第67話 道筋
「さて。ひとまず状況が整理できて何よりじゃの」
「そうね。ドライアドともこうして会えたことだしね」
《ジンの風穴洞》、その第2階層にある魔力の湧泉にて。
シーベルトとドライアドの話から情報を共有した一行は、これから何をすべきかという点について議論を始めていた。
「しかし、ドライアドをこのままにしておくのは危険でしょうね。もしまた魔力が暴走すれば、大変なことになるでしょう」
ルーナが言った言葉に全員が頷く。
ドライアドの体に起きている異変と魔力の暴走。
これが発現すれば、意図せずして害となる植物が召喚されてしまいかねない状況なのだ。
魔力の湧泉に浸かることでドライアドの体はいくばくか癒やされているものの、根本的に解決させることはできていない。
また《白水晶の遺跡》の時のような事件を起こさないためにも、ドライアドの治療は必須といえた。
「まあでも、やることははっきりしたな。アイリスフロームって花を見つけてドライアドの体に起きている異変を治す。それで一件落着ってわけだ」
「そうですね師匠。でも、アイリスフロームがどこにあるかが分からないことには……」
ロゼッタが上げた懸念点に、ルクスが「それなんだよなぁ」と呟く。
ドライアドによればアイリスフロームは極めて希少性の高い花であるらしい。
数々のダンジョンを探索しているルクスですらも見たことがない花であり、それは精霊たちも同じだった。
「ふむ。虹色に光る花か……。そのように珍しい花を見たことがあれば記憶しているはずじゃがのぅ」
「生徒会のトップ二人がいるんだし、学園の生徒たちにも聞いてみるのはどうかしら? さすがに背景を全部説明するとパニックになりそうだし、事情は伏せながらになるでしょうけど」
「ウンディーネの言う通り、それも一つの案だと思います。とはいえ、ルクスが知らないのでは期待薄かと思いますが」
「あ、そうだ! 他の精霊たちにも協力を仰ぐのはどう? 私たちが知らなくても見たことあるかもしれないでしょ?」
「時間がある状況であればそうしたいところじゃが……」
「そうですね。いつまた魔力の暴走が起こるか分かりませんし」
ドライアドに生じている異変は予断を許さない状況だ。
だから一刻も早くアイリスフロームの花を見つけ出さなければならないのだが、精霊たちが議論しても解決策を見出せずにいた。
精霊たちのやり取りを聞いていたルクスが「そういえば」とシーベルトに問いかける。
「シーベルト会長は何か良い案を持っていたりしませんか? 珍しい魔導具を持っていたりするくらいですし。例えば、探しものを見つけられるような魔導具があったりとか」
「うん。あるよ」
「まあそうですよねぇ。そんな都合の良いものがあるはず……」
シーベルトの返しに頷きかけたルクスが顔を跳ね上げる。
「え……?」
「ああ、言葉足らずですまない。その魔導具はあるんだが、手を加える必要があってね」
「……? どういうことです?」
ルクスの問いにシーベルトは「見てもらった方が早いかな」と言って、懐からあるものを取り出す。
それは複数の黒い石の塊だった。
「あ、それは……」
「うん。ロゼッタ君はパズルと勘違いしていたけれどね。実はこれ、物探しに使う魔導具なんだよ」
「そんな魔導具、私は聞いたことありませんが……。何で会長はそんなものを……?」
「魔導具に精通している人が王都の魔法師団の中にいてね。ほら、ダンジョンの新階層があるかもしれないから調査しろって僕に命じた人さ」
「へぇ……」
「とはいえ、これはこのままだとただの石なんだ。解くことで初めて効果を発揮するものなんだが……。その人にも解けなかったからって以前もらったものなんだよ」
「なるほど。確かにそれが解ければアイリスフロームを探す手がかりになりそうですね」
「毎日時間を見つけては解こうとしているんだけどね。まったくできなくて……」
シーベルトはそう言って残念そうに嘆息した。
黒い石のパズルはそれぞれが複雑な形をしており、解くのは容易でないことが窺える。
ロゼッタも受け取り挑戦してみるが、当然というべきか組み上がる気配がない。
「駄目ですね……。構造が複雑すぎてどうやったら良いのかがまったく分かりません」
「ロゼッタ君でも駄目か……。Aクラスの生徒たちにもパズルだと言って渡してみたんだけどね。皆ロゼッタ君と同じようなことを言っていたよ」
ロゼッタは観念したかのように黒い石をシーベルトに返す。
「うーん」
と、その黒い石の魔導具をルクスがじぃっと見つめ、唸る。
そのまま何かを考えること数秒。
「会長、ちょっとそれ貸してくれますか」
「え?」
驚いた表情を浮かべているシーベルトから黒い石を受け取り、ルクスがカチャカチャと音を立て始める。
そして――。
「ここをこうして、と……。できたっ!」
ルクスが手を止めると、そこには組み立てられた匣型の黒い石があった。





