の脅威度というものは様々な要素を元に判断される。
繰り出してくる攻撃がいかなる破壊力を持つか、いかに多様な手段で撹乱してくるか。
またはどれだけの俊敏性を持ち、こちらの攻撃を回避することができるか等々。
要するに、何がその魔物を倒す上で障害になるのかという点。
ユグドラシルの場合はそれが明白だった。
――圧倒的な質量。
――そして、それに由来する耐久性。
これこそがユグドラシルの強みであり、ルクスたちにとっては乗り越えなくてはならない「壁」だった。
「二人とも一旦離れなさい! あんなデカブツの前にいたら踏み潰されちゃうわよ!」
ウンディーネの声でルクスとロゼッタはユグドラシルとの距離を取る。
ユグドラシルは二人に攻撃を仕掛けてくることはなく、ただ前進するだけだったが、着実に学園の校舎がある方角へと進んでいた。
「まずはアイツの足を止めないとな。じゃないと学園のみんなが危険だ」
「ですね……」
ルクスとロゼッタは言葉を交わしつつ、改めてどのような魔法を繰り出すべきか思案する。
圧倒的な耐久性を持つユグドラシルだが、光明もあった。
ユグドラシルは多くの竜種族が持ち合わせている飛行能力を有していないのだ。
これで俊敏に飛び回る能力があったら手はつけられなかっただろう。
「ルクスよ。イビルローズの時と同じように火属性の魔法で攻めてみたらどうじゃ?」
「ノームさんの言う通りですね。あれだけの巨体といえど、ドライアドさんが召喚した以上、植物系の魔物であることに変わりないはずですし」
「気にせずやっちゃいなさい、ルクス。もし周りに燃え広がるようなことがあっても水の精霊の私が鎮火してあげるわ」
「よし、それでいってみよう。なんとしてもあのデカブツの注意をこっちに向けてやる」
ルクスは言って、再びユグドラシルの前へと立ちはだかる。
右手を掲げ、前へ。
そして、イビルローズを殲滅した時と同じ火炎魔法をユグドラシルへと放った。
「《業火の抱擁》――!」
途端、渦巻く炎の柱が湧き起こる。
それはユグドラシルの巨体全てを飲み込むことはできなかったが、体表を覆う樹々に着火し、燃え広がっていった。
――グルァアアアアアアアッ!
「どうだっ――!?」
突如として発生した炎にもがくユグドラシル。
しかし、その攻撃もユグドラシルにとって致命とはなり得なかった。
――ガァアアアアアッ!
ユグドラシルが自身の尾で背を薙ぎ払うと、ルクスが放った炎は一瞬にして消え去ったのだ。
ゆっくりと首をもたげ、大樹の竜は頭を振る。
――フシュルルルル。
そこで初めて、ユグドラシルは目の前に立つ少年を見下ろした。
「これでも駄目か……。だけど――」
ルクスは悪態をつきながらも、ユグドラシルに対して不敵な表情を向ける。
一つの目的は達したと、そういう笑みだった。
「やっとこっちを見たな、デカブツめ。そう簡単にここから先へ行けると思うなよ――」





