第64話 秘密の共有
「ルクス君、だったね? ちょっと状況がよく分からないんだけど説明してもらえる?」
《ジンの風穴洞》の第2階層、魔力の湧泉にて。
シーベルトは困惑した様子でルクスを見ていた。
いや、困惑というより混乱と言った方が正しいかもしれない。
「こんにちは、シーベルト会長。昨日の生徒会の仕事以来ですね」
「初めまして、じゃの。土の精霊ノームじゃ」
「水の精霊ウンディーネよ。よろしく」
「月の精霊ルーナです」
シーベルトに悪意がないことを確認したルクスは、物陰に隠れていたロゼッタや精霊たちを呼び寄せていたのだ。
結果として、シーベルトは理解が追いつかなくなっている。
「いやいやいや、何でロゼッタ君がいるの? え? ルクス君と知り合いなの? というか、精霊が3体もいるって……」
「会長、落ち着いて」
「そうは言ってもね、ロゼッタ君。この状況で落ち着けって方が無理あるよ」
「まあ、そうかもしれませんが」
そのままではシーベルトが混乱して話が進まないため、ルクスとロゼッタはここに至るまでの経緯を掻い摘んで説明していく。
それによってシーベルトが落ち着く……ことにはならなかった。
「ルクス君……。君は一体何者なんだい?」
シーベルトは呆然とした様子で問いかける。
精霊たちが何故ここにいるのかという経緯や、《白水晶の遺跡》で起きた黒の瘴気発生事件についても当然話をしたのだが、その過程でルクスのことにも触れることになった。
実はルクスには最難関ダンジョンの最下層まで潜れる実力があること。《白水晶の遺跡》での一件も、解決できたのはルクスの力あってのものだということ。
それをロゼッタが称賛に称賛を重ねて言うものだから、シーベルトが驚くのも当然だった。
「話の途中でも何度か聞いたけど、改めて聞くよ。何で君、Fクラスにいるの?」
その問いがシーベルトから出てくるのもまた当然である。
「いやぁ、クラスが上がると自由時間が減るでしょう? この前ロゼッタがウチのクラスで特別講師をやってたのとか良い例ですし。それに俺、そういうのはガラじゃないというか……」
「会長。師匠はですね、三度のご飯よりダンジョン探索が好きなんです。というより、三度のご飯をダンジョン内でとろうとするほどなんです」
「ああうん、なるほどね。残念ながら僕は共感してあげられないけど、理解は何となくできたよ」
シーベルトはそう言って短く嘆息する。
「しかし、先程の話を聞く限りではだいぶ色んなことに首を突っ込んでいるようだけどね、ルクス君は」
「そうですね。でもそれが師匠の良いところでして」
「世話焼き、というかお人好しなのかな。もちろん良い意味でだけど」
「む、師匠の魅力に気付くとは。会長もなかなかやりますね?」
「……ロゼッタ君。僕は君の変貌ぶりにも驚いているんだけど。ルクス君について語る時の君は生徒会にいる時と随分違うよ?」
また溜息。
そしてシーベルトはルクスの後ろに控えている3体の精霊たちに視線を向けた。
「シーベルト会長。今は俺の話より……」
「そうだね、ルクス君。君たちがここまで知っているなら僕からも話がある。というより、君たちにしかお願いできない、かな」
シーベルトはそう前置きして、精霊たちに歩み寄る。
そのまま、金の髪を揺らしてシーベルトは腰を折った。
「お願いします。精霊である貴方たちの力もお貸しください」
「ふむ。一体どのような事情があるか、話してくれるかの?」
真剣な様子で頭を下げていたシーベルトに、ノームは顎髭を擦りながら尋ねる。
その言葉にシーベルトは顔を上げて頷き、視線をノームたちとは別の方に向けた。
「ドライアド。すまないが姿を見せられるかい?」
「……はい。シーベルト様」
シーベルトの言葉に対し、虚空から声がする。
まもなくしてその場に姿を現したのは、力なくうなだれた木の精霊――ドライアドだった。





