第69話 大樹竜ユグドラシル
「……ルクス君、一つ頼みがある」
「会長?」
ドライアドから魔力の奔流が起こった後でのこと。
シーベルトは神妙な面持ちをルクスに向けた。
「今のは地上に何かが現れた音だろう。恐らく、先程の魔力の暴走によって喚び出された魔物だと思うが」
「俺もそう思います。それに、《白水晶の遺跡》に発生したイビルローズよりも更に強大かなと」
「そうだね。そして、そんな魔物が地上で暴れれば大きな被害が出る」
「……なるほど。俺にその魔物を討て、ということですね」
シーベルトの意図を察し、ルクスは頷く。
地上にはリベルタ学園――そこに通う生徒たちがいる。
だから被害を未然に食い止めてほしいと、シーベルトの目はそう言っていた。
ルクスも元より、そのつもりだった。
「すまないが頼まれてくれるか。僕は下層に降りて、一刻も早くアイリスフロームを見つけてくる」
「分かりました。ドライアドを助けてあげないとですからね。ダンジョンに潜るなら姿を消せる魔導具を持った会長が適任でしょう。こっちの方は任せてください」
「私も師匠と一緒に行きます。学園のみんなを巻き込むわけにはいけませんしね」
ルクスとロゼッタ、シーベルトは互いに頷き合う。
それに続いて精霊たちもまた、互いの役割を果たすべく言葉を交わした。
「《ジンの風穴洞》の構造であれば理解しています。私は会長さんに同行しましょう」
「私はルクスとロゼッタについていくわ! 最近住処に戻ってないから本調子じゃないけど、今はそんなこと言っていられないしね!」
「……儂も行こう。場合によってはアレを使うことがあるかもしれんからの」
そのようなやり取りを交わし、ドライアドを連れたシーベルトとルーナはダンジョンの下層へと、ルクスとロゼッタ、そしてウンディーネとノームが地上へと向かうことになった。
***
「これは……。魔物が移動した跡か?」
地上に出たルクスがまず目にしたものは、大きく削られた地面だった。
まるで何かが這ったように、それはルクスの視線の先――学園の校舎の方へと続いている。
「相当な大きさですね、師匠」
「ああ。向かった先もヤバそうだしな。モタモタしてる暇はなさそうだ」
幸いにも《ジンの風穴洞》は学園の校舎からは離れた場所にある。
が、それで楽観視できないほど魔物が残した痕跡は巨大だった。
「ふむ……。この大きさ、もしや……」
「たぶん私と同じこと考えてるわね、ノーム。きっと当たりだわ」
「当たっていてほしくはないがのぅ」
「思いっきり同感」
走るルクスとロゼッタの後を追いながら、ノームとウンディーネは険しい顔を浮かべる。
その会話からロクでもない魔物と対峙することになりそうだと、ルクスは警戒心を強めた。
そして、魔物の這った跡を進むこと少しして――。
「見えたっ!」
ルクスたちはその魔物の姿を捉える。
――はじめ、ルクスとロゼッタはそれのことを、歩行する巨大な樹木だと思った。
そして接近するにつれ、その魔物の正体が明らかになる。
「あれは……。植物の、竜……?」
ルクスが見たままの印象を言葉にする。
体表の大部分を木々に覆われていたものの、その出で立ちは竜そのものだ。
長い尾が地面を削り、四足が地に着く度に辺りの景色が揺れる。
およそ魔物と表現していいかすらも不明で、その竜は見る者をすくませる圧を放ちながら進んでいた。
竜とはいえ、ルクスが以前ダンジョンの下層で出くわしたブラックドラゴンとは比較にならない大きさである。
「当たり……ね」
「そのようじゃ」
地を這う魔物を遠目に見ながら、ウンディーネとノームが短く言葉を交わす。
二人の顔には焦燥が浮かんでおり、前を行く魔物が脅威であることが窺えた。
「ノームのじっちゃん。あの魔物、知ってるのか?」
「うむ……」
一度足を止めて問いかけたルクスに、ノームは首肯する。
「以前、魔界の話をしたのは覚えておるな?」
「ああ。俺たちがいる世界の地下にある、でかい空間のことだよな? 確か黒の瘴気が満ちているっていう。前に戦ったイビルローズもそこの魔物だったとか」
「そうじゃ。そして、あれも魔界の魔物なんじゃ」
「魔界の魔物か……。そうなるとイビルローズみたいに手強そうだな」
「いや……」
ノームは静かに否定する。
そして、語りたくない事実を伝えることにした。
「残念ながら、イビルローズなどとは比較にならん。あの竜はイビルローズを捕食する立場じゃからの」
ノームの言葉にルクスもロゼッタも揃って目を見開く。
「捕、食……。あのイビルローズをですか……?」
思わず声を漏らすロゼッタだったが、それも無理はない。
あの時は人質がいたとはいえ、ルクスとロゼッタが二人がかりで苦戦した魔物。それがイビルローズなのだ。
そのイビルローズを遥かに凌駕する存在であると、ノームは言う。
「大樹竜ユグドラシル――。それがあやつの名じゃ。恐らく、今のこの世界にアレを超える存在はいまい」
ゆったりと、しかし確実に歩を進める魔物に目を向け、ノームは静かに告げた。
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